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30年前、最前線に置かれた“鋭すぎるロック” ヒットバンドが自ら壊しにいった決別前夜

  • 2026.1.11
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Google Geminiにて作成(イメージ)

1996年2月。J-POPは相変わらず強く、分かりやすく、感情を代弁する音楽が主流だった。WANDSもまた、その中心にいた存在だ。だからこそ、このシングルは少し異様だった。いつものように売れる構えをしながら、明らかに“噛みつく気配”を隠していない。

WANDS『WORST CRIME〜About a rock star who was a swindler〜』(作詞:上杉昇・作曲:柴崎浩)――1996年2月26日発売

WANDSにとって11枚目のシングルであり、上杉昇と柴崎浩が在籍した最後のシングル。この事実は後から知られることになるが、音を聴けば、その予感はすでに刻まれていた。

真っ向勝負のロックサウンドが放つ違和感

この曲のサウンドは、決して内省的でも、抽象的でもない。歪んだギターが前に出て、リズムはタイトに前へ進む。構成も複雑さを避けた、真正面からのバンドロックだ。

柴崎浩の作曲は、90年代半ばのロックとして非常に素直だ。だが、その素直さが逆に不穏だった。キャッチーで分かりやすい音像の中に、居心地の悪いトゲだけがはっきり残る

これは音で挑発しているのではない。“態度”がロックになっている曲なのだ。

上杉昇が選んだ、逃げない言葉

上杉昇のボーカルも、距離を取るような歌い方ではない。語気は強く、言い切る。感情を包まず、そのまま前に出す。歌詞は説明的ではなく、具体的な物語も描かれない。それでも、何かを告発している感触だけは確実に伝わる

皮肉、苛立ち、不信感。それらが整理されないまま、ロックのフォーマットに押し込められている。だからこの曲は、共感しやすくない。分かりやすい感動も、安心できる余韻も用意されていない。

ヒットの文脈から意図的にズレた一手

当時のWANDSには、もっと“安全な選択肢”がいくらでもあった。だが彼らは、あえてこの曲をシングルとして世に出した。その結果、作品はヒットバンドの新作でありながら、どこか異物のように受け取られた。

売れているのに、迎合していない。このズレこそが、この曲の核心だ。

終わりを告げるのではなく、壊して去った一曲

『WORST CRIME〜About a rock star who was a swindler〜』は、別れを美しく演出する曲ではない。

感謝も、総括も、用意されていない。あるのは、今の場所に居続ける気はない、という強烈な意思表示だけだ。だからこそ、この曲は30年経った今も、訴えかけるものがある。

そして、それこそが、上杉昇と柴崎浩がWANDSに残した、最後のリアルだった。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。