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4億年前の化石が物語る「植物が巨大化」できた秘密とは?

  • 2025.12.25
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

私たちの身の回りには、高さ数十メートルにも達する樹木が当たり前のように存在しています。

しかし、植物の祖先はもともと、地面すれすれに生きる数センチほどの小さな存在でした。

では、植物はいったい何をきっかけに「巨大化」への道を歩み始めたのでしょうか。

その手がかりを与えてくれるのが、スコットランドで見つかった約4億年前の化石植物です。

この古代植物の内部構造を最新技術で調べた研究が、植物進化の常識を大きく揺さぶっています。

目次

  • 植物はなぜ大きくなれなかったのか
  • 4億年前の植物が示す「途中段階」

植物はなぜ大きくなれなかったのか

植物が大きく成長するために欠かせないのが、体内で水や栄養を運ぶ「維管束系」です。

これは動物でいえば血管のような役割を果たし、根で吸い上げた水やミネラル、葉で作られた糖などを全身に届けます。

現在の植物では、この維管束系は大きく二つに分かれています。

水とミネラルを運ぶ「木部」と、糖などの栄養を運ぶ「師部」です。

この分業体制があるからこそ、植物は高く、太く成長できます。

しかし、植物が陸上に進出したばかりの頃、この仕組みはまだ完成していませんでした。

初期の陸上植物は、体内で物質を効率よく運ぶ能力が低く、大きくなりたくてもなれなかったのです。

長らく研究者たちは、藻類が進化してコケ植物のような姿になり、そこから維管束植物が生まれたと考えてきました。

ところが近年の遺伝学的研究により、「植物の共通祖先はコケ植物でも維管束植物でもなかった可能性」が浮上します。

問題は、その正体が長く分からなかったことでした。

4億年前の植物が示す「途中段階」

この謎に答えを与える存在として注目されたのが、スコットランド北部のリニー・チャートと呼ばれる地層から見つかった化石植物、ホルネオフィトン・リグニエリ(Horneophyton lignieri)です。

年代は約4億700万年前

植物が陸上で多様化を始めた時代に生きていました。

最新の顕微鏡技術を用いた再調査により、この植物の内部には、現代の植物には見られない特異な通導組織があることが分かりました。

水と糖が「別々の管」ではなく、「同じ細胞群」を通って運ばれていたのです。

この組織の主役は「移行細胞」と呼ばれる細胞で、水と糖の両方を同時に移動させていました。

つまり、師部のような性質をもつ細胞が先に現れ、木部はまだ完全には分化していなかったと考えられます。

この仕組みは、小型の植物でしか機能しませんが、初期の陸上植物にとっては大きな進歩でした。

実際、ホルネオフィトンはそれ以前のミリメートルサイズの植物よりもはるかに大きく、高さ20センチほどまで成長できたとされています。

一方、同時代に生きていたAsteroxylonという植物では、すでに木部と師部が分かれた維管束系が進化しており、ホルネオフィトンの倍ほどの大きさに成長していました。

この違いが、やがて巨大な樹木やシダ植物が誕生する流れへとつながっていきます。

ホルネオフィトンは、維管束系が「未完成」だった時代の姿をそのまま残した、まさに進化の途中段階を示す存在だったのです。

植物が地球を変えた瞬間

今回の研究が示したのは、植物が突然巨大化したわけではなく、「水と糖をどう運ぶか」という体内システムを少しずつ改良しながら進化してきたという事実です。

4億年前のホルネオフィトンは、現代植物の祖先がすでに複雑な体内構造を持ち始めていたことを教えてくれます。

そして、その小さな一歩が、地球を森で覆い、現在の生態系を形作る大きな転換点となりました。

足元の植物を見上げるとき、そこには4億年にわたる試行錯誤の歴史が刻まれているのかもしれません。

参考文献

A 400-million-year-old fossil is revealing how plants grew into giants
https://www.nhm.ac.uk/discover/news/2025/december/ancient-fossil-reveals-how-plants-grew-into-giants.html

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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