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「パワハラと認定される」社会労務士が警告。部下を指導するつもりが“違法”に…上司が注意すべき「法的にアウトな言葉」とは

  • 2026.1.5
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

仕事で部下が同じミスを繰り返すと、つい感情的になり「この仕事に向いていない」「やる気がないなら帰れ」といった厳しい言葉を投げかけたくなるものです。

しかし、これらの言葉がパワハラと認定されるリスクがあるとしたら、どうすれば部下を正しく指導できるのでしょうか?

管理職として、法的に問題のない適切な指導とは何か、言葉の選び方や伝え方のポイントが気になる方も多いはずです。今回は、部下の改善を促しながら自分自身も守るための指導法を、あゆ実社労士事務所 加藤あゆみさんに詳しく伺いました。

部下の能力否定はパワハラ?適正な指導と言えない言葉とは

---『お前はこの仕事に向いていない』『やる気がないなら帰れ』といった言葉は、上司としては発破をかけるつもりでも、法的にはアウトになるケースが多いと聞きます。なぜこれらの言葉が『指導』ではなく『人格否定』とみなされるのでしょうか?重視される『NGライン』を教えてください。

あゆ実社労士事務所 加藤あゆみさん:

「部下が同じミスを繰り返すと、つい「この仕事に向いていない」「やる気がないなら帰れ」と言いたくなる気持ちは理解できます。しかし、これらは法的に「適正な指導」の範囲を超え、パワハラと認定されるリスクが極めて高い言葉です。

法律上、指導には「業務上の必要性」と、手段としての「相当性」が求められます。「向いていない」という言葉は、特定の行動への指摘ではなく、部下の能力や資質(人格)そのものの否定です。

また、「帰れ」という言葉も、上司に発破をかける善意があったとしても、受け手や客観的状況によっては「退職強要」や「就労拒否」とみなされます。これでは部下は改善のしようがなく、手段として不適切です。

重要な境界線は、「直すべき『事象』を指しているか、相手の『存在』を評価しているか」にあります。 例えば、資料作成のミスに対し「数値が間違っている。確認手順を見直そう」と伝えるのは、改善可能な『事象』への指導です。しかし、同じミスでも「お前は本当に使えない(能力否定)」や「性格が雑なんだよ(性格否定)」と言ってしまうのは、業務改善とは無関係な『存在』への攻撃となります。
たとえ指摘内容自体が正しくても、人格を全否定する表現を使えば、指導の目的(業務改善)と手段(人格攻撃)のバランスが崩れ、違法となります。熱意があるからこそ、変えられない「資質」ではなく、変えられる「行動」や「事実」にフォーカスすることが、上司であるあなた自身を守ることになるのです。」

指導は場所・手段を考慮すべき!公開の場はパワハラのリスク増大

---言葉の内容だけでなく、『言う場所』も重要だと聞きます。例えば、他の社員がいる前で大声で叱責することや、チャットツール(SlackやLINE)のグループメンションでミスを晒す行為は、法的にどれくらいリスクが高いのでしょうか? 『見せしめ』がパワハラ認定される法的根拠について教えてください。

あゆ実社労士事務所 加藤あゆみさん:

「管理職の方の中には、「他のメンバーへの引き締め効果(見せしめ)」や「情報共有の効率化」を意図して、あえて皆の前やグループチャットで厳しい指摘をするケースがあるかもしれません。しかし、法的なリスク管理の観点からは、これらは「場所の選定」において大きなマイナス評価を受ける要素となります。

たとえ指導内容自体が正当なもの(例:ミスの指摘)であったとしても、それを他者の面前で行うことには「業務上の必要性」が乏しいとされることが多々あります。なぜなら、個人のミスを修正する指導は、本来であれば一対一で行えば足りるはずだからです。あえて公開の場で行うことは、部下に過度な屈辱感を与え、周囲に対して萎縮効果を生じさせる行為とみなされます。裁判例などでも、長時間にわたる公開叱責は、指導の域を超えた「名誉感情の侵害」や「精神的攻撃」として、違法性を認定する重要な根拠となっています。

特に注意が必要なのが、SlackやLINE、Teamsなどのチャットツールです。対面での言葉は時間と共に消えますが、テキストは「記録」として永続的に残り、スクリーンショット等で容易に「拡散」されます。また、文字だけの情報は感情が伝わりにくく、発信者が思っている以上に冷たく、威圧的に受け取られがちです。「皆が見ている場所」かつ「証拠が残る場所」で個人を攻撃することは、パワハラの証拠を自ら作成・配布しているようなものです。

