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『手帳がないと申請できない』は間違いだった。現役世代も知っておくべき「障害年金の仕組み」とは?【社労士が解説】

  • 2026.2.16
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「障害年金」という言葉を聞いた時、あなたはどんなイメージを持つでしょうか。「高齢者のもの」「身体障害者手帳がないと申請できない」そう思っている方も多いかもしれません。

しかし、実はうつ病での長期休職や、がんの治療による後遺症など、現役世代にも深く関わる制度であり、生活を支える大切な選択肢になり得るのです。

なぜこの制度は正しく伝わらないのか、どんな人が対象になるのか、そして申請の第一歩はどう踏み出せば良いのか。

今回は、あゆ実社労士事務所の加藤あゆみさんに障害年金に関する知っておくべきポイントを伺いました。

多くの人が持つ「障害年金」の誤解とは?

---障害年金は高齢者のもの、障害者手帳がないと申請できない…そんな思い込みが広まっています。この制度が正しく伝わらないのはなぜでしょうか?

あゆ実社労士事務所:

「『自分には関係ない』と思っていた制度が、実は今の生活を支える選択肢だったと気づく瞬間があります。

障害年金という言葉を聞いても、多くの現役世代は高齢者のものだと感じています。『障害』という言葉から身体障害者手帳を思い浮かべたり、年金は65歳からという思い込みがあったりするためです。うつ病で長期休職中の方が『もう働けないかもしれません』と相談してきた時、障害年金の話をすると『え、年金って65歳からじゃないんですか』と驚かれます。中には『障害者手帳を持っていないと申請できない』と勘違いしている方もいます。制度の存在そのものが正しく伝わっていないのです。

この情報の届きにくさには、仕組み上の問題があります。障害年金は申請主義の制度です。自分から動かなければ、誰も教えてくれません。しかし病気やケガで苦しんでいる時期は、情報を調べる元気も体力もありません。ある社員は半年間の休職中、ずっと自宅で療養していました。復職面談の時に『お金の不安で眠れなかった』と話していました。傷病手当金はもらっていたのですが、障害年金という選択肢を知らなかったのです。貯金を取り崩しながら、一人で不安を抱えていました。

病院でも積極的に情報を教えてくれるわけではありません。医師は治療には全力を注ぎますが、社会保障制度の案内までは役割として担っていないことが多いのです。患者側から聞かない限り、話題に上りません。また、年金事務所や市区町村の窓口に相談に行くこと自体が、体調の悪い状態では大きなハードルです。予約を取って、平日の昼間に出向いて、複雑な説明を受け止める。この一連の動きが、療養中の方には想像以上に大変なのです。

知らなかったことは責められることではありません。でも、知った後は動くことで初めて支援につながります。企業側としては、休職制度の説明をする時に、傷病手当金だけでなく障害年金という選択肢があることを一言添えるだけでも、情報の届き方は大きく変わると思います。産業保健スタッフや人事担当者が基本的な知識を持っておくことで、『もしかしたら使えるかもしれません』という一言が、その人の生活を守る第一歩になるのではないかと感じています。」

「障害」とは見た目で判断される?意外な対象と認定基準

---障害年金は「障害」という言葉から、特定の病気や見た目でわかる状態が対象と思われがちです。どのような状態であれば申請の対象となるのでしょうか?

あゆ実社労士事務所:

「診断名の重さと、生活の困難さは必ずしも一致しません。障害年金は病名で判断されるのではなく、『日常生活や仕事にどれだけ支障があるか』という状態で判断されます。対象は体の障害だけでなく、精神の病気や内臓の病気も含まれています。現役世代でよく見られるのは、うつ病や双極性障害といった精神の病気、がんやその治療による後遺症、糖尿病の合併症などです。

たとえば、うつ病で休職中の30代の方がいました。一見すると普通に会話もできます。身の回りのことも何とかできています。でも実際には、朝起きられない日が続いていました。料理や買い物などの家のことがほとんどできません。人と関わることに強い不安を感じていました。このように、見た目では分かりにくい状態でも、生活や仕事に大きな支障がある場合は障害年金の対象になり得るのです。

申請できる状態の目安として、障害認定基準では『日常生活の力』や『働く力』がかなり制限されているかが重視されます。精神の病気の場合、『一人で外出できない』『お金の管理ができない』『人との関係が保てない』といった具体的な困難が続いている状態が当てはまります。ここで勘違いされやすいのは、『全く働けない状態でなければ申請できない』という思い込みです。実際には、障害の等級によってもらえる年金額は違いますが、ある程度働きながらもらうことも可能です。障害厚生年金の3級は『仕事がかなり制限を受ける程度』とされています。短時間勤務や軽い作業しかできない状態でも当てはまる可能性があります。

