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信州のテロワールを、スペインの感性で。生産者と食卓を繋ぐ、一瓶の「ドゥルセ」

  • 2026.3.10

次代へ美味しい食材を繋ぐために、信州の生産者を応援するプロジェクトとして渡辺万里さんが手掛けているのは、“一瓶から始まる社会貢献”の形です。縁の深い軽井沢の地で、生産者たちと心を通わせて生み出したオリジナルジャムの名は「Dulce(ドゥルセ)」。スペイン語で「甘美なもの」を意味する響きの通り、ジャムの枠を超え、ワインやチーズとも楽しめる逸品として、本物を知る女性たちの食卓に芳醇な彩りを添えています。

CEDRIC DIRADOURIAN

ドゥルセづくりは、地域活性化に尽力する渡辺万里さんが、コロナ禍という逆境下で新たに挑戦したもの。生産者の力になりたいという切実な想いから始まったこの試みは、信州の素材とスペインの食文化を調和させ、美食の価値を創出。この小さな瓶を通じて、生産者を守り次世代へ光を当てる「文化の継承」も形にしています。誕生の背景にある、地域と文化支援への深い想いを伺いました。

<Profile>
渡辺万里(わたなべまり)/スペイン料理研究家

スペイン料理文化アカデミー主宰。大学在学中にスペイン料理をライフワークと定めて以来、各地に眠る伝統料理を紐解く一方で、世界の美食地図を塗り替えたトップシェフたちとも深い親交を結ぶ。著書に『エル・ブジ至極のレシピ集』、『毎日つくるスペインごはん』などがあり、執筆・講演でも活躍している。ギタリストである夫の音色に合わせ、フラメンコに身を委ねる情熱的な一面も。

「ドゥルセ」左から あんず ¥1,200、そうめんかぼちゃ ¥1,200、かりん ¥1,200、ナガノパープル ¥1,500、リンゴ ¥1,200とプルーン ¥1,200 CEDRIC DIRADOURIAN

生産者を守るために、一瓶に込めた「ファーム・トゥ・テーブル」の精神

――ドゥルセづくりを始めたきっかけや想いを教えてください。

始まりは、約10年前から続けている「軽井沢ガストロノミープロジェクト」でした。ファーム トゥ テーブルをテーマに、シェフと信州の豊かな食材を生み出す生産者を一緒に紹介していくイベントを開催したことで、生産者の方たちとの出会いが広がっていったのです。その後も生産者と消費者とつなげるマルシェを催したり、美食ツアーを企画したり、様々な形のプロジェクトを展開するうちに、信州の作り手たちへの深い敬意が育まれていったのです。

でも、その活動がコロナ禍で制限されました。生産者が手塩にかけて育てた作物が、行き場を失っていく。そんな時、私に何かできることはないかと考えたのが、ドゥルセと名付けたジャムを開発することでした。新たな表現の形で命を吹き込めば、遠くにいる方々にもその想いを届けられるのではないかと考えたのです。御代田町の「かりん」や「そうめんかぼちゃ」、千曲市横島農園の「あんず」、東御市秀果園の「ナガノパープル」、小諸松澤農園の「りんご」や「プルーン」…。それらの個性をスペイン風のフレーバーで際立たせ、新たな価値として再生させたのが、このドゥルセなのです。

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ドゥルセが一般的なジャムと一線を画す理由は、スペインの食卓で愛されるメンブリージョ(西洋かりんジャム)のような、お酒や料理とのマリアージュを前提とした食べ方にあります。朝食にパンといただくだけでなく、夜、ゆっくりとグラスを傾ける時間にも寄り添う一品でありたい。あんずには食感のアクセントとしてくるみを。また、りんごとプルーンには黒胡椒を効かせ、パテや赤ワインと合う大人の味わいに仕上げました。

妥協なき一匙を生む、一期一会のレシピ

―― 開発にあたり、特に苦労された点を教えてください。

それが… 実は、初めてのことばかりで試行錯誤の連続だったのです。一番大変だったのは、家庭の鍋で作る数キロのレシピを、工場の50キロという規模でつくると味が変わってしまうということでした。お料理をされる方ならお分かりいただけると思うのですが、スパイスの分量一つとっても、単純に50倍にすればいいというわけではないのです。シナモンを一筋入れるのと、大量に投入するのとでは、香りの立ち方が全く変わってしまいます。工場の方とは何度もやり取りを重ねて、火加減の一つまでこだわりました。

