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「恵まれない環境」で人助けが生まれやすい理由

  • 2026.2.16
良い選択肢が少ない「恵まれない環境」で、人は寛大に行動する / Credit:Canva

優しい人はどんな状況でも優しく、冷たい人はどんな環境でも冷たいのでしょうか。

イギリスのバーミンガム大学(University of Birmingham)を中心とする研究チームは、私たちの寛大さが「いま置かれている環境」によって大きく揺れ動くことを示しました。

選択肢が豊富な環境よりも、むしろ恵まれない環境のほうが、人は他者に対して行動しやすくなるというのです。

いったいなぜでしょうか。

この成果は2026年2月9日付で、学術誌『Nature Communications』に掲載されました。

目次

  • 「恵まれない環境」の方が人助けしやすいと判明
  • なぜ「選択肢が少ない」と寛大さが増すのか

「恵まれない環境」の方が人助けしやすいと判明

この研究の出発点は、「人はいつ、どんな状況で他人を助けるのか」という素朴な問いでした。

これまでの心理学研究では、独裁者ゲームや信頼ゲームのような経済ゲームを使い、「どれくらい他者にお金を分けるか」がよく調べられてきました。

そのため、利他性は比較的安定した個人の性格や傾向として語られることが多かったのです。

しかし研究チームは、現実の生活場面に目を向けました。

私たちは日常の中で、何かに集中している最中に突然「他人を助ける機会」に出会います。

そのとき、今やっていることを中断するかどうかを瞬時に判断します。

この判断には性格だけでなく、「この先どれくらい良い機会が期待できるか」という、環境からの影響も関わっているのではないかと考えたのです。

そこで研究者たちは、500人以上を対象に3つの実験を行いました。

参加者は自然ドキュメンタリー『Blue Planet II』を視聴している最中に、画面上に「報酬を得るチャンス」が提示されます。

その報酬は「自分のため」か「匿名の他人のため」かのどちらかです。

ただし、そのチャンスを受け入れると映画は一時停止し、ボタンを素早く連打したり、握力計を強く握ったりする身体的な努力をしなければなりません。

つまり、利他的行動には「映画を止める」「疲れる作業をする」というはっきりしたコストが伴うように設計されていました。

さらに重要なのが「環境」の操作です。

参加者は「豊かな環境(rich)」と「恵まれない環境(poor)」の両方を経験しました。

豊かな環境では、金額が大きく、当たる確率も高い“良い機会”が頻繁に現れます。

一方、恵まれない環境では、金額が小さく、当たる確率も低い“悪い機会”が多く提示されます。

どちらの環境でも、提示される報酬は「金額」と「当たる確率」という同じ形式で示されますが、高品質な機会と低品質な機会の出現頻度が異なり、その結果として「平均的な報酬の質」が違ってくるというわけです。

そして実験の結果、参加者は恵まれない環境にいるときの方が、提示されたチャンスを受け入れる傾向が強いことがわかりました。

おおむね同じような報酬条件でも、環境の平均的な質が低い場面では「やってみよう」と思いやすかったのです。

そして、この環境の違いによる影響は「自分のため」の報酬よりも、「他人のため」の報酬で一層はっきり現れていました。

つまり、良い選択肢があまり期待できない環境では、他人を助ける行動が増えやすくなることが示されたのです。

なぜこうした結果になるのでしょうか。具体的に考えてみましょう。

なぜ「選択肢が少ない」と寛大さが増すのか

この結果を理解する鍵となるのが、「機会費用」という考え方です。

機会費用とは、ある選択をすることで「その間に得られたかもしれない、より良い別の機会」を逃してしまうことによる損失を指します。

豊かな環境では、心の中で次のような計算が働きます。

「この先、もっと高い報酬のチャンスが来るかもしれない。別に今じゃなくていい。今ここで映画を止めるほどではない。」

その結果、目の前の「人を助ける機会」も、他の可能性と比較され、見送りやすくなります。

これは必ずしも冷たいからではなく、「より良い選択を選びたい」という、ごく自然な選り好みなのかもしれません。

一方、恵まれない環境では状況が変わります。

「この先も、あまり良いチャンスは来なさそうだ。それなら、今あるこの機会を受け入れても損は少ない。」

つまり、「どうせ他も大差ない」という予測が働き、将来の良い機会を逃す不安が小さくなります。

結果として、目の前の「人を助ける機会」もすぐに採用しやすくなるのです。

現代社会の例で考えると、この感覚は身近です。

寄付やボランティアをしようとしても、「もっとよい団体があるかもしれない」「今は他の大切なことで忙しいから、今度時間のあるときに」と考えるうちに、行動がどんどん先延ばしになってしまうことがあります。

情報や選択肢が多い社会では、「今ここで決めるのはベストではないかもしれない」という迷いが強くなり、小さな善意の機会を見送りやすくなるのです。

逆に、選択肢が少ない場面では「今見えている機会こそが、今日のベストかもしれない」と感じやすくなり、その結果として行動に移りやすくなると考えられます。

さらに研究では、共感性や「多くの人の幸せを重視する」功利主義的な価値観が高い人ほど、他者を助けるときの機会費用を低く見積もる傾向があることも示されました。

一方で、不安や抑うつといった精神的な症状との関連は見られませんでした。

つまり、誰がどれくらい環境の違いに影響されて他人を助けるかには、精神状態よりも「他人の利益をどれだけ大切に感じるか」という価値観も関わっている可能性があります。

今後の課題として研究チームは、今回のような「実験室の中」の状況だけでなく、現実の生活場面でも同じメカニズムが働くのかを検証する必要があるとしています。

また、助け行動に課題を抱えやすい集団において、環境の作り方を変えることで行動の変化を引き出せるかどうかも、重要なテーマになると考えられています。

私たちの寛大さは、生まれつきの性格だけで決まる固定的なものではありません。

共感しやすさなどの個人差に加えて、どのような選択肢に囲まれているかという環境の中で、絶えず計算され、揺れ動いているのだと、この研究は教えてくれます。

参考文献

Scarcity Seems To Make Us Kinder. Here’s Why
https://www.zmescience.com/science/psychology-science/scarcity-seems-to-make-us-kinder-heres-why/

People are more helpful when in poor environments
https://www.eurekalert.org/news-releases/1115675

元論文

Humans are more prosocial in poor foraging environments
https://doi.org/10.1038/s41467-025-66880-9

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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