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「大丈夫です」と繰り返す患者。現役ナースが気づいた、良かれと思って“言っていた言葉”の落とし穴。

  • 2026.2.10
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科病棟で働いていると、患者さんにどんな言葉をかけるべきかを、何度も自分に問い直す場面があります。特に退院を見据えた時期は、「これ以上不安を与えないこと」「前向きに送り出すこと」が大切だと、無意識のうちに思ってしまいます。

今回お話しするのは、退院を控えたある女性患者さんに対して、私自身が正しい言葉を選んで関わっているつもりだった関わりが、実はそうではなかったと気づかされた出来事です。

「落ち着いていますね」は、本当に安心のサインだったのか

Aさんは精神科病棟に入院中の女性で、退院を数週間後に控えていました。

入院当初は希死念慮が強く、不安を繰り返し訴え、夜間も眠れない日が続いていましたが、服薬調整と環境の安定により、徐々に症状は落ち着いていきました。

日中は穏やかな表情で過ごし、病棟内のルールも守れている。

カンファレンスでも「状態は安定」「退院調整可能」と評価される状態でした。

私は、そんなAさんに対して、いわゆる模範的な声かけを意識していました。

「無理しなくていいですよ」「不安なことがあったら、いつでも話してくださいね」「退院後も、困ったら支援につながれますから」

どれも間違ってはいない言葉。看護師として、患者さんを追い詰めないための正解だと思っていました。

少しずつ減っていった、言葉と視線

しかし、ある時期からAさんの反応が変わっていきました。

返事が短くなる。こちらを見ずに、視線を床に落としたまま「大丈夫です」と繰り返す。

話しかけても、会話がそれ以上広がらない。

「落ち着いているだけ」「退院を前に、自分で気持ちを整理しているのかもしれない」

そう自分に言い聞かせながら、私はそれ以上踏み込まないようにしていました。

踏み込みすぎないことも、優しさだと思っていたからです。

ある日の沈黙の中で、ぽつりと出た本音

転機は、ある日Aさんの病室でした。

ベッドサイドでいつものように声をかけても、Aさんは黙ったまま。しばらく沈黙が続いたあと、Aさんが小さな声で言いました。

「…優しい言葉ばっかりかけられると、逆に弱音が吐けなくなるんだよ」

その言葉は、責めるようでも、怒っているようでもありませんでした。むしろ、疲れ切ったような、諦めに近い声でした。

「大丈夫って言わなきゃいけない気がして」「ちゃんとしてないと、退院できなくなりそうで」

私は、その場で言葉が出ませんでした。

正しさが、逃げ場を塞いでいたかもしれない

私はずっと、Aさんを支えているつもりでした。不安を否定せず、前向きな言葉で包み込もうとしていました。

でも、振り返るとそこには、「不安を見せない患者でいてほしい」「順調に退院してほしい」

という、私自身の期待も混ざっていたのだと思います。

整いすぎた優しさ。正解っぽい言葉。

それが、Aさんにとっては「弱音を吐いたら裏切りになる」「これ以上迷惑をかけてはいけない」というプレッシャーになっていたのかもしれません。

今も、正解はわからない

この出来事から、「寄り添う」「傾聴する」「優しい言葉をかける」という行為が、必ずしも支援になるとは限らないのだと、強く感じるようになりました。

優しさが、時に重くなることもある。正しさが、逃げ場を奪うこともある。

じゃあ、何が正解だったのか。今でも、はっきりとはわかりません。

ただ一つ言えるのは、患者さんが黙り込んだときこそ、その沈黙に何が詰まっているのかを考え続ける必要があるということ。

精神科看護には、きれいにまとめられる答えはありません。それでも今日も、迷いながら、言葉を選び続けています。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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