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大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』とマンガ『日に流れて橋に行く』を繋ぐ、商品を手に取る喜び【日高ショーコ×森下佳子対談】

  • 2026.3.27
『日に流れて橋に行く』1巻 (日高ショーコ / 集英社)
『日に流れて橋に行く』1巻 (日高ショーコ / 集英社)

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『日に流れて橋に行く』 12巻 (日高ショーコ / 集英社)
『日に流れて橋に行く』 12巻 (日高ショーコ / 集英社)

江戸時代中期に活躍した版元で“江戸のメディア王”とも呼ばれた蔦屋重三郎を主人公に描かれた大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』。そのシナリオライター・森下佳子が今、愛読しているのがマンガ『日に流れて橋に行く』(集英社)だと言う。明治時代の経営難に陥っている呉服店を主人公・虎三郎が立て直していく物語だ。著者・日高ショーコと森下佳子の対談が実現! 江戸と明治、時代は違えど人が売り物を手にできる商店が描かれていること、店が東京・日本橋にあることなど、作品の共通点を軸に語っていただきました。

――『日に流れて橋に行く』は明治時代の呉服店をテーマに描かれていますが、呉服店に魅力を感じたキッカケは何でしたか?

日高ショーコさん(以下、日高):2014年に、森鷗外記念館で開催していた特別展『流行をつくる-三越と鷗外-』をみたのがキッカケでした。そこで購入した図録に収録されていた、森鷗外の短編小説『流行』が面白くて。“僕が身につけたものは全て流行になる。だから全ての店が商品を持ってくる”という描写に“いいな”と思って。“作られる流行”の是非も書かれていて、これが三越の広報誌に掲載されていたというのもすごいなと。“経営難の呉服店と支えるお金持ちの人が出てくる話にしよう”からお話作りはスタートしていきました。

森下佳子さん(以下、森下):そうだったんですね。それで呉服店が舞台に!

日高:はい。当初は三越をそのままモデルにしようかとも思ったのですが、三越の歴史は有名すぎますし、リアルタイムで存在しているお店なので難しいかな…ということで、架空の呉服店にしました。架空のお店なら、自分たちの好き勝手にすることもできるので(笑)。それに当時のことを調べていくと、実際に消えた呉服店は多くあります。さまざまなお店が淘汰されてきた中で、今残っているお店があるというか。じゃあその生き残りレースの中で、一度抜けた店があってもいいかという結論に至って、呉服店・三つ星を作っていきました。

森下:調べていく中で想像が膨らんでいくのはわかります。

日高:『べらぼう』でもありましたか?

(C)2025・2026 NHK
(C)2025・2026 NHK

森下:主人公・蔦重が育った吉原にいる花魁・瀬川はまさにそんな感じでした。瀬川は実在した花魁ですが、私が彼女について事前に知っていたのは“当時瀬川という有名な花魁がいる”ということだけ。蔦重と一緒に吉原をよくしていく同志としてカップリングできないかな…と、そういう事実はないけれど想像をしていたのです。時代考証の先生方も「事実はわからないから、まあいいのではないか」とおっしゃっていただいて、進めていく中で『青桜美人合姿鏡』に瀬川を描いた絵を見つけました。『青桜美人合姿鏡』は蔦重が編集した錦絵本。そこに描かれていた瀬川がなんと、本を持っていたんです。それを見て“蔦重と瀬川が同志”というのは、天からのお告げだったのかなと思ったほど! 調べている途中にこの事実に触れたことで“もうこれでやらせていただきましょう!”となりました。

日高:すごい! そういう事実を見つけると一気に話が動き出しますよね。

森下:まさに。歴史をひもといていくうちに、思わぬ養分をもらった感覚です(笑)。

――森下先生は『日に流れて橋に行く』を愛読されていたということですが、好きなシーンはありますか?

『日に流れて橋に行く』より
『日に流れて橋に行く』より

森下:たくさんあります。虎が三つ星を建て直すための協力者である鷹頭や三つ星の店員に言う「俺たちならできる」というシーンや鷹頭が圧倒的王者・日越呉服店の代表である日比谷藤次と対立するシーンも好きです。それと百貨店好きな私としては、三つ星の店内の描写は、いつも読みながらワクワクします。新装開店する際に店内にカフェができるじゃないですか。あのエピソードも大好きです。

日高:ありがとうございます。“お店にカフェがあったらいいな”とは私たちが思っていたことです(笑)。お店の中で休める場所がほしいと思い、当時のカフェについて調べていたところ、ブラジルへの移民希望者を移送する会社が、ブラジル政府からのお礼としてコーヒー豆を無料で提供いただいていた事実があることを知りました。

森下:読んでいて初めて知ったので、驚きました。

日高:私もです。基本的には自分が“へぇ!”と思ったことを作品には盛り込みたいなと思っています。

森下:「私これ知らんかった!」という視点、大事ですよね。カフェ作りをするエピソードでは、新宿で果物の問屋をしている兄・寅次さんを訪ねるじゃないですか。あの問屋さんが登場するたびに、新宿には確かに果物屋さんが多いなということを思い出します。

日高:タカノフルーツパーラーさんとか。

森下:まさに。あれ、もしかして寅次さんの“火野商店”の元になっていますか?