それに、相手は自然の産物ですから。例えば、あんずは収穫時期が1週間ずれるだけで糖度が変わってしまいます。だから、毎年決まったレシピでつくるのではなく、その年の果実の状態を見て、毎回試作をやり直して糖度や配合を決めています。工場の社長に驚かれましたが、私にとってはそれが当たり前のこと。信州の生産者さんが一生懸命育ててくれた個性を最高に輝かせてあげたい。その一心で、毎年“今年だけのレシピ”を紡いでいるような感覚です。

―― 1年という短い賞味期限にも、強いこだわりを感じます。

一番大切にしているのは、蓋を開けた瞬間に立ちのぼる香りです。最高の状態で味わっていただきたいからこそ、あえて賞味期限は1年と短く設定しました。自然のものは毎年表情を変えますから、微調整しながら納得のいく一瓶を仕上げているのです。そうまでしてこだわるのは、私がつくりたかったのは、単なるジャムではなく、地域の未来を灯す“希望の光”だからです。

―― 手土産として贈るなら、どのような組み合わせがお勧めですか?

<a href="https://encuentro.base.shop/items/125445652" target="_blank" rel="nofollow">「ナガノパープル」と「りんごとプルーン」の箱入りセット ¥2,700</a> CEDRIC DIRADOURIAN

最新作の「ナガノパープル」と「りんごとプルーン」のセットは、香りの重なりが華やかなので、感度の高い方への手土産に選ばれることが多い組み合わせですね。また、お酒がお好きな方や、ホームパーティーのホストへ贈るなら、「ナガノパープル」と「かりん」を。よく冷えた白ワインと美味しいチーズに添えるだけで、テーブルがラグジュアリーな社交場に変わります。そんな贅沢な時間をプレゼントするのも素敵ですよね。

<a href="https://encuentro.base.shop/items/94960611" target="_blank" rel="nofollow">「小諸づくしスペジャルセット」 ¥4,500</a> CEDRIC DIRADOURIAN

もっと本格的な美食体験を贈りたいなら、小諸の「デリカテッセン山吹」のシャルキュトリと詰め合わせた「小諸づくしスペジャルセット」も。お肉の旨みとドゥルセのスパイスが響き合う、レストランのような一皿をご自宅で楽しんでいただけます。

“食べる支援”で心が温かくなる幸せの循環

――文化の継承や、社会貢献に繋がる取り組みについてお聞かせください。

まずは、地域の風景を守ること。かつては信州の各家庭の庭先にあったカリンですが、今は扱いが難しくて、切り倒される運命にありました。でも、このドゥルセが人気になれば、カリンの木を守ることができるでしょう? 実際、毎年何十キロと地元の方から購入するようになってから、「今年もつくるから切らないでおくよ」といっていただけるようになった。それが本当に嬉しいです。

そして、農業の次世代後継者への希望。生産者が「自分の育てた果実が、こんなに素敵なレストランで、華やかな一皿になっている」と実感することも大切だと思っています。あるリンゴ農家の娘さんや息子さんが、私たちのイベントに足を運んでくれたことがあり、その後、息子さんが「4代目を継ぐ」と決めてくれたのです。スポットライトが当たることで、農業という仕事に誇りを持ってもらえたなら、これ以上の喜びはありません。

オンライン売上の一部を通じた「食べる支援」も続けています。コロナ禍や災害時に、生産者と消費者を繋ぐプラットフォームも構築しました。¥3,000のものを¥6,000で購入し、差額を寄付する。美味しいものを手に入れながら、安心して誰かを助けられる仕組みです。このように、消費者も楽しみながら参加できる支援を提唱し、無理のない継続的な寄付の形を実現しています。

また、信州や震災被災地の子ども食堂へ、定期的にドゥルセや食材を届けています食べることでの支援は、する側もされる側も、どこか心が温かくなるでしょう? 美味しいものを食べて、それが誰かの助けになる。そんな健やかで幸せな循環を、これからもこの信州から繋いでいけたらと思っています。

ドゥルセは食卓を豊かにする“料理の一部”

―― お勧めの食べ方やアレンジ方法などありますか?

