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胃がんで亡くなった元夫。「終末期医療で大切なこと」を今、考える【内館牧子さん×吉永みち子さん対談】

  • 2026.1.26

胃がんで亡くなった元夫。「終末期医療で大切なこと」を今、考える【内館牧子さん×吉永みち子さん対談】

30年来の友人である内館牧子さんと吉永みち子さんは、ともに70代。性格も生き方もまったく違う2人は、終活に対する考えも異なります。「終活はしません」と言う内館さん、リビング・ウイルを書き、ホーム見学もしている吉永さん。そんな2人が本音とは?(中編) ※2025年12月に内館牧子さんの訃報が届きました。謹んでお悔やみ申し上げます。本記事で生前の内館さんのお言葉が多くの方に届きますよう、お祈りします。

胃がんで亡くなった元夫。終末期医療の意思表明どうする?(吉永さん)

内館 でも実は、ひとつ心残りがあるのよ。ロンドンに2~3年住みたかった。

吉永 ロンドンが好きなの?

内館 全然(笑)。でも40代後半かな、長くロンドンで暮らした大学の先生が、「あなたはロンドンで暮らしたら、目の前がもっと開けるよ」って。その言葉は今も思う。

吉永 でも行かなかったんだ。

内館 当時は大相撲の横綱審議委員会の仕事に命かけてたし(笑)、脚本の仕事も充実していた。そのあと大学院で相撲史の研究をしたし、別の大学院では神道の研究もした。大満足よ。今住むとなると体力や医療の問題もあるからね、ロンドンはさすがにあきらめた。

吉永 え? もういいのか。それもひとつの「ケリ」の形なわけね。私は、何年か前に日本尊厳死協会のリビング・ウイルを作成しました。

内館 えーっ! 驚いた! 終末期医療について記入したの?

吉永 20年くらい前に元夫が亡くなったんだよね。ステージ4の胃がんで、見つかったときには余命3カ月。痛みが強くて、私は「モルヒネを増やして痛みを緩和してほしい」って言ったんだけど、死期が早まることもあるから「本人の意思は?」って医師に聞かれたの。でも本人に聞きにくいし、聞けたとしても痛みが治まれば気持ちが変わるかもしれないし……と、家族間でも意見が分かれて。

内館 だからリビング・ウイルを書いたのね。

吉永 「延命治療はお断りします。痛みは取り除いてほしいので、モルヒネは盛大に使ってください」って。

内館 私もお医者さんに言われたわ。「自分の意思を伝えられるうちに、延命治療をするかどうか書いておいてください」って。書いてないけど(笑)。

吉永 え? 何で?

内館 弟夫婦に「延命不要」と言って、「私の遺品で、あなたたちがいらないものは何でもゴミに出して」って。どうせ私は死んでいるんだから。

吉永 そうなんだ。私の場合、逆にやらないと落ち着かない。この前は安否確認サービスに入ったよ。ひとりで死んで腐敗しちゃったら近所迷惑になるから。

内館 うーん、同年代とは思えない。でも、ひとり暮らしなら、安否確認サービスは必要かもね。この前、地方在住の親戚にたまたま電話したんだけど、何回かけても出ないの。その人は警備サービス会社と契約していたから、駆けつけてもらったのね。そうしたらベッドから落ちて動けなくなっていたんですって。

吉永 それはラッキーだったね。1週間見つからないことだってあるそうだから。

自分軸の終活をもっと考えていいと思う(内館さん)

吉永 そういえば私、うっかり連載の原稿を送り忘れて、ディナーショーを観に行っちゃったことがあったの。携帯を切っていたから編集部の電話に気づかなくて、家に着いたら警察と救急車と消防車がいました。

内館 警察? どうして?

吉永 事件性があるかもしれないからね。連絡がつかない場合、管理人さんやセキュリティ会社に警察が加わって、そのときの状況を確認すれば、事件性の有無はクリアできるみたい。

内館 ありがたいことよね。

吉永 無駄な出動をさせてしまって平謝りだったけど、勉強になった。今回は間違いですんだけれど、間違いじゃないことも十分ありえるわけで、改めて自分の年齢を考えさせられたわ。

内館 私ね、一般公募のエッセイや小説の審査員みたいなこともするんだけど、60歳以上の人の原稿って、明るくないのよ。

吉永 わかる気がするなぁ。

内館 年はとるし、体は弱るし、身近な人の葬式は増えるし、気分転換に雑誌を読むと終活特集だし、付録はエンディングノートだし(笑)。まだ死んでないんだから、煽るなって。

吉永 あははは。この対談だって終活がテーマだし(笑)。ま、死ぬ前にするから終活なんだしね。

内館 この前まで、男性週刊誌は裸の女性だらけだったでしょう? それが時代の流れもあって、自粛したんだと思う。そこに入り込んだ企画が終活なのよ。私はおっぱいが終活になっただけだと思ってるから。

吉永 確かに「終活とは何か」「何のためなのか」が、ちゃんと定義されないまま、ひとり歩きしている感じはするね。だから、とらえ方で全然違うことになっちゃったんだと思うよ。

内館 自分軸の終活、もっと考えていいと思う。

吉永 義務化されているわけじゃないから、やらない人はやらないよ。内館さん、遺言書とか書いてないよね。

内館 ヒェー! 考えたこともない。あなたと私、何で仲いいのかわからん(笑)。知り合いの男性がこの前亡くなったのだけど、すでにご両親も亡くなっているから公証人の立ち会いのもと、ちゃんとした遺言書も作成していたのよ。なのに、遺産をめぐって親戚がモメにモメて、絶縁状態。

吉永 正式な遺言書があるのにモメるんだ!

内館 そうよ。だからね、遺言書があってもなくても、モメる人はモメるのよ。

吉永 親戚間でいさかいが起きないように遺言書を作ったのに、気の毒だね。でも遺言書がなければもっと悲惨だったから、書いてよかったんだよ。

PROFILE
内館牧子さん 脚本家、作家

うちだて・まきこ●1948年秋田県生まれ、東京都育ち。
会社員生活を経て、88年に脚本家デビュー。
NHK朝の連続テレビ小説「ひらり」「私の青空」、同大河ドラマ「毛利元就」などの脚本を手がける。
2000年、女性初の日本相撲協会横綱審議委員に就任。

PROFILE
吉永みち子さん ノンフィクション作家

よしなが・みちこ●1950年埼玉県生まれ。
競馬専門紙の記者を経て、85年に『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
以降、数々のノンフィクション作品を発表。
テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

『迷惑な終活』 1870円/講談社

年金暮らしの原夫妻は70代。妻の礼子はいわゆる終活に熱心だが、夫の英太は「生きているうちに死の準備はしない」という主義。そんな英太がある日、終活を思い立って始めたことは……。礼子をはじめ、登場する女たちそれぞれの「ケリのつけ方」があっぱれ。

撮影/橋本 哲
取材・文/神 素子

※この記事は「ゆうゆう」2025年5月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

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