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政治の分極化は国の発展度合いが高いほど50:50になる

  • 2026.2.14
Credit:GoogleGemini

「話が通じない」「まるで別の世界に住んでいるようだ」——。

近年、SNS上の議論や選挙戦を通じて、自分とは異なる政治的意見を持つ人々との間に、埋めがたい溝を感じることはないでしょうか。

社会が真っ二つに割れる「政治的分極化(二極化)」は、現代社会における深刻な懸念事項となっています。

多くの人は、その原因を「インターネットやSNSの普及によって、極端な意見ばかりが増幅されるエコーチェンバー現象が起きたからだ」と直感的に考えています。

しかし、その捉え方は正しいのでしょうか?

英国・ケンブリッジ大学(University of Cambridge)心理学部のデビッド・ジャック・ヤング(David Jack Young)氏らの研究チームは、この現代的な難問に対し、人間の主観的な「政党支持」のレッテルではなく、実際の政策に対する膨大な回答データを機械学習(k平均法のクラスタリング)で解析するという新たなアプローチで挑みました。

すると、米国社会における分断は、2008年頃を境に急激に進行しており、また思想のパッケージ化(陣営ごとに異なるテーマで回答パターンが揃う傾向)が起きていることが示されたといいます。

また、研究チームは国際比較を行った結果、分断の進行はインターネット普及率では一貫した説明ができず、むしろ関連が疑われるのは「人間開発指数(HDI)」の高さだったという。

HDIは、健康・教育・所得などをまとめて見た国の発展度合いの指標で、途上国ほど低HDIの傾向がありますが、研究は低HDIの国ほど分断が起こらず一党独裁のような状態に近づくと述べています。

これは何を意味するのでしょうか?

この研究の詳細は、2026年2月4日付けで英国王立協会の科学雑誌『Royal Society Open Science』に掲載されています。

目次

  • 「分断」は本当に起きているのか?
  • 意見の「パッケージ化」と中間層の空洞化

「分断」は本当に起きているのか?

「トランプ支持か、反トランプか」「共和党か、民主党か」——。

アメリカの大統領選のたびに、国が真っ二つに割れ、友人や家族ですら政治の話ができなくなる……というニュースは日本でも目にすることが増えました。

この「アメリカ社会の分断」は、私たちにとっても既視感のある光景ですが、実は現地の専門家の間では、これが「本当に人々の仲が悪くなった(分断した)」のか、それとも単なる「データの見え方の問題(錯覚)」なのかという、根本的な議論が続いていました。

なぜ、あの激しい対立が「錯覚」だと言われるのでしょうか? その原因は、政治学で「党派的配列(ソーティング)」と呼ばれる現象にあります。

かつてのアメリカには、「保守的な考えを持つ民主党員」や「リベラルな考えを持つ共和党員」といった、個人の思想と支持政党が一致していない「ねじれた」人々が多く存在しました。当時は、個人の政治的なスタンス(イデオロギー)よりも、住んでいる地域や家族の伝統といった歴史的な理由で支持政党が決まることが多かったためです。

しかし時代が進むにつれ、各政党の方針が明確になり、人々は自分の考えに合った政党を支持するようになりました。「自分は保守的な考えだから、民主党ではなく共和党に行くべきだ」と、思想と所属の不一致を解消し始めたのです。

ここが重要なポイントで、人々の意見そのものが過激化していなくても、この「ソーティング(選別)」が完了すると、共和党は「純粋な保守」、民主党は「純粋なリベラル」の集まりになり、中身の人間が整理整頓されただけなのに、従来のデータ分析では「政党間の距離が急激に開いた(分断が進んだ)」かのように見えてしまう可能性があるのです。

主義主張だけで塊を作るとどうなるのか?

そこで今回の研究チームは、この問題を解決するために、人々の自称する支持政党は一切無視することにしました。

代わりに、アメリカ全国選挙調査(American National Election Studies, ANES)の複数年のデータを使い、政策に関する設問から14項目を選別して、14個それぞれの争点について分析したのです。

ここで行われた分析は簡単に言うと、各人の政策回答を「意見の地図」の上に配置し、機械学習(k-means法)を用いて地図上で似た回答の人が固まる場所を探し出して2つの塊(クラスター)に分け、その2つの塊が年を追ってどれだけ離れたかを見るというものです。

イメージしやすい例えで考えるならば、ある広場に集まった人に、「中絶は反対か? 賛成か?」を訪ね、その意見の強さで右か左に移動してもらったとします。

そしてその人達はどちら側にいるかで2つの塊にわけて線を引き、人の多いポイントをグループの中心点とします。それぞれのグループの中でも「まあ、ケースバイケースだよね」という穏健な意見の人は中心に近い場所に立っていますが、「どちらかと言えば反対だな(賛成だな)」という人の集まりが増えて少しずつ左右に広がっていくと、集団の中心点は離れていくことになります。

研究チームは、この「距離」を税金や同性婚など14個のテーマすべてについて計算し、総合的なスコアを出しました。 つまり、あらゆる話題において、二つの集団の距離(意見の重心)がどのくらい離れているかを数値化したのです。

もし人々の意見は昔と変わっておらず、意見ごとの棲み分けが進んだだけで、「分断」が錯覚(ソーティングの影響)に過ぎないなら、純粋な意見だけで作ったグループ間の距離は、昔と変わらないはずです。 しかし、結果は違いました。