ドゥルセを手に取ったら、まずはジャムという固定観念を一度忘れてみてください。朝食だけではもったいない、これはもうお料理の一部であり、ワインを美味しくするためのエッセンスだと思って楽しんでみてください。スペインでは、カリンのジャムをチーズに添えてワインのおつまみにするのが日常の風景。だから、自由な発想で食卓を彩っていただきたいです。

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今、私が一番お勧めしたいのは、最新作の「ナガノパープル」とチーズのマリアージュ。濃厚な果実味にアーモンドとスパイスをプラスしているので、ブルーチーズや熟成の進んだウォッシュタイプに負けない力強さがあります。そこにキンと冷えた白ワインを合わせれば、それだけで至福のアペリティフになります。

自信作でもある「りんごとプルーン」は黒胡椒がほんのりと効いているので、赤ワインと一緒にパテ・ド・カンパーニュやテリーヌのようなお肉料理に添えると脂の甘みが引き立って本当に美味しい。羊肉のローストのソースとしてそのままお皿に添えるのも、おすすめのアレンジ。少しの酸味とスパイスの余韻が、お料理をぐっとプロの味に格上げしてくれます。

シナモンが香る優しい甘みの「そうめんかぼちゃ」は、スペインではあんこのような存在で大好きな味。パンにはさんだりタルトにのせたりします。意外かもしれませんが魚介とも相性がいいので、信州サーモンのお刺身と合わせると美味しいです。信州の伝統食材をスペインのセンスで遊ぶ、そんな驚きもぜひ体験していただきたいです。

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そして、くるみが入った「あんず」は、日本ではあまり見かけませんがスペインやフランスでは定番の組み合わせ。プチプチとしたくるみの食感が、チーズやハムといただいた時にとてもいいアクセントになってくれます。「旧軽井沢KIKYOキュリオ・コレクションbyヒルトン」のショップでは一番人気と聞きました。旅の思い出とともに朝食のテーブルに並べるのも素敵です。

次代へ繋ぐバトン。食の世界に灯す、新しい連帯の形

―― 今後の活動や展望について教えてください。

やりたいことは、まだまだ山積みです(笑)。でも、一番大切にしたいのは売上を増やすことではなく、このドゥルセをきっかけに生まれた温かな循環を、いかに持続させていくかということ。実は今年の新作として、「ルバーブ」のドゥルセの発売を予定しています。納得のいく香りと酸味のバランスを求めて、今年も6月の収穫期には産地へ足を運ぶ予定です。ルバーブってとても奥が深いので、私らしいルバーブを皆さまにお届けしたいです。今後はさらに料理に特化したソースのような展開も考えていきたいですね。

そして、これまで以上に信州の生産者との繋がりを広げていきたい。例えば新しい挑戦をしている若い農家さんを応援するような「賞」を設けるなど、彼らにスポットライトが当たる場をもっとつくりたいです。彼らが自分の仕事に誇りを持ち、その姿を見た子どもたちが「格好いいな」と後を継いでくれる。そんな未来のお手伝いができたら、最高に幸せだと思います。

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私が主宰する「WIG(食の世界の女性たちの会)」も、いままさに新しいフェーズに入っています。大切にしているのは立場を越えた対話。昨年、大きなフォーラムを開催しましたが、そこではシェフも農家さんも皆が同じテーブルで語り合いました。最近では関西にも頼もしい仲間が増えていて、それぞれの地域で新しいエネルギーが生まれているのを感じます。

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WIGというプラットフォームがあれば、一人では解決できないことも仲間の知恵を借りて乗り越えていける。一瓶のドゥルセも、このWIGの活動も、根底にあるのは「誰かと繋がり、共に生きる」というシンプルな願い。女性たちのしなやかなネットワークを通じて、食の世界で生きることに夢を持てるような、そんな温かな居場所を育てていきたいと思っています。

問い合わせ先
ENCUENTRO(エンクエントロ)
MAIL/info@karuizawa-gastronomy.com
URL/encuentro.base.shop

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