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「かえって年金が減ってしまう」お金のプロが警告。60歳以降に働き続けた人の“末路”…収入を減らさない「賢い働き方」とは

  • 2026.2.17
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「働けば働くほど、もらえる年金が減ってしまう」――そんな不可解な話を聞いたことはありませんか? まさに「年金を増やすために頑張っているのに、なぜか手取りが減ってしまう」というジレンマに直面している方も少なくありません。この現象の裏には、「在職老齢年金」という制度が深く関わっています。一体、この制度はどんな仕組みで、なぜ働く意欲を削いでしまうのでしょうか? そして、私たちはどのようにすれば、この制度と賢く付き合い、自分らしい働き方を見つけることができるのでしょうか? 今回は、社会保険や年金制度に詳しい専門家 柴田 充輝さんに、在職老齢年金に関するよくある誤解と具体的な対策を詳しく伺いました。

働くと年金が減るってホント? 在職老齢年金の基本を解説

---「年金を増やすために働いているのに、かえって年金が減ってしまう」という話を聞きます。この「在職老齢年金」とは一体どんな制度で、どのように計算されるのでしょうか?

柴田 充輝さん:

「『年金を増やすために働いているのに、かえって年金が減ってしまう』という事態を引き起こす代表的な制度が、在職老齢年金です。

この制度は、60歳以上で厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受け取る場合、賃金と年金の合計額が一定の基準を超えると、超過分に応じて年金の一部が支給停止(減額)されるというものです。

『給料をたくさんもらってる高齢者は、年金カットしても大丈夫でしょう』という、個人的にも謎の制度です。この制度で、働く気をなくしてしまう60歳以上の方も少なくありません。

ちなみに、計算で重要な数字は以下の2つです。

・基本月額:老齢厚生年金の報酬比例部分を月額換算したもの
・総報酬月額相当額:標準報酬月額 + 直近1年の標準賞与額÷12

たとば、以下のケースで考えてみましょう。

・基本月額:15万円
・総報酬月額相当額:30万円 + 120万円÷12 = 40万円
・合計:55万円

2025年度(令和7年度)の基準は月51万円で、『55万円 - 51万円 = 4万円』が基準を超過しています。この場合、超過している半分である『支給停止額:4万円 ÷ 2 = 2万円』が、年金カットされます。

たまに見かける勘違いとしては、判定には賞与(ボーナス)も年間平均で含まれる点を見落としてしまっている点です。月給を抑えていても、賞与が多いと総報酬月額相当額が想定より高くなり、『年金が止まった』という事態が起きます。

なお、基準額(支給停止調整額)は毎年・制度改正で変動します。特に令和8年(2026年)4月からは、基準が月51万円→月65万円へ大幅に引き上げられる予定です。古い情報のまま判断すると、認識が大きくズレる可能性がある点に注意しましょう。」

こんな働き方に注意! 年金が減るケースと長期的な損得

---具体的にどのようなケースで在職老齢年金の対象になり、年金が減額されてしまうのでしょうか? また、「年金が減る=損」と単純に捉えてしまって良いのでしょうか?

柴田 充輝さん:

「典型的なのは、『働き方を変更した結果、厚生年金に加入することになり、在職老齢年金の調整対象になってしまった』というケースです。

在職老齢年金の対象となるのは、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給している人です。これまで加入要件を満たしていなかった方が、労働時間や労働条件の変更で厚生年金の加入対象になった途端、収入次第では老齢厚生年金が減ることがあります。

たまに見られるのが、『体力的にも精神的にも余裕があるから、ほぼフルタイムで働くようになった』というケースです。ここ数年は賃金が上昇しているため、非正規雇用でもほぼフルタイムで働けば、月収30万円~35万円程度になる可能性があります。ボーナスや年金を含めると、在職老齢年金の基準額を超えてしまうケースが実際にありました。

その他の注意点としては、『年金が減る=損をする』とは限らない点です。厚生年金に加入して保険料を納めれば、将来受け取る年金額は増えます。目先の減額を避けるために就労を過度に制限すると、生涯で受け取る総額ではかえって不利になることもあります(トータルの損益は、寿命によるのが難しいところではあります)。

