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「退職金で住宅ローン完済」を選んだ人の“末路”…。お金のプロが明かす、老後破産を引き起こす「意外な落とし穴」とは?

  • 2026.1.22
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「定年退職と同時に住宅ローンを完済し、借金のない晴れやかな老後を迎えたい」──。 そう考えるのは自然なことですが、実はその「真面目な判断」こそが、老後破産への最短ルートになってしまう恐れがあることをご存知でしょうか。

現役時代とは異なり、収入が限られる老後において「現金」は命綱です。目先の金利負担を減らすことに気を取られ、虎の子の退職金を手放してしまった結果、予期せぬ出費で家計が立ち行かなくなるケースは後を絶ちません。

では、完済すべきか、手元に残すべきか。今回は、金融機関の現役マネージャー 中川佳人さんにインタビュー。「完済が危険な理由」や「団信の意外な活用法」、そして完済しても安心と言える「具体的な貯蓄額のライン」について、プロの視点から解説していただきました。

なぜ「退職金で完済」が命取りになるのか? 老後破産を招く最大の要因は「現金の喪失」

---多くの人が「退職金でローン完済」を選んでしまいますが、プロの視点から見て、これが「老後破産」の引き金になりやすい最大の理由は何ですか?

中川 佳人さん:

「退職金で住宅ローンを完済すると老後破産につながりやすい最大の理由は、老後生活を支える現金を一気に失ってしまう点にあります。

もちろん、昨今は金利上昇のニュースも多く、利息負担を減らしたいと考えるのは合理的です。しかし、その選択が将来の家計を不安定にしてしまうリスクは見過ごせません。

ローンの支払いを続ければ金利がかかり続けるため、退職金で完済する判断自体は合理的に見えるでしょう。しかし、その選択が将来の家計を不安定にしてしまうケースも少なくありません。

老後は現役時代と異なり、収入の中心が年金になります。毎月の収入がほぼ固定される一方で、医療費や介護費、住まいの修繕費など、予測しづらい支出が発生しやすくなります。こうした出費に対応できるかどうかは、手元にどれだけ現金が残っているかで大きく変わります。住宅ローンを完済すれば返済負担はなくなりますが、その代わりに『急な出費に備えるお金』を減らしてしまうことになるのです。

退職金の多くを使って完済した後に想定以上の支出が発生した場合、十分な預貯金が残っていなければ、生活費を切り詰めたり、資産を取り崩さざるを得ない状況に追い込まれがちです。

問題は、住宅ローンを完済する行為そのものではありません。退職金という虎の子の現金を一度に手放し、家計のクッションを失ってしまう点にあります。老後破産の引き金になりやすいのは、ライフプランを立てないまま、計画なく一括返済を選んでしまうことなのです。」

完済は「最強の保険」を捨てること? 高齢期における「団信」の知られざる価値

---完済してしまうと、「団信(団体信用生命保険)」の権利も捨ててしまうことになります。高齢期におけるこの保険の価値をどう考えるべきでしょうか?

中川 佳人さん:

「高齢期における団信の価値は、『家族に住まいと現金を同時に残せる保険』として捉えることが重要です。団信は住宅ローンの付帯サービスと見られがちですが、老後においては家族の生活を守る重要な役割を果たします。

団信に加入したまま住宅ローンを返済していれば、万が一のことが起きた場合、住宅ローンの残高は保険によってゼロになります。その結果、残された家族は住まいを失うことなく生活を続けられ、手元に残った退職金や預貯金を生活資金として活用できます。これは老後の生活設計に大きな安心感をもたらします。

高齢期に新たに大きな生命保険へ加入しようとしても、年齢や健康状態によっては保険料が高額になったり、加入自体が難しくなったりします。その点、団信は『利息=保険料』と割り切れば、追加の手続きなしに住宅という大きな資産を守れる仕組みと言えます。

住宅ローンを完済すると精神的な安心感は得られますが、その裏で団信という大きな保障を手放している点には注意が必要です。高齢期の団信は『借金に付随する保険』ではなく、家族の生活を支える保障の一つとして、冷静に価値を見極めることが大切です。」

完済しても許される「貯蓄の安全ライン」は? 

---とはいえ「借金があるのは精神的にツライ」という人もいます。ズバリ、退職金で完済しても許される人の「貯蓄額(完済後の手残り額)」の安全ラインはいくらですか?

中川 佳人さん:

「借金が残るのは精神的につらい、という気持ちはもっともです。そのうえで、退職金で住宅ローンを完済しても大きな問題が起きにくい安全ラインとして考えたいのは、完済後に最低でも生活費の2〜3年分程度の現預金や、すぐに現金化できる資産が手元に残るケースです。ローンがなくなる安心感と引き換えに、生活を支える資金まで失ってしまうと、老後の選択肢が一気に狭まってしまいます。

老後の生活費は年金で賄える部分がある一方、医療費や介護費、住宅の修繕費など、年金だけでは対応しきれない支出が一定期間に集中する可能性があります。こうした出費は金額も時期も読みづらく、発生したときに現金で対応できるかどうかが、家計の安定を左右します。

たとえば、年間の生活費が300万円程度の家庭であれば、完済後に600万〜900万円程度の現金や流動性の高い資産が残っていれば、急な医療費や修繕費が重なっても、生活が立ち行かなくなるリスクは抑えられるでしょう。一方、この水準を下回る場合は、完済後すぐに資産を取り崩す生活に入る可能性が高まります。

ただし、この金額はあくまで『最低限の目安』です。老人ホームへの入居一時金などを考慮すれば、より多くの資金が必要な場合もあります。だからこそ、事前にライフプランを立て、ライフイベントと必要資金を確認しておくことが重要です。一つの目安として、完済後に生活費の2〜3年分が残らない場合は、一括返済を急がず、老後の資金計画を見直す余地があると言えるでしょう。」

「借金ゼロ」より「安心な現金」を。一括返済は“感情”ではなく“ライフプラン”で判断しよう

退職金でローンをなくしてスッキリしたい」という気持ちは、誰もが抱く自然な感情です。しかし中川さんが警鐘を鳴らすように、老後の長い生活を守るのは、完済した自宅という「不動産」よりも、いつでも使える「現金」であるケースが多々あります。

今回のポイントを整理すると、以下の3点になります。

  1. 現金一括返済は「家計のクッション」を失うリスクがある
  2. 団信は「家族に家と現金を残す」ための重要な保障になる
  3. 完済するなら「生活費の2〜3年分の現金」が手元に残るかが判断基準

住宅ローンは決して「悪」ではありません。低金利で現金を借りておける権利と捉え、あえて完済せずに手元資金を厚くしておくことも、立派な老後のリスク管理です。 「退職金が入ったからとりあえず完済」と急ぐのではなく、まずは一度立ち止まり、ご自身のライフプランや将来の収支と照らし合わせて、冷静な判断を下すことが大切です。


監修者:中川 佳人(なかがわ よしと)(@YoshitoFinance

金融機関勤務の現役マネージャー。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
20年にわたり、資産形成や家計管理・住宅ローンなどの実務に携わってきた経験を活かし、記事の監修や執筆を行っている。
専門的な内容を、誰にでもわかりやすく伝えることをモットーとしている。