もう一つ大事なのは、初診日から1年6か月経った時点での状態が基準になることです。病気になってすぐに申請できるわけではありません。一定期間の治療を経た上で、それでも障害が残っている場合に対象となります。ただし、ここで注意したいのは、状態だけ満たせば必ずもらえるわけではないということです。実際の受給の可否は、保険料の納付状況や初診日の確認、医師の診断書の内容など、複数の要件を総合的に見て判断されます。年金事務所や専門家による個別の判断になるため、まずは相談してみることが大切だと思います。

企業側としては、長期休職している人に『まずは治療に専念してください』と伝えるだけでなく、一定期間経った時点で障害年金という選択肢があることを伝える配慮があると良いと思います。本人のお金の不安が軽くなるはずです。」

申請の「最初の一歩」は何から始める?スムーズに進めるためのステップ

---障害年金が自分にも関係あると分かっても、いざ申請となると何から手をつければ良いか迷ってしまいます。具体的な申請ステップや相談先について教えてください。

あゆ実社労士事務所:

「障害年金の申請を考える時、出発点となるのは『初診日』の確認です。これが確定しないと、そもそも申請自体ができません。初診日とは、今の障害の原因となった病気やケガで初めて医師の診療を受けた日のことです。たとえば、うつ病で精神科を受診する前に、内科で『眠れない』『食欲がない』と相談していた場合、その内科の受診日が初診日になる可能性があります。ある方は『5年前に心療内科を受診したのが最初だと思っていたら、その前に内科でうつの症状を訴えていたことを思い出した』と話していました。初診日の特定には、慎重な確認が必要です。

次に確認するのが『保険料の納付状況』です。初診日の前日時点で、一定期間以上の保険料を納めているか、または免除を受けているかという条件があります。具体的には、初診日の前々月までの1年間に未納がないこと。もしくは初診日の前々月までの全期間の3分の2以上の期間で納付または免除されていることです。この条件を満たさないと、たとえ障害の状態が重くてももらえません。年金事務所で年金記録を照会すれば、すぐに分かります。そして最後に『障害の状態』を確認します。この3つが揃って初めて、申請の準備が整います。

相談先としては、まず年金事務所や街角の年金相談センターがあります。無料で相談でき、自分の納付状況やもらえる可能性について確認できます。精神の病気や複雑なケースの場合は、障害年金を専門に扱う社会保険労務士に相談する方法もあります。ある方は『自分で調べても分からず、社労士に相談したら「これは当てはまる可能性が高いですよ」と言ってもらえて、やっと前に進めた』と話していました。

主治医との連携も欠かせません。障害年金の申請には医師の診断書が必須です。診察の時に『こういう場面で困っている』といった具体的な状況を丁寧に伝えることが大切です。知った後は、小さな一歩でも踏み出すことで道が開けます。企業側としては、休職している人や体調不良で働き方に制限がある社員に対して、『年金事務所や社労士に相談してみてはどうですか』と一言添えるだけでも、本人にとって大きな安心材料になると感じています。」

知らなかったではもったいない!障害年金が支える「もしも」の安心

今回、あゆ実社労士事務所の専門家の方からお話を伺い、障害年金がいかに誤解されやすく、しかし多くの現役世代の「もしも」を支える重要な制度であるかが見えてきました。

高齢者のもの、障害者手帳が必要といった思い込みは、情報が届きにくい制度の仕組みと、病気やケガで苦しむ中で情報収集が難しいという現実が重なり合って生まれています。

しかし、見た目では分かりにくい精神疾患や内臓疾患であっても、日常生活や仕事に支障があるならば対象となる可能性があり、働きながら受給することも可能です。

お金の不安は、病気や療養中の大きなストレス源になりかねません。この制度を知り、専門家へ相談するという小さな一歩が、その後の生活の大きな安心につながります。

もし今、ご自身や大切な人が体調に不安を抱えているなら、まずは「初診日」「保険料の納付状況」「現在の障害の状態」を確認し、年金事務所や社会保険労務士に相談してみてはいかがでしょうか。


監修者:あゆ実社労士事務所 人材育成・キャリア支援を軸に約10年の実務経験を持つ、社会保険労務士/国家資格キャリアコンサルタント。 IT企業の人事として、新卒・若手育成、研修設計、評価・キャリア支援の仕組みづくりに携わる一方、個人では企業や個人に向けたキャリア相談・人事支援を行っている。 これまでに累計100名以上のキャリア面談を実施し、1on1制度設計や面談シートの設計、育成施策の言語化を支援。 近年は生成AIを活用した業務設計・人事業務の効率化にも注力し、「現場で使えること」を前提にしたAI活用の伴走支援を行っている。"