1. トップ
  2. 恋愛
  3. 格差の連鎖を断ち切る足立区へ…女性区長の先駆けとして5期目となる今もなお抱く「つまずかない覚悟」【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.44】

格差の連鎖を断ち切る足立区へ…女性区長の先駆けとして5期目となる今もなお抱く「つまずかない覚悟」【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.44】

  • 2025.12.12

大学のキャンパスに親子で足を運び、「未来」をリアルに感じられるようになった足立区。若い世代が街に増え、おしゃれなお店が生まれる一方で、防災では“災害関連死ゼロ”に向けた取り組みとして、備蓄強化や在宅避難の支援など、区民を守る取り組みも進んでいます。地域のつながりが薄れる中でも、「顔の見える関係」を大切にしたい——。そんな想いでまちづくりを続ける近藤弥生区長に、弱点克服から“やりたいことが叶うまち”へ向かう足立区の今と、区長としての歩みを伺いました。

お話を聞いたのは…

足立区 近藤やよい区長

1959年4月生まれ。東京都足立区出身。青山学院大学大学院経済学博士前期課程修了。その後、警視庁警察官(1983年4月〜1989年1月)、税理士(1996年8月〜)、東京都議会議員(1997年7月〜2007年3月)を経て、足立区長就任(2007年6月20日就任、2023年6月20日から5期目)。趣味は寺社巡り、写経。座右の銘は「継続は力なり」。

>>足立区公式HP 区長紹介ページ

―いま足立区には6つの大学があります。子どもたちへの影響をどのように感じていますか。

近藤区長:大学生が身近にいる環境は、子どもたちの将来形成にとても大きな効果をもたらすと思います。私自身も、若い頃は大学がどんな場所なのか具体的にイメージが持てませんでした。ところが今の足立区では、親子で大学のキャンパスに行き、リアルに「未来」を感じられる。これは格差の連鎖を断ち切る大切な一歩です。

―大学との連携はどのように進んでいますか。

近藤区長:東京電機大学ではAIやコンピューター関連の授業を、文教大学では学生が子ども食堂や支援活動に参加し、東京藝術大学とは音を使ったまちなかアートプロジェクトなど、大学ごとの個性を生かした連携が広がっています。教授が中心となり、学生たちが地域で活躍する場になっているのも魅力です。

―大学生がいることによる、まちづくりの効果はどのようなものですか。

近藤区長:驚くほど大きいですね。若者が集まるだけで、新しいお店や資本が自然と流入してきます。千住エリアはかつて“飲み屋横丁”のイメージでしたが、路地裏におしゃれな店が生まれ、多様性のある魅力的な街に変化しました。バランスがちょうどいいかなと思いますね。色々な方が集まります。さらに、今年は千住宿開宿400年で、にぎわいはさらに広がっています。

―足立区は住宅密集地もあるので、防災というのは非常に重要な課題だと思います。今、力を入れている防災対策はどのようなものですか。

近藤区長:災害関連死ゼロに向けた対策に本格的に舵を切りました。避難所の衛生環境を整えるため、段ボールベッドから折り畳み式スチール製のベッドへ移行し、備蓄量も大幅に増やしています。能登半島地震では1日半で備蓄が尽きたという話もあります。足立区でも同じことが起きないよう準備をしています。

―在宅避難を促す動きもあると伺いました。

近藤区長:はい。区としては、まずは在宅避難、次に親戚や知人の家に避難する縁故等避難、最後に避難所への避難という「分散避難」をすすめています。倒れない・水没しないご自宅にお住いの方には、在宅避難を推奨し、そのためにもマンション備蓄を支援しています。またトイレ問題は深刻な課題で、従来の仮設トイレは汲み取りが必要になるため機能しなくなる可能性があります。そこで“一回ごとに廃棄できる携帯トイレ”への切り替えを急いでいます。

―ゲリラ豪雨や線状降水帯など、日々災害が身近になっていますね。

近藤区長:本当にそうですね。足立区は四方を川に囲まれて、地盤の脆弱なところもあるので、水害と地震対策の両方が必要ですね。しかも、最近は23区内でも降雨量に大きな差が出るなど、局地的災害が増えています。だからこそ区民が「日常の延長で災害対策が必要だ」と意識できるよう、区としてできる備えを進めています。

―防災の観点からも地域のつながりは重要と思いますが、新しい住民も多い中、地域コミュニティについては、どのように感じていますか。

近藤区長:現状は厳しいです。町会・自治会の加入率、PTAの加入率は着実に下がっています。しかし、避難所運営の要になるのは町会・自治会の方々。町会等に加入しないまでも「顔の見える関係」をつくることが不可欠です。

―具体的にどのような支援を行っているのですか?

近藤区長:子ども向けイベントを開催する町会・自治会には独自に支援を行っています。加入していなくても参加しやすいイベントをつくることで、自然なつながりが生まれる場を増やしています。盆踊りも高齢化でやぐらが組めない町会・自治会があり、来年度からはやぐら設置費用の支援を区として行う予定です。

―地域の集まりには、女性にとっては、ちょっと関わりたくない場で、地方ではそれが人口流出の理由の一つになっていたりします。その点はいかがでしょうか。

近藤区長:はい。イベントの裏方、賄い、ゴミ片付けなど、実は女性部の負担が非常に重い。地域の高齢化に伴う担い手不足は深刻です。だからこそ区としては、“やりたい人が参加しやすい環境”を整える必要があると思っています。

―足立区は4つのボトルネック的課題の解消に力を入れてこられたとお聞きしましたが、今後は、どのようなまちづくりを目指したいと思われていますか。

近藤区長:弱点克服のステージが一定の成果を出し、今は「魅力を創り、広げる」段階に入ったと思います。審議会でも専門家や区民の方から「これまでの安心を支える取り組みに加え、活力の創出にも力を入れるべき」と提言がありました。

―次のステージというのは具体的にどのようなものですか。

近藤区長:魅力を創ったり広げたりする推進エンジンは、区民一人ひとりの持つ「想い」―こんなことをやってみたいとか、こんな人生を生きてみたいというような想い―ですね。その想いが足立区だからこそ形にできる。夢や希望を持つだけでも大変なことだと思うんですけど、それが思った通りに行くかどうかは別にしても、一つ一つ前進できる、それに向かって進んでいくお手伝いができる自治体でありたいということですね。

―区長ご就任から5期目。女性区長の先駆けとして、どんな思いで続けてこられましたか。

近藤区長:最初は「女に首長が務まるのか」という噂が立ったほどです。私がつまずけば“だから女性はダメなんだ”と女性全体に烙印が押される。そう考えると、絶対に失敗できないという思いは常にありましたね。

―政治に女性が増えてきた現在、何を感じますか。

近藤区長:女性が政治に関心を持ち、声を上げることはとても大切です。政治家になるかならないかではなく、市民が成熟し、社会に対して意見を持って発信していくことで政治や行政は変わっていく。多様な声が区政に届く仕組みをつくることが、これからさらに重要になります。

―区長職のやりがいは何ですか。

近藤区長:自分の思いでアプローチできる自由度、そして区民の方の生活に直結する施策を実現できる責任の重さですね。長く続けさせていただいているのは、区民の方の期待があってこそだと思っています。その重さを受けとめつつこれからも足立区の歩みを止めず、前に進めていきたいと思っています。

取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生

政治ジャーナリスト 細川珠生

聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。

(細川珠生)

元記事で読む
の記事をもっとみる