「内容が正しければ、どこで言ってもいい」わけではありません。法的な評価では、「その手段(場所・方法)が、目的(指導)に対してバランスが取れているか」が厳しく問われます。緊急性が極めて高い場合(例:今すぐ止めないと事故になる)を除き、個人のミスや態度の改善を求める指導は、別室や個別のメッセージで行うのが鉄則です。「プライバシーへの配慮」は、管理職に求められる重要な法的リテラシーの一つなのです。」

感情を抑え事実に焦点を!言葉の組み立てで業務改善を促す方法

---とはいえ、部下が重大なミスを繰り返せば厳しく注意しなければなりません。パワハラと言われずに、かつ事態の深刻さを伝えるためには、具体的にどのような言葉を選べばよいのでしょうか? 『なんでできないの?』を『次はどうする?』に変えるような、法的にセーフな『言い換えリスト』を教えてください。

あゆ実社労士事務所 加藤あゆみさん:

「何度もミスを繰り返されると、つい「なんでこんなこともできないの?」「何度言えばわかるんだ」と感情的な言葉が出そうになるかもしれません。

しかし、これらの言葉は「過去の失敗への非難」と「能力への疑問」を含んでおり、部下の反発を招く上に法的リスクも高めます。厳しい指導を行う際に重要なのは、感情のボリュームを下げる代わりに、事実の解像度を上げることです。
具体的には、以下の3つのステップで言葉を組み立てる「言い換え」をおすすめします。

①事実(Fact):客観的な状況のみを伝える ×「いつも遅い」 ○「締め切りから2時間過ぎているよ」
②影響(Impact):その事実が業務にどう影響したかを伝える ×「迷惑なんだよ」 ○「これがないと、次の工程の田中さんが作業を始められなくて困っている状況だ」
③期待(Action):次にとるべき具体的な行動を問う ×「なんでできないの?(Why)」 ○「次はどうすれば期限内に終わると思う?(How)」

例えば、「なんでできないの?」という問い詰めは、部下に「自分はダメだ」という自己否定を強いるだけで、解決策を生み出しません。これを「次はどうする?」という未来志向の問いに変えるだけで、それは人格攻撃ではなく業務改善の対話になります。
また、厳しさを伝える際に「私は」を主語にする(アイ・メッセージ)も有効です。「(あなたは)常識がない」と言うと人格否定になりますが、「このミスが続くと、(私は)あなたに重要な仕事を任せられなくなってしまい残念だ」と伝えれば、それは上司としての正当な評価と懸念の表明になります。
法的にセーフな指導とは、決して「甘やかすこと」ではありません。「怒る(感情をぶつける)」のではなく、「叱る(改善を促す)」こと。人格には触れず、あくまで「業務の基準(スタンダード)」と「現状のギャップ」を淡々と、しかし毅然と埋めていく作業こそが、自分を守り、部下を育てるマネジメントなのです。」

冷静かつ具体的な指導こそがパワハラ回避と成果向上の鍵

「部下のミスを叱る」ときには、人格や資質を否定する言葉を避け、問題となっている具体的な事実や行動に焦点を当てることの重要性が明らかになりました。また、指導の場として他者の面前や公のチャットを選ぶことは、部下に過度な屈辱を与えかねず法的なリスクも高まります。個別に、プライバシーに配慮した環境で冷静に指摘することが求められます。

さらに、感情的な言葉を控え、事実の提示→影響の説明→具体的な改善策の提案というステップで対話を組み立てる「言い換え」テクニックは、部下の理解と協力を促し、円滑な業務改善へとつながります。管理職としての法的リテラシーを高めることで、自他共に守りつつ、より良いチームを育てることが可能です。明日からは、感情を抑え、論理的かつ配慮ある指導法を心がけてみてはいかがでしょうか。


監修者:あゆ実社労士事務所
人材育成とキャリア支援の分野で約10年の経験を持ち、社会保険労務士・国家資格キャリアコンサルタントとしても活動。
累計100名以上のキャリア面談を実施し、1on1面談制度の設計やキャリア面談シート作成などを通じて、組織の人材定着と成長を支援してきた。
新入社員向け「ビジネスマナー」「マインドセット」「ロジカルシンキング」研修やキャリア研修では、企画・コンテンツ作成から講師まで一貫して担当。
人間関係構築や部下育成、効果的な伝え方に関する豊富な実務経験を活かし、読者や受講者が一歩踏み出すきっかけとなる関わりを大切にしている。