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「むしろ症状を悪化させる」 介護のプロが警告。実は『認知症』の人を追い詰めてる…なるべく避けるべき“言葉”とは?

  • 2026.1.21
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「さっきご飯を食べたばかりなのに、『まだ食べていない』と訴えられる……」。認知症介護の現場でよくある悩みですが、つい発してしまう「さっき食べたでしょ!」という否定的な言葉が、実は症状を悪化させているかもしれません。

本記事では、現役ケアマネジャーのeruruさんが、記憶障害と感情に関わる脳内メカニズムを解説。

なぜ否定してはいけないのか、そして明日から実践できる「共感」をベースにした具体的な対応策について詳しくご紹介します。

「ご飯を食べた」を忘れる原因は? 脳のメカニズムと否定的な言葉が招く悪循環

---認知症の方が「さっきご飯を食べた」という記憶を失ってしまう背景には、脳のどの部分の機能低下が関わっており、否定的な言葉がその症状をさらに悪化させるメカニズムについて教えてください。

eruruさん:

人の記憶は、細かく分けると即時記憶、短期記憶、長期記憶に分類されます。即時記憶は数秒~数十秒前の記憶で、短期記憶は数分~数時間程度、長期記憶は昔の記憶になります。

認知症の方で良くみられるのが、昔のことは覚えているのに、最近のことを忘れてしまうといった症状です。
これは長期記憶に含まれる、自分が体験した出来事の記憶や自転車の運転といった体で覚えた記憶は忘れにくいといった特徴があるからです。

反対に数秒前~数時間前の記憶は比較的忘れやすいです。認知症の方の「ご飯を食べたことを忘れる」という症状は“短期記憶の障害“に含まれます。

では、短期記憶の障害は脳のどの部分の機能低下によって引き起こされるのでしょうか?最も影響を与えるのは“海馬”という部分です。海馬の役割は短期記憶を長期記憶へ変換することです。

先ほども伝えた通り、人の記憶は長期記憶へ移行するほど忘れにくくなります。しかし、海馬が機能低下を引き起こすことで、短期記憶から長期記憶への変換がされずに、忘れやすくなってしまうのです。

特にアルツハイマー型認知症では、最初に海馬の萎縮(海馬自体が小さくしぼむイメージ)が起こるため、ご飯を食べたことを忘れてしまったり、同じ話を何回も繰り返してしまったりする症状が見られます。

そんな物忘れに対して“否定的な声掛け“を行うと、症状がさらに悪化することをご存じでしょうか。

では、なぜ声掛け一つで症状の悪化が起こるのでしょうか。その理由は、“感情”と“記憶”が関係しています。

「また忘れたの?」「さっきも言ったでしょ!」といった否定的な言葉は、言われた方の感情を大きく動かします。自分が言われた場合、“恥ずかしい”や“イラつき”といった感情が湧いてきませんか?
この感情により、脳の“扁桃体”という部位の活動が非常に大きくなります。

扁桃体の活動が大きくなることで、相対的に海馬の活動が低下し、更なる認知機能低下と言った悪循環を引き起こすことになります。

また、否定を繰り返されることで「どうせ覚えられない」といった学習性の無力感が生じ、前頭前野の活動量が低下します。その結果、物事を覚えようという意欲自体が弱まっていき、症状の悪化を招いていきます。

「怒られた」感情だけが残るリスク――心理的孤立が招くうつや身体機能の低下

---認知症の方が同じことを何度も繰り返したり、物忘れが目立つ場面で、家族が善意でかける言葉(例:「さっき言ったでしょ」「何度も同じこと聞かないで」など)が、症状の悪化や心理的な孤立を招くリスクはありますか?

eruruさん:

「さっき言ったでしょ」や「何度も同じことを聞かないで」といった声掛けは、“否定的な声掛け”になります。

認知症の方からは、否定的な声掛けをされた記憶はすぐに忘れてしまいますが、「怒られた」といった負の感情は消えずにずっと残り続けます。恐怖心は脳内の扁桃体を大きく活動させますから、記憶を司る海馬の活動が相対的に低下し、さらなる症状の悪化に繋がってしまいます。

また、否定的な声掛けは心理的な孤立を招くリスクが非常に高いです。否定的な声掛けが繰り返し行われると、認知症の方は「私が話すと怒られる」、「私は皆に迷惑をかけている」と感じてしまいます。その結果として、会話を控えるようになったり、自分自身の不安を話せなくなってしまい、心理的な孤立に直結していきます。

さらに、心理的な孤立は他の病気の発症や身体機能の低下にも繋がります。

気の知れた家族や友人に話したいと思うのが普通かと思います。しかし、認知症を患い、否定的な声掛けばかりされた方は「話すと怒られる」という恐怖心から、家族にも話せずに抱え込んでしまうため、うつ病の発症リスクが非常に高くなってしまいます。