分断が加速したのは「2008年」から

1988年から2024年までのアメリカ全国選挙調査(ANES)のデータを分析した結果、明確な傾向が浮かび上がりました。

まず、政策に対する意見に基づくグループ間の距離、すなわち「分離(Separation)」は、この約40年間で着実に拡大していました。

しかし、その変化は一定のペースで進んだわけではありませんでした。

データによれば、1988年から2008年頃までは、分断の度合いは比較的横ばいの状態が続いていて、あまり変化していませんでした。

ところが、2008年から2020年にかけて、意見の異なるグループ同士の距離は急激に広がり、社会的な合意形成が困難な状態へと突き進んでいたのです。

一方で、興味深いことに、各グループ内部の意見のばらつき具合を示す「散らばり(Dispersion)」には大きな変化が見られませんでした。

ここから考えられることは、集団の中には相変わらず穏健な人もいれば強硬な人もいて、意見の幅は広いままですが、集団全体の位置(平均的なスタンス)が互いに遠ざかってしまったため、かつては重なり合っていた「真ん中の共有スペース」が消滅してしまった可能性です。

意見の「パッケージ化」と中間層の空洞化

このような状況が生じた背景について、論文は「意見のパッケージ化」という表現で説明しています。

昔はバラバラだった意見がセットになり、「Aについて保守なら、BについてもCについても保守」という状態が生じており、異なるグループ間で、「どの話題についても合意できない」断絶が起きやすくなっている可能性があるというのです。

誰にでもこだわりのあるテーマと、特に興味のないテーマというものがあります。

例えば、ある人が「経済政策」で保守的な立場をとっていても、「中絶」や「環境問題」についての意見はケースバイケースで曖昧な意見しかないということは珍しくありません。

しかし、研究結果は、この傾向が近年変化していることを示していました。

現代では、「経済で保守的な立場をとる人は、中絶や銃規制といった文化的・社会的な課題に対しても、高い確率で保守的な立場をとる」というパターンが固定化されつつあったのです。

これは保守やリベラルの人たちの意見が極端に過激化したというよりも、グループ全体が「すべての議題で特定の傾向を示す」ようになったため、かつては存在した「経済では対立するが、文化では合意できる」といったグループ間の意見の重なりが構造的に減少し、合意形成が困難になっている可能性を示唆しています。

インターネット普及率と分断の複雑な関係

では、何がこのパッケージ化を加速させたのでしょうか?

2008年以降、分断が激化しているというデータ的背景と、意見のパッケージ化という現象を併せて考えると、直感的に思い浮かぶのは、スマートフォンの登場やSNSの普及による影響でしょう。

しかし、この研究では、この直感に対して慎重な見方をしています。

研究はアメリカのケースだけでなく、世界57カ国において、同様に社会の分断(グループ間の距離やサイズの不均衡)を分析していますが、インターネットの普及率(人口あたりの利用者数)と、各国の社会の分断との間には、一貫した統計的な関連性が確認されなかったのです。

国の豊かさなどの要因を考慮して補正を行うと、むしろネットの普及が分断とは逆の傾向を示すケースさえありました。

この結果は、「ネットの普及だけが、社会を分断した要因ではない」可能性を示唆してます。

とはいえ、研究者はこの結果をもって「インターネットは無関係である」と断定するべきではないという慎重な姿勢を取っています。

米国において分断が急激に加速した2008年から2020年という時期は、まさにSNSの普及期と重なっています。

インターネットの「普及率(量)」自体が相関しているように見えないとしても、この大雑把な値だけでは読み取れない背景が潜んでいる可能性はあり得ます。

SNS特有の機能である「エコーチェンバー現象」(自分と似た意見ばかりが表示され、異なる意見が見えなくなる環境)などが、前述した「意見のパッケージ化」を促進し、対立を深めるための効率的な「環境」として機能した可能性は残されており、複合的な要因の一つとして捉える必要があるでしょう。

ただ、今回の研究はインターネット普及率よりも、もっと相関性の高い指標も発見しています。

「豊かさ」が生む構造的な対立

インターネット以上に、本研究が分断の構造的な要因として関連を見出したのが、国の発展度合いを示す「人間開発指数(HDI)」です。

これは単なる経済指標ではなく、「健康(平均寿命)」「教育(就学年数)」「所得(生活水準)」という3つの要素を組み合わせて算出される、その国の社会的な成熟度を測る指標で、一般的に途上国ほど低く、先進国で高くなる傾向があります。

論文では、政治学者イングルハートらの近代化理論を引用し、HDIの上昇が人々の価値観を根本的に変化させると説明しています。

生存や安全が脅かされる発展途上の段階では、人々は集団の規範や権威に従うことを重視します。

そのため、社会の大多数が「伝統的な保守層」で占められ、価値観が統一されやすくなるため、数値上の分断は目立ちにくくなります。

しかし、国が豊かになり教育水準が上がると、生存の不安が解消されるため、個人の自律や選択の自由を求める「解放的価値観」——いわゆるリベラルな価値観を持つ人々が増加します。

その結果、高HDIの先進国においては、従来からの保守層と、新しく台頭したリベラル層の人口比が拮抗し、社会構造が「50対50」に近い状態になります。

つまり、先進国で見られる激しい政治的分極化は、「社会が発展し、異なる価値観を持つ勢力が、互角の力を持って対峙する構造になった結果」として生じる現象であると、研究からは示唆されるのです。

そして、その対立の火種となっているのが、経済的な利害よりも、中絶や同性愛といった個人のアイデンティティに関わる「文化的課題」であることも明らかになりました。

政治的分極化や分断は、好ましいことではありませんが、それはその国の国民が、健康や教育、所得といった様々な面で豊かになった証しなのかもしれません。

元論文

A new measure of issue polarization using k-means clustering: US trends 1988–2024 and predictors of polarization across the world
https://doi.org/10.1098/rsos.251428

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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