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『60歳で定年退職した人』と『65歳まで働いた人』“年金受給額”に差があった…→社労士「数百万円規模になるケースも」

  • 2026.1.17
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

60歳で定年を迎えたあと、どうするか悩む方は多いのではないでしょうか。65歳まで仕事を続ける選択をした場合と、60歳で退職した場合とで、将来受け取る年金額に大きな差が生じることがあります。この差はどのくらいなのか、なぜ生まれるのか、また働きながら年金を受け取るときに注意すべき点は何か――。あゆ実社労士事務所 加藤あゆみさんの見解をもとに、年金にまつわる疑問や不安をスッキリ解消し、これからの働き方や生活設計の参考にしていただける記事です。

60歳退職と65歳まで勤務で年金額に差が生まれるのはなぜ?

---60歳で定年退職した場合と65歳まで働いた場合で年金受給額に数百万円の差が生じる主な要因として、どのような制度上の仕組みが関わっているのでしょうか?

あゆ実社労士事務所:

「60歳で定年を迎えて退職される方と、65歳まで継続して働かれる方とでは、年金受給額に差が生じることがあります。この差の大きさは、在職中の年収や加入年数、何歳まで生きるかといった前提条件によって変わりますが、数百万円規模になるケースも珍しくありません。この差を生み出している主な要因は、厚生年金の加入期間と報酬比例部分の計算の仕組みにあると感じています。

厚生年金の老齢厚生年金は、加入期間と在職中の平均報酬額によって受給額が決まります。60歳で退職すると、その時点で厚生年金への加入が終了し、65歳から受け取る年金額は60歳までの加入実績で計算されます。一方、65歳まで働き続けると、その5年間も厚生年金に加入し続けることになり、加入期間が延びるだけでなく、その間の給与に応じた保険料納付実績も積み上がっていきます。

ただし、60歳から65歳までの間に働きながら年金を受け取る場合には、「在職老齢年金」という仕組みに注意が必要です。給与と年金の合計額が一定の基準を超えると、年金の一部または全部が支給停止される調整が行われます。このため、給与水準によっては、働いている間は年金が減額されたり受け取れなかったりするケースもあります。ただ、65歳以降に受け取る年金額の計算には、この期間の加入実績もきちんと反映されます。

ある事例をご紹介します。製造業の58歳の方は、「定年後は嘱託で給与が下がるから、年金もあまり増えないだろう」と考えていらっしゃいました。しかし試算してみると、嘱託期間中の月給が20万円程度でも、5年間継続すれば65歳以降の年金額は年間で10万円前後増える計算になりました。これを平均寿命まで受け取ると仮定すると、総額で200万円以上の差になる可能性があります。企業としても、こうした制度の仕組みを従業員に事前に説明する機会があれば、より納得した選択ができるのではないかと思います。」

働きながら年金を受け取るときの注意点は?具体的な効果は?

---60歳で定年退職した場合、65歳まで厚生年金に加入して働き続けた場合と比べて、生涯で受け取る年金額は具体的にどれくらいの差が生まれるのでしょうか?

あゆ実社労士事務所:

「60歳定年退職と65歳まで勤務を続けた場合の生涯年金受給額の差は、これまでの加入年数や給与水準、何歳まで受給するかといった前提条件によって大きく変わりますが、条件によっては数百万円規模の差が生まれるケースもあります。


単純化したイメージ例で考えてみます。大卒で入社し、40年間厚生年金に加入して平均標準報酬月額が35万円程度だった方が60歳で退職した場合、65歳から受け取る老齢厚生年金(報酬比例部分)は年額でおよそ100万円前後です。これに老齢基礎年金が別途80万円程度加わります。一方、同じ条件で60歳以降も再雇用などで月給25万円で5年間働き続けた場合、厚生年金部分が年間で約8万円から10万円増加する計算になります。この増加分を85歳まで受給すると仮定すると、20年間で160万円から200万円程度の差になります。ただし実際には、在職老齢年金による支給停止の有無や、配偶者が65歳に達するまで受給できる加給年金の影響などもあり、個々の状況によって増加幅は変動します。

