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観光のまち熱海市が子育て支援を充実「住まうまち熱海」を掲げ展開する施策とは【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.39】

  • 2025.10.31

観光のまち・熱海を舞台に、「子育てだけは削らない」と歩み続けてきた齊藤栄市長。財政再建という厳しい現実の中でも、子どもたちの笑顔を守るために力を尽くしてきた。中学生までの医療費無償化から始まり、今では高校生(18歳)まで対象を拡大。発達支援施設「IPPO(いっぽ)あじろ園」や質の高いこども園づくりなど、その一つひとつに市長の優しさが息づく。「観光は手段。暮らす人の幸せが目的です」──その言葉に、熱海の未来が重なる。

お話を聞いたのは…

熱海市 齊藤栄市長

1963年3月生まれ。東京都出身。東京工業大学工学部土木工学科卒業、東京工業大学大学院修士課程(土木工学専攻)修了(うち、1986年~1987年に米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校へ交換留学)。1988年4月に国土庁(現国土交通省)入庁。その後、学校法人滋慶学園 勤務、国会議員(衆議院)政策担当秘書を経て熱海市市長に就任。現在5期目。

>>熱海市公式HP 「市長の部屋」

―まず、熱海市の子育て支援についてお聞きしたいのですが、市長ご就任以来、厳しい財政状況の中で、どのように子育て支援を充実させてこられたのですか。

齊藤市長:市長就任してすぐに財政の立て直しに取り掛かり、就任翌年の2007年に5年間での財政健全化を目指して「行財政改革プラン」を始めました。その結果、5年間で赤字を6割削減しましたが、その間は、市役所もとても苦しかったと思います。とにかく、「削る」ことばかりですから。ただ、その中でも子育ては重要なので、2011年には中学生までの医療費を無償にしました。これは伊豆半島内では一番早く始めたんです。さらに、2018年には高校生まで無償化に拡大しました。しかも当初から所得制限なしです。

―財政は、当初は、かつて北海道夕張市がなったような財政破綻自治体の、一歩手前だったようですが、行財政改革で削減、削減の中でも、子育て支援を拡充していったのは、どうしてですか。

齊藤市長:熱海は、観光が産業のまちなので、当然、そこに力を入れざるを得ないのです。それと同時に、「住まうまち熱海」と言うキャッチフレーズを掲げていますが、住民の満足度を上げていく、それが私、市長の仕事だからです。

―とはいえ、財源が厳しい中で、「無償化」って財源が必要ですし。

齊藤市長:市長の仕事、というか、目的ですね。観光は主産業でありますが、手段だと思っているんです。観光で稼いでいただいて、皆さんも所得を上げて、市としては、税収で福祉を充実させるという「住民の福祉の向上」が市長のゴールだと常に思っています。そういったことから、財政が厳しい中でも、教育も含めてですが、子育て支援は充実させていこうと思ってきました。

―無償化は全国的なトレンドですが、熱海は早くから実施されていたのですね。それも所得制限なしで。

齊藤市長:行政としては、所得の高い人からはいただくというのは正しいんです。でも、熱海市は、お金持ちもそうではない人も、一緒にするのは、シンプルでわかりやすいじゃないですか。なので、所得制限は設けていません。

―素晴らしいです。

齊藤市長:発達障害に関する対応も、2015年度に市の単独事業(国や県の補助事業ではない)として「IPPO(いっぽ)あじろ園」を開設しました。これは特別な支援を必要とするお子さんに対しての療育施設ですが、グレーゾーンにあるお子さんでも、早くから、それこそ1ヶ月でも1週間でも一日でも早く専門的な対応が受けられるのがいい、と専門家からの助言を受けて、それには、療育環境や自己肯定感の得られる環境が重要だというので、とにかくまずは市の単独でもということで、始めました。

―それまではなかったのですか?

齊藤市長:なかったですね。熱海市では初めての施設です。2019年度からは児童福祉法に定める「児童発達支援センター」として、国の補助事業になりました。

―素敵なこども園があるというのも、聞きました。

齊藤市長:「あたみこども園」ですね。小学校の空き教室をリノベーションして作ったのですが、ただ格好いいということではなくて、子どもの発達をサポートするには、どういう意匠がいいのかという観点からの設計になっているんです。例えば、わざと段差をつけたり、風を感じたりなど。あとは教育プログラムにも則した造りになっています。

―本当に素敵ですね。お金もかかりましたね。

齊藤市長:はい、かなりかかりました。でも、2園目を、市内の別の地区に造ります。海を一望でき、屋上も園庭にします。あと、長浜海浜公園に大型遊具を整備したのですが、これがとにかく好評です。市内のお子さんのために作ったのですが、観光で来られた方や近隣の市の方たちも、遊びに来てくださいます。合わせて、市内の公園にお子さんを連れていく際の市営駐車場の無料券というのも、子育て世帯に配布しています。

―徹底して、子育て世帯に手厚い施策をされていますが、今後はどんなことに取り組みたいですか。

齊藤市長:熱海って、移住者が多いと言われていますが、多くはシニアの皆さんです。人口約3万3千人で世帯数にすると2万1千世帯ですが、それとは別に別荘をお持ちの方が9千世帯います。シニアの方の移住もありがたいのですが、本音を言えば、子育て世帯の方に移住してもらいたい。熱海で生まれ、育ち、仕事をしてもらいたいって思いますが、それには住宅政策が必要です。今は、高級なリゾートマンションか、老朽化した古い家の両極端で、山からすぐに海という地形の問題もありますが、リノベーションなども進められるよう、規制を緩和して良質な住宅が増やせるようにしていきたいと思っています。

取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生

政治ジャーナリスト 細川珠生

聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。

(細川珠生)

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