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中国科学院「骨なし魚」を食卓へ――身の小骨80本超を遺伝子編集で消去

  • 2026.1.6
中国科学院「骨なし魚」を食卓へ――身の小骨80本超を遺伝子編集で消去
中国科学院「骨なし魚」を食卓へ――身の小骨80本超を遺伝子編集で消去 / A gibel carp. /VCG

中国の海南大学(Hainan University)などで行われた研究によって、コイ科の養殖魚ギベリオブナの「身の小骨」をゼロにできることが示されました。

身の中に80本以上も並ぶ細い筋間骨と呼ばれる小骨が、遺伝子編集で消えてしまったのです。

中国科学院の発表によれば、こうした小骨が完全に消えたギベリオブナを291尾も作り出され、「骨のない食べやすい魚」として実用化を目指しているとされています。

また新たな発表によれば実用品種まで到達した変異体は「中科6号」と新たに名付けられ、「高成長」「高耐病性」「低餌料要求量」という3つの特性も兼ね備えていることが報告されました。

喉に刺さる心配や小骨をよける手間から解放され、誰もが安心して魚にかぶりつける時代は本当にやって来るのでしょうか?

発表内容の詳細は2025年12月24日に中国科学院の公式ページにて報告されています。

目次

  • 骨なし魚は作れるのか?
  • 小骨が無くなった「中科6号」は少ないエサで早く育つ

骨なし魚は作れるのか?

Credit:Canva

「魚の骨がのどに刺さる不安さえなければ、もっと気軽に魚を楽しめるのに」――誰もが一度はそう感じたことがあるのではないでしょうか。

魚の身には、太い背骨や肋骨のほかに細い“つっかえ棒”のような小骨がたくさん存在します。

特にコイ科の魚には筋肉の間に小骨(筋間骨)が多くあり、食べる際に取り除くのが大変です。

この「厄介者」のせいで美味しい魚料理が台無しになった経験に心当たりのある人も多いでしょう。

実際、中国では魚の小骨が産業発展を制約する一因とされてきました。

そこで研究チームはギベリオブナ(金魚の祖先と言われる魚)に注目し、この小骨形成遺伝子を標的に遺伝子編集で筋間骨のない魚を作り出すことを試みてきました。

小骨が無くなった「中科6号」は少ないエサで早く育つ

小骨が無くなった「中科6号」は少ないエサで早く育つ
小骨が無くなった「中科6号」は少ないエサで早く育つ / Credit:Canva

研究者たちが着目したのは「小骨を作る遺伝子」でした。

近年ゼブラフィッシュの研究から、小骨の形成には「Runx2b(骨を作る司令塔)」という特定の遺伝子が深く関与していることが判明したのです。

また驚くべきことに、この遺伝子を欠損させたゼブラフィッシュは小骨が完全になくなる一方で、成長や他の骨格の発達に目立った悪影響は報告されませんでした。

小骨だけが消えて魚自体は元気に育つ――まるで魚体内の「小骨を作る指示書」だけを抜き取ったような都合の良い話が現実になったのです。

そこで研究者たちはギベリオブナのゲノム中に2つ存在するRunx2b遺伝子を探し出し、DNA編集技術で両方とも働かなくしてみました。

魚の「小骨専用の工事担当者」とも言える遺伝子スイッチだけをピンポイントでオフにしたのです。

結果は劇的でした。

編集を行ったギベリオブナでは、およそ80本もあった細かい骨(筋間骨)が1本残らず消滅したのです。

背骨や肋骨など主要な骨格には大きな影響は見られずと報道され、見た目の体格も通常の魚と大きくは変わらないとされています。

実際、別のコイ科魚ダントウボウでも、Runx2bという遺伝子が変わった変異体で筋間骨がなくなり、若い段階では他の骨の石灰化(骨が硬くなること)や筋肉の栄養成分に大きな差がないと報告されています。

要するに「小骨を作れ」という指令だけが最初から発動しなかったわけです。

研究チームは合計で291尾の「小骨ゼロ魚」を作り出すことに成功し、筋間骨のないギベリオブナの系統化への土台を作りました。

研究者の傅向東(フ・シャンドン)氏は「この技術によって、将来はより安心して魚のおいしさを楽しめるようにしたい」と述べています。

(※プロジェクトは2023年3月30日付の『Aquaculture』(Volume 567)にて発表された研究を土台にしており、それ以降も実用化に向けた努力が続けられてきました)

さらに今回の2025年12月24日に行われた公式発表では「中科6号」と名付けられた品種が「高成長」「高耐病性」「低餌料要求量」という3つの特性も兼ね備えていると紹介されており、小骨の問題だけでなく養殖に有利な「一石四鳥」の魚になる可能性が示唆されています。

そしてなにより興味深いのは、この手法は他の小骨の多い魚にも応用できる可能性がある点です。

実際、関連する研究では草魚(ソウギョ)やダントウボウ(別のコイ科魚)など他のコイ科魚類でも筋間骨を減らす計画や試みが進んでいます。

こうした「設計図レベルの品種改良」は、従来の人力や機械で骨を抜く加工技術とは一線を画しています。

かつて種なしスイカや種なしブドウが登場したように、魚でも「小骨なし」という発想が現実になったのです。

もしかしたら未来の食卓では、煩わしい小骨のことなど気にせず誰もが魚を丸ごとかぶりつけるようになっているのかもしれません。

参考文献

中国、食卓向けに新たな「骨なし」魚を開発(China Creates New ‘Bone-Free’ Fish for the Dinner Table)
https://english.cas.cn/newsroom/cas_media/202512/t20251225_1142179.shtml

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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