ある事例では、運送会社で働く59歳の男性が「体力的にきついから60歳で辞めたい」と相談に来られた方がいたようです。ただ家計を見直してみると、住宅ローンが残っており、退職金だけでは不安がある状況でした。そこで再雇用制度を使って週4日勤務に切り替え、65歳まで働くことを選ばれました。5年後、「年金が思ったより増えて助かった」と話してくださっていたようです。

もちろん、健康状態や家庭の事情、働く意欲など、金額だけでは測れない要素もあります。ただ、働き続けることで生涯受給額にどの程度の差が出るかを知った上で選択することと、知らずに選ぶこととでは、後々の納得感が大きく変わるのではないかと思います。」

65歳まで働くか検討するときにまずすべきことは?

---60歳での定年退職を考えている方が、65歳まで働く選択をするために、まず最初に確認・準備すべき具体的なステップを教えていただけますでしょうか。

あゆ実社労士事務所:

「60歳での定年退職を考えている方が、65歳まで働く選択肢を検討する場合、まず最初にしていただきたいのは、自分の年金見込額の確認と、勤務先の継続雇用制度の内容把握です。この2つを押さえることで、現実的な判断材料が揃うと感じています。

年金見込額については、「ねんきんネット」や毎年届く「ねんきん定期便」を活用すると、60歳時点での受給見込額と、65歳まで働いた場合の増加額をシミュレーションできます。特に50歳以上の方には、将来受け取れる年金額の見込みが具体的に記載されていますので、まずはこれを確認することが第一歩です。相談を受けた中には、「定期便は毎年捨てていた」という方も少なくありませんが、一度きちんと見てみると「思ったより少ない」「意外と増える余地がある」といった気づきが生まれます。

次に重要なのが、勤務先の継続雇用制度の内容です。多くの企業では再雇用制度や勤務延長制度がありますが、給与水準、勤務日数、職務内容、契約形態などは企業によってまちまちです。ある建設会社では、60歳以降も正社員のまま勤務できる制度がありましたが、別の小売業では嘱託契約になり、給与が約6割に下がるケースもありました。どちらが良い悪いではなく、自分の生活設計とすり合わせるために、早めに人事部門に確認しておくことが大切です。

そして忘れがちなのが、配偶者や家族との話し合いです。「もう少し働きたい」と本人が思っていても、家族は「そろそろゆっくりしてほしい」と考えているケースもあります。逆に、家計を支える必要性を家族と共有することで、働く意欲が高まることもあります。一人で抱え込まず、早めに対話の機会を持つことが、納得できる選択につながるのではないかと思います。」

年金受給額の差を知り、知識を持って選択しよう

60歳での定年退職後にどのように過ごすかで、65歳以降の年金受給額に大きな差が生じる可能性があります。厚生年金の加入期間や報酬に基づく仕組みがその背景にありますが、働きながら年金を受け取る場合の「在職老齢年金」の調整も理解することが大切です。

この記事を通じて、具体的なケースからもわかるように、65歳までの勤務継続によって数百万円の差が生まれることもあります。だからこそ、自分の年金見込み額を把握し、勤務先の制度をしっかり確認したうえで、家族とも話し合いながら納得のいく決断をすることが重要です。

これからの人生設計を考える際には、年金制度の仕組みを正しく理解し、知識を持って選択することが、心の安定と安心に繋がります。


監修者:あゆ実社労士事務所
人材育成・キャリア支援を軸に約10年の実務経験を持つ、社会保険労務士/国家資格キャリアコンサルタント。
IT企業の人事として、新卒・若手育成、研修設計、評価・キャリア支援の仕組みづくりに携わる一方、個人では企業や個人に向けたキャリア相談・人事支援を行っている。
これまでに累計100名以上のキャリア面談を実施し、1on1制度設計や面談シートの設計、育成施策の言語化を支援。