日高:名前はそうですね(笑)。タカノだから火野です。

森下:裏話聞けちゃった! なんか嬉しい!

日高:新宿っておもしろい史実がたくさんあるんですが、明治時代の資料が少なくて…。数少ない写真をみると、今の新宿からは考えられないくらい、当時の新宿は田舎。改めて日本橋の凄さを感じます。

『日に流れて橋に行く』より
『日に流れて橋に行く』より

森下:江戸時代の日本橋も同じです。明治になると銀座も華やかになりますが、江戸時代はより商いの中心地。呉服屋も多かったし、あと有名なのは魚河岸ですが、蔦重の版元“耕書堂”があった通りには、釘屋が多い通りだったそうです。

日高:釘屋!

森下:あの時代に釘がそんなに売れたのかなと疑問もありますよね(笑)。

日高:昔の地図って眺めているだけで面白いですよね。筍の皮だけ売っているお店、凧だけ売っているお店とか…。

森下:三つ星は日本橋だとだいたいどの辺りというのはありますか?

日高:いろいろ想定はしましたが、最終的にはかつて“呉服町”と呼ばれていたあたりに。その場所の当時の特徴としては、江戸時代に大奥の服を仕立てたお店が多いともあったので、三つ星にも取り入れました。

――虎が三つ星の存在や流行を伝える手段としてカタログ本をうまく使うエピソードがありますが、蔦重も本を通して流行を生んでいるなど、本が持つ力が大きいことも、2作品を通して改めて感じました。

日高:本は自分の世界を広げてくれるものだなと思っています。自分の人生はひとつしかないけれど、本を読むことで自分とは違う生き方を感じられるし、知識も広がっていく。それによって世界の見え方も変わると思います。

――三つ星の従業員の時子にとってはカタログ本がまさに世界を広げてくれていました。

『日に流れて橋に行く』より
『日に流れて橋に行く』より

日高:はい。『べらぼう』でも蔦重の本を読んだ人たちが楽しそうな表情をする場面が多くて、そのカタルシスがすごい。あと蔦重と敵対関係だった松平定信が最後に耕書堂の本を全買いするシーン、大好きです(笑)。

森下:小さい頃や学生時代はお金がないので厳選して1冊を買っていたじゃないですか。定信のあのシーンは、私も大人買いできるようになったときの喜びを思い出しました(笑)。

日高:さまざまな問題で対立していた中でも、本当は全部買いたかったのだろうなと思えて、愛しく感じました。

森下:ありがとうございます! 先ほど日高先生が本について“世界を広げてくれるもの”とおっしゃっていましたが、私も同じように思います。それに“その人と対話している気持ちになる”は、私が本が好きな理由です。描かれている時代や舞台が違っても、読んでいくうちに同じ視点になれる感覚が好きです。あと本の装丁をながめているのも好きです。

日高:わかります! 楽しいですよね。

森下:紙質なども含めての装丁だと思うので、電子書籍の普及により書店で実際に手にする機会がないのは少し寂しい気持ちもあります。

日高:確かに。電子版にも場所を取らなかったりと良さはたくさんありますが、実際に手に取れる書店で選ぶ楽しさは忘れないでいたいです。今まで全然興味なかったジャンルの本を装丁に惹かれて手にとるのは、お店に行かないとなかなかないこと。

森下:後から考えると“この本、なんで買ったんだっけ?”というのはあります(笑)。お店の棚をながめていたからこその出会い。それは、書店だけでなく、百貨店にも同じことが言えるかもしれません。実店舗での出会いはこれからも大切にしたいです。

日高:文化が人を育てることは『べらぼう』を見て、改めて思いました。戯作者・山東京伝が描いた顔に“惡”“善”と描いた悪玉と善玉の表現なんて、今みても斬新で面白い。

森下:黄表紙『心学早染草』に出てきたキャラクターですね(笑)。素晴らしい表現ですよね。漫画のルーツにも思えるというか。

日高:そうだと思います。これを読んで“面白い”と思う人たちが、江戸時代にもいっぱいいたということですよね。本をはじめ、美術や服など、文化がないと人は育たないと思うので、身近に触れられる書店や百貨店はこれからも在り続けてほしいです。

取材・文=上村祐子

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