大切なのは、目先の手取りだけでなく、長期的な収入全体を見据えて働き方を判断することです。特に公的年金は終身にわたって支給されるため、長生きリスクに備えるうえで欠かせません。特に収入状況が『基準停止額の前後』という方は、細かいことは気にせずに働くのも、選択肢の一つです。」

年金を減らさず賢く働くには? 知っておくべき確認ポイントと心の持ち方

---在職老齢年金による年金減額を避けるため、あるいは賢く働くためには、具体的に何をすれば良いでしょうか? 働き方を変える選択肢や、制度以外の視点もあれば教えてください。

柴田 充輝さん:

「年金を減らさないための働き方を考えるには、まず自分の状況を正確に把握することが出発点です。

具体的には、老齢基礎年金と老齢厚生年金それぞれの受給額と開始時期を確認し、今後働いた場合に厚生年金の被保険者になるのかどうかを整理しましょう。

そのうえで、在職老齢年金の判定に使われる『基本月額』と『総報酬月額相当額』の二つの数字を把握します。総報酬月額相当額には毎月の給与だけでなく、直近1年間の賞与を12で割った額も含まれる点を見落とさないようにしましょう。

次に確認すべきは、在職老齢年金の基準額です。この基準額は年度によって変わるため、『いつの数字か』が重要です。令和7年度は月51万円ですが、令和8年(2026年)4月以降は月65万円に引き上げられる予定です。

ここまで整理できたら、実際に試算して数字で確認します。『ねんきんネット』を使えば、働き方の条件を変えながら年金見込額をシミュレーションできます。手元に『ねんきん定期便』があれば、公的年金シミュレーターで概算をすぐに確認することも可能です。

なお、それなりに収入を得ている方で、勤務先と交渉の余地がある場合には、雇用契約を業務委託契約に切り替えて個人事業主として働くという選択肢もあります。個人事業主は厚生年金に加入しないため、在職老齢年金による減額の対象になりません。同じ仕事をしていても、契約形態が雇用か業務委託かによって年金への影響がまったく異なるのです。

最後にお伝えしたいのは、年金や働き方の制度面だけに目を奪われないでほしいということです。『何歳まで働きたいのか』『仕事を離れた後、どのような毎日を過ごしたいのか』という問いに向き合うことは、制度の数字を確認することと同じくらい大切です。年金額を最大化することが目的になってしまうと、本来やりたかったことや大切にしたい時間を後回しにしてしまいかねません。

私生活の充実に向けた準備は、お金の準備と同じように時間がかかるものです。健康で体力のあるうちに始めておくことで、仕事を徐々に手放していく過程も前向きに受け入れられるようになります。過去に『DIE WITH ZERO』という書籍が注目されましたが、『自分らしい老後の暮らし』を描くことも意識してみてください。」

年金との付き合い方:制度を知り、自分らしい働き方を見つける

「年金を増やすために働いているのに、かえって減ってしまう」という一見不条理な「在職老齢年金」制度。特に、ボーナスも算定対象となる点や、基準額の変動、そして令和8年からの大幅な引き上げなど、最新の正確な情報を把握することの重要性が再認識できました。

また、「年金が減る=損」と短絡的に捉えるのではなく、厚生年金加入による将来の年金額増加や、長期的な生涯収入を見据えた判断が大切です。働き方によっては、雇用契約を業務委託に切り替えることで、制度の対象外となる選択肢があることも、非常に実践的な情報と言えるでしょう。

しかし、最も大切なのは、制度の数字に縛られすぎず、「自分は何歳まで働きたいのか」「仕事を離れた後、どんな毎日を送りたいのか」という問いと向き合うことです。お金を最大化することだけが目的ではなく、健康なうちから「自分らしい老後の暮らし」を具体的に描き、それに向けた準備を進めることが、心豊かなセカンドキャリアを築く上で何よりも重要です。


監修者:柴田 充輝

厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1200記事以上の執筆実績あり。保有資格は1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任士など。