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「働きすぎると年金が減る」は間違いだった。手取りも年金もアップする、60代からの“賢い働き方”とは?【お金のプロが解説】

  • 2026.1.20
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

65歳以上で年金をもらいながら働く場合に直面する「在職老齢年金制度」。収入が増えると年金が減ってしまうこの仕組みに、多くの人は戸惑いや不安を感じているのではないでしょうか?「なぜ年金が減るのか?」「働き方を工夫すべきか?」という疑問も尽きません。今回、元厚生労働省FPの柴田 充輝さんに取材し、2026年4月からの制度改正を踏まえた正しい理解と、長期的に賢く働くためのポイントを解説します。この記事を読めば、年金と仕事のバランスをどう考えるべきかが見えてきます。

在職老齢年金制度って何?基本の仕組みを押さえよう

---働きながら年金を受給する高齢者が「在職老齢年金制度」によって支給額を減額される仕組みについて、具体的にどのような収入基準が影響しているのでしょうか?

柴田 充輝さん:

在職老齢年金制度とは、老齢厚生年金の月額である「基本月額」と、月々の給与・賞与をならした「総報酬月額相当額」の合計が支給停止調整額を超えた場合に、年金の一部または全部をカットする制度です。

「基本月額」とは、老齢厚生年金(報酬比例部分)の年額を12で割った額で、「総報酬月額相当額」とは、その月の標準報酬月額に直近1年間の標準賞与額の合計を12で割った額を足したものです。つまり、月給だけでなく賞与も月額に換算して計算に含める仕組みになっています。

現行制度の支給停止調整額は、2025年度で51万円です。具体的な計算式は「支給停止額(月額)=(基本月額+総報酬月額相当額-51万円)÷2」となります。つまり、基準額を超えた分の「半額」が年金から差し引かれる仕組みです。

例えば、基本月額が15万円で総報酬月額相当額が40万円の方の場合、合計55万円となり、現行基準の51万円を4万円超過します。この超過額4万円の半分である2万円が支給停止となり、実際に受け取れる年金は月額13万円となります。

2026年4月からは、この支給停止調整額が62万円に引き上げられる予定です。この改正は、高齢者の就労意欲をさらに促進し、年金を受給しながら働き続けやすい環境を整備することを目的としています。高齢者の就労参加だけでなく、企業の人手不足を解消する狙いもあります。

2026年の改正で何が変わる?支給停止調整額引き上げの意味

--年金受給者が「働きすぎによる減額を避けよう」と考えて就労調整(例:月末に早退する、繁忙期の残業を断るなど)をした場合、かえって手取りが減ったり将来の年金額に影響したりする可能性はありますか?

柴田 充輝さん:

年金減額を避けるために就労時間を調整する、いわゆる「働き控え」は、短期的には年金の満額受給を実現できるものの、長期的な視点では必ずしも有利とは限りません。ここでは、2026年4月以降の新基準(62万円)を前提に、具体的なシミュレーションで比較検証してみましょう。

【ケースA】基本月額+総報酬月額相当額が62万円ぴったりの場合

仮に基本月額を12万円、総報酬月額相当額を50万円とすると、合計はちょうど62万円となります。この場合、支給停止調整額の62万円と同額のため、年金は1円も減額されず全額支給されます。

月間の収入は次のとおりです(いずれも税引き前)。

・年金受給額:12万円(全額)
・給与収入:50万円相当(標準報酬月額ベース)
・月間総収入:62万円

【ケースB】基本月額+総報酬月額相当額が65万円の場合

基本月額を12万円、総報酬月額相当額を53万円とすると、合計は65万円となります。62万円を3万円超過するため、支給停止額は「3万円÷2=1万5,000円」となります。