また、心理的な孤立感を感じている場合、住んでいる家自体が“安心できる場所”ではなくなっている可能性があります。そんな安心できない場所では、残っている体の残存機能を発揮しずらくなり、足腰の力が弱くなる、トイレを失敗するようになるといった身体機能の低下に繋がっていきます。

明日からできる解決策――まずは「共感」から。視覚情報の活用と介護者の心のケア

---認知症の方が「ご飯をまだ食べていない」と訴えたとき、家族が否定せずに対応できる、明日からすぐに実践できる具体的な声かけや工夫を教えていただけますでしょうか。

eruruさん:

身近な存在である家族だからこそ、「しっかりしてよ!」と思う気持ちから、強い口調や否定的な声掛けをしてしまう場合が多いかと思います。ですが、否定的な声掛けをしても、物忘れは良くなりませんし、むしろ症状を悪化させるリスクがあります。
さらに他の病気の発症や身体機能の低下といった悪循環を招く可能性がありますから、できる限り使わずに接してあげられるといいですよね。

では、否定的な声掛けではなく、どんな声掛けをすればよいのでしょうか。

認知症の方が「まだご飯を食べていない」と言ってきたときに、「さっき食べたでしょ!」や「ご飯食べたことをもう忘れたの!?」という声掛けは否定的なので控えてください。
この声掛けは、“食事をした”という事実だけを本人へ一方的に伝えてしまっています。

話す中でご飯を食べたという事実を伝えることは非常に大切ですが、まず相手の話に共感してあげてから、事実を伝えてあげると否定的な声掛けになりにくいです。
具体的な声掛けとしては、「お腹が空いたんだね?でも何時にご飯を食べたよ?」といった感じです。事実を伝える前に共感するだけで、否定的な声掛けには感じなくなります。

まずは、共感から入り、事実を伝えるという話し方を意識するだけでも、否定的な声掛けは少なくなってくると思います。また、私がケアマネとして担当している認知症の方では、食後の食器を片付けないという方法を取っている方もいます。

この方は家族に対して「まだご飯食べていない」「全然ご飯をくれない!」と感情的に訴える方です。
ご家族様も熱心に「何時に食べましたよ?夕飯まであともう少しですから待ってくださいね」と優しく声掛けをしていましたが、認知症の進行とともに声掛けだけでは対応できなくなっていました。

そこで取り入れたのが、食後の食器を洗わずにキッチンに置いておく方法です。「ご飯を食べてない!」と言われた際に、「何時にお昼ご飯を食べましたよ。一緒に食器を見てみましょう。」と使った食器を一緒に見ることで納得されていました。

他にもホワイトボードにご飯を食べた時間などを書いて、視覚から認識してもらう方法も人によっては有効ですし、食事中の写真を撮って、後から一緒に確認するのも有効な場合があります。

方法はたくさんありますが、うまくいくかは別で、私も現場で実践してもうまくいかないことの方が多いです。その度に、次はこうしてみようかな?や他にどんな方法が有効かな?と考えます。

しかし、一緒に暮らしている家族の場合は、そこまで考えてしまうと介護の負担が非常に大きくなってしまいます。
介護負担が大きくなるとイライラし、否定的な声掛けを行いやすくなってしまいますので、まずは共感からの声掛けができただけで十分“良い介護“ができていると誇りに思ってください。

そして、担当のケアマネが付いている場合などは相談してみてください。地域によっては在宅で介護を行う方々が集まって、情報交換や悩みの共有を行う場を設けていることがあります。介護する側の精神的負担が減少し、気持ちに余裕をもてることが介護をするうえで最も大切になります。

否定せずに「共感」を。介護者自身の心の余裕が、良いケアへの第一歩

認知症の方の「忘れる」症状には、海馬や扁桃体といった脳の仕組みが深く関係しています。否定的な言葉は、記憶よりも「嫌な感情」として強く残り、症状を悪化させる原因になりかねません。

大切なのは、事実を突きつける前にまず「共感」すること。そして、介護するご家族自身が一人で抱え込まず、ケアマネジャーなどの専門家を頼ることです。「今日は共感できた」と自分を褒めながら、無理のない範囲で向き合っていきましょう。


監修者:eruru

4年制大学理学療法学科を卒業後、整形外科クリニックにて3年間勤務
整形外科クリニックにて整形外科疾患や脳血管疾患を含む2000人以上の症例を担当
その後、介護老人保健施設へ転職
数年働く中で、利用者の身体的な改善だけでなく、家族の力にもなりたいと考え、介護支援専門員の資格を取得
現在は介護老人保健施設にて理学療法士兼介護支援専門員として勤務
今後ますます高齢者が増えていく中で、理学療法士として高齢者の健康寿命の増加と安全な在宅での生活を目指し、介護支援専門員として家族が安心して介護できる環境づくりや適切な介護保険サービスの提供に励んでいます