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「もう来なくていいから…」頻繁だったナースコールが突然“無音”に。不審に思った看護師が病室で目にしたものとは…

  • 2026.2.15
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科の現場で働いていると、「ナースコールが多いこと」よりも、「急に鳴らなくなること」のほうが、はるかに怖いと感じる瞬間があります。

それは患者さんが落ち着いたからではなく、「呼ばない」と決めてしまった結果かもしれないからです。

今回お話しするのは、ナースコール頻回だった高齢女性患者さんが、ある日突然「もう来なくていいから」と口にした出来事です。

その言葉の裏にあったのは、遠慮、不安、そして命に関わる静かなサインでした。忙しさの中で、私たちは何を見落としてしまうのか。ナースコールが鳴らない病室で、何が起きているのか。

現場で働く看護師として、今も心に残り続けているエピソードを綴ります。

ナースコール頻回は「困った行動」だったのか

慢性期病棟に入院していた高齢女性のAさん。

軽度の認知症と抑うつ状態があり、不安が非常に強い患者さんでした。

Aさんは、いわゆる「ナースコール頻回」の方でした。

喉が渇いた、体の向きが少し気になる、この対応で合っているのか不安になる。内容はどれも小さなもので、緊急性が高い訴えではありません。

それでも、1日に何度もナースコールが鳴りました。看護師として対応はします。もちろん、常に患者さんの安全を第一に考えています。

けれど正直なところ、人間として、心身ともに余裕がなくなるほど忙しい時間帯には「またか」「今ちょっと立て込んでいるのに」そんな感情が、ふと心をよぎってしまう瞬間があったのも事実です。

決して乱暴な対応をしたわけではありません。ただ、声のトーンが少し早口になったり、

「あとでまた来ますね」と足早に退室したり。

振り返れば、その小さな積み重ねが、Aさんにどう映っていたのかは分かりません。当時の私は、

「ナースコールが多い=不安が強い状態」

そう頭では理解していながらも、どこかで「業務を妨げるもの」として捉えていた部分があったと思います。

突然、鳴らなくなったナースコール

ある日を境に、Aさんのナースコールがぱったりと鳴らなくなりました。

最初は、「今日は落ち着いているのかな」と思いました。

頻回だったコールが止まると、病棟は驚くほど静かになります。

けれど、その静けさが続くにつれて、次第に違和感を覚えました。半日、1日と経っても、Aさんからのコールは一度もありません。

「本当に大丈夫なんだろうか」

そう思い、様子を見に訪室しました。

Aさんはベッドに横になり、こちらを見ると、少し申し訳なさそうに笑いました。そして、ぽつりとこう言ったのです。

「もう呼ばないって決めたの。迷惑だと思って…だからもう来なくていいから」

その言葉を聞いた瞬間、胸が締めつけられるような感覚になりました。

Aさんは不安がなくなったわけではありませんでした。

ただ、「呼ばない方がいい」と自分に言い聞かせただけだったのです。

鳴らなかった理由の先にあったもの

その後、巡回時に訪室すると意識レベルが低下しており、明らかに普段とは違う状態でした。バイタルサインを測定すると、血圧が低下していました。

すぐに対応し、医師へ報告。幸いにも早期に気づくことができ、大事には至りませんでした。

もし、あのまま訪室していなければどうなっていたか。そう考えると、背筋が冷たくなります。

ナースコールが鳴らなかった理由は、「安定」ではありませんでした。

それは、患者さん自身が選んだ「遠慮」でした。

「呼ぶと迷惑をかける」「これくらい我慢しないといけない」

その気持ちが、Aさんを沈黙へと追い込んでいました。

患者さんの遠慮は、ときに最も危険なサインになります。ナースコールが頻回であることよりも、

「鳴らなくなった理由」の方が、はるかに重い意味を持つことがあるのです。

ナースコールは「鳴るから怖い」のではない

ナースコールは、忙しい現場ではどうしても負担に感じてしまうものです。

業務を中断させる音として受け取ってしまう瞬間もあります。

しかし本来、ナースコールは患者さんが不安や異変を伝えるための、大切な手段です。

Aさんの「もう呼ばない」という言葉は、忙しさと命の境界線が、どれほど曖昧で危ういかを教えてくれました。

ナースコールは、鳴るから怖いのではありません。鳴らなくなったときこそ、私たちは立ち止まる必要があります。

その静けさの中に、「迷惑をかけたくない」「我慢しなければならない」そんな患者さんの思いが隠れていないか。

今日も病棟では、音のない沈黙が流れています。私はその沈黙に、できるだけ耳を澄ませたいと思っています。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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