月間の収入は次のとおりです(いずれも税引き前)。

・年金受給額:12万円-1万5,000円=10万5,000円
・給与収入:53万円相当(標準報酬月額ベース)
・月間総収入:63万5,000円

ケースAとケースBを比較すると、ケースBのほうが月間総収入は1万5,000円多くなります。これは、年金が1万5,000円減額されても、給与が3万円増えているためです。つまり、「年金の減額分」よりも「給与の増加分」のほうが大きいため、働くほど手取り総額は増える構造になっています。

さらに重要なのは、働き続けることで将来の年金額が増加するという点です。2022年から導入された「在職定時改定」により、65歳以上70歳未満の厚生年金被保険者は、毎年9月1日時点で厚生年金に加入していれば、前年の8月までに納めた厚生年金保険料がその年の10月の年金受給額に反映されます。

ざっくりとした年金増加額は、標準報酬月額が30万円の場合で、年間約2万円です。65歳から70歳まで5年間、標準報酬月額30万円で働き続けた場合、年金は累計で年間約10万円(月額約8,300円)増加する計算になります。この増加分は70歳以降も生涯にわたって受け取れるため、長生きリスクに備えるうえで効果的です。

長く働くほど得する?年金増加のメカニズムと働き方のヒント

---年金受給額がカットされないよう、働く高齢者が収入を調整する際に押さえておくべき「最も重要なポイント」を教えていただけますでしょうか。

柴田 充輝さん:

先ほどの例でみたように、在職老齢年金制度では、基準額を超えた分の「半分」だけが年金から差し引かれます。逆にいえば、超過分の「半分」は手元に残るわけです。例えば、基準額を10万円超過した場合、年金は5万円減りますが、給与は10万円増えているため、差し引き5万円のプラスになります。「年金が減る=損」と短絡的に考えず、給与と年金の合計である「総収入」がどうなるかで判断すべきです。

なお、年金減額を避けるには、収入を基準額内に調整するだけでなく、厚生年金に加入しない個人事業主として働く方法があります。雇用契約ではなく業務委託契約に切り替えれば、厚生年金には加入しません。つまり、どれだけ報酬を得ても在職老齢年金は関係ありません。

得ている報酬が多く、また勤務先が柔軟に契約内容を変更してくれる余地があれば、検討の余地があるでしょう。このように、「短期的な年金の減額に惑わされず、生涯を通じた総収入の最大化を考える」「制度を正しく理解して、柔軟に対応する」ことが大切です。

ただし、収入を最大化することだけに注目し、心身に負荷をかけすぎるのは決しておすすめできません。長時間労働や体力的に厳しい業務を続けた結果、労災で大きなケガをしてしまっては本末転倒です。

また、仕事以外の時間の価値を再認識することも大切です。趣味、旅行、家族や友人との交流、地域活動、ボランティアなど、充実した自由時間を過ごすことも、人生の豊かさを構成する重要な要素です。仕事を増やした結果、これらの時間が奪われてしまうのであれば、その選択が本当に幸せにつながるのか、きちんと考えてみてください。

「どんな老後を過ごしたいか」というライフプランを総合的に考慮し、バランスの取れた働き方を選択することが、充実した老後生活につながるでしょう。

バランスの取れた働き方と生涯視点での収入計画を

在職老齢年金制度の仕組みと2026年からの改正により、年金と給与の合計で考えれば、積極的な就労が収入アップにつながりやすいことがわかりました。ただし、年金減額を恐れて働き控えるのは短期的な視点であり、長期的には必ずしも得策とは言えません。

重要なのは、生涯にわたる総収入の最大化を目指し、制度を正しく理解して柔軟に対応することです。しかしながら、収入だけに注力して無理な働き方を続け、健康や大切な時間を犠牲にするのは避けるべきです。趣味や家族との時間、地域活動などの自由時間も豊かな老後生活の一部です。

「どんな老後を過ごしたいか」というライフプラン全体を考慮し、自分らしいバランスの取れた働き方を選択することが充実した生活につながるでしょう。


監修者:柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1200記事以上の執筆実績あり。保有資格は1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任士など。