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「1億円近い賠償命令が出るケースも」“自転車事故”の加害者になった家族の末路…→弁護士「自己破産しても免除されない可能性」

  • 2026.1.21
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「たかが自転車」と甘く見ていませんか?近年、自転車事故でも数千万円から1億円近い賠償命令が出るケースが増えています。

もし保険に入っていない状態で、自分の子供が加害者になってしまったら――。「自己破産すればチャラになるのか?」「親はどこまで責任を負うのか?」など、ネット上の噂の真偽や、最悪の事態に備えて知っておくべき法的な現実について、ベリーベスト法律事務所齊田貴士 弁護士に解説していただきました。

「自己破産でも逃げられない」は本当か? 給与・自宅の差し押さえなど、高額賠償のリアルな取り立て

---もし高額の賠償命令が出て、保険もなく親が支払えない場合、法的には具体的にどのような『取り立て』が行われるのでしょうか? 給与の差し押さえや自宅の売却はもちろん想定されますが、『自転車事故の賠償金は、自己破産しても免除されない(逃げられない)可能性がある』というのは本当でしょうか?

齊田 貴士さん:

「法的に取り得る強制執行の手段としては、(不動産を所有している場合には)不動産を競売にかけるなどして債権回収を図る不動産執行、所有するブランド品などの動産を差押え現金化して債権回収を図る動産執行、給料や銀行への預金などを差押えて債権回収を図る債権執行などの方法があります。

『自転車事故の賠償金は、自己破産しても免除されない(逃げられない)可能性がある』というのは本当です。

具体的には、悪意(積極的な害意)で加えた不法行為に基づく損害賠償債務(破産法253条1項2号)、故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償債務(同3号)のような賠償金は非免責債権であるため、自己破産しても免責(免除)されません。」

「口うるさく注意していた」は通用しない? 親の『監督義務』の境界線

---未成年の子供が事故を起こした場合、親は『監督義務者』としての責任を問われますが、具体的にどの程度子供を管理していれば『義務を果たした』と認められるのでしょうか?裁判の実務上、親が『日頃から交通ルールを守るよう口酸っぱく言っていた』という程度の主張で、責任を免れたり減額されたりするケースは本当にあるのでしょうか? それとも、事故が起きた時点で親の責任はほぼ回避不可能なのでしょうか?

齊田 貴士さん:

「前提として、未成年者の責任能力(自分の行為の責任を弁識することができるだけの知能を有している状態をいいます。裁判例などでは12歳前後が責任能力の境界線になると考えられています。)の有無により監督義務者としての責任の度合いが変わってくるので整理すると、以下のようになります。

1.未成年者に責任能力が無い場合
この場合、未成年者自身は賠償責任を負わない一方(民法712条)、自身の監督義務を怠らなかったこと又は監督義務を怠らなくても損害が生じるものであったことを証明しない限り、監督義務者である親が原則として賠償責任を負います(同714条)。

この場合、監督義務を怠らなかったということの証明は、非常に困難であり、単に、不法行為時に子どもが直接的な監視下になかったという理由だけでは、親の監督責任は免れることはできません。日常的に未成年者の生活全般について具体的に監督義務を尽くしていたこと、または尽くしていても損害が生じうるものであったことを立証する必要があります。
それゆえ、裁判の実務上、親が『日頃から交通ルールを守るよう口酸っぱく言っていた』という程度の主張で、責任を免れたり減額されたりするケースはほとんど無いと言ってよいと思います。

2.未成年者に責任能力がある場合
これに対し、未成年者に責任能力がある場合は、原則として、加害者本人である未成年者自身が賠償責任を負います。
そして、親は、未成年者による不法行為による結果と親の監督義務違反との間に相当因果関係がある場合に、監督義務者としての不法行為責任が生じ、賠償責任を負うことになります(最判昭和49年3月22日判決)。
例えば、以下のようなケースが挙げられます(判例タイムズ1145号)。

①未成年者が不法行為をしたときに親が現認していた場合
②未成年者が不法行為に供した道具が親から渡されたものであり、用法の指示を怠った場合
③未成年者が日頃から非行傾向があり、他人に何らかの危害を加えるおそれが 具体的に予見できたにもかかわらず、十分な監護や教育を怠った場合
④車や自転車等の運転において、精神的、肉体的に運転に支障がある状況だったのに運転を差し止めなかった場合
⑤日頃から未成年者の行動を把握しないで問題性に気付かなかった場合

この場合、未成年者の年齢や具体的な状況、結果との関係において親の監督義務違反の有無を判断します。

それゆえ、親が『日頃から交通ルールを守るよう口酸っぱく言っていた』という程度の主張で、責任を免れたり減額されたりするかはケースによりますが、親として尽くすべき監督義務を果たしていると判断されれば、1.と異なり、責任を免れたり減額されたりする可能性は相当程度あります。」

なぜ「自転車事故」で数千万円の賠償命令が? 事故の重篤化と賠償額が跳ね上がる計算の仕組み

---かつては自転車事故というと軽微なものと見なされがちでしたが、なぜ近年、自動車事故並み、あるいはそれ以上の高額判決が出るようになったのでしょうか? 被害者が高齢者の場合や、後遺障害が残った場合に賠償額が跳ね上がる『計算の仕組み』や、近年裁判所が自転車事故を厳罰化(厳格化)している傾向について教えてください。

齊田 貴士さん:

「高額判決が出るようになった要因は色々あると思いますが、1つは自転車の性能が向上した一方、ながらスマホなど交通ルールを守らない人が増え、交通事故による被害が重篤化するケースが増加したためだと思われます。

交通事故で発生する損害賠償金の内訳は、治療費や入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、将来介護費など多岐の費目にわたるところ、重篤化により、各費目が増えれば、おのずと総額も増えるからです。

それこそ、後遺障害の認定を受ければ、等級に応じて、後遺障害慰謝料だけで数百万から数千万の慰謝料が加算されます。
また、被害者が高齢者の場合、将来介護費(介護費用日額 × 365日 × 平均余命に対応するライプニッツ係数)等も加算されるため、賠償額も高額になりやすいです。」

自己破産も通用しない「一生の借金」。自転車事故はもはや自動車事故と同じ

今回の解説で、自転車事故の賠償金は「自己破産すれば逃げられる」という甘い考えが通用しないケースがあること、そして親が責任を免れるハードルがいかに高いかが明らかになりました。

数千万円の賠償命令は、加害者家族の生活を根底から覆します。「口酸っぱく注意しているから大丈夫」と過信せず、万が一の際に被害者と自分たちの生活を守るための経済的な備え(保険加入など)を、今一度確認しておく必要があります。


監修者名:ベリーベスト法律事務所 弁護士 齊田貴士

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神戸大学法科大学院卒業。 弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、 税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。