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30年前、CMを通して広がった“30万ヒット” 挑発的なタイトルのワケ

  • 2026.1.10

1996年。まだ「自分らしさ」という言葉が、今ほど軽やかに使われていなかった時代。街には背伸びしたファッションと、少し尖った言葉が溢れ、若さそのものが試されているような空気があった。街のネオンは強く、夜の音楽はどこか攻撃的で、それでいて孤独も同時に抱え込んでいた。

そんな96年2月、強いビートと挑発的なタイトルを携えた1曲が放たれる。それは露骨な主張ではなく、「強く振る舞うこと」そのものを音楽にしたような存在感だった。

hitomi『Sexy』(作詞:hitomi・作曲:小室哲哉)――1996年2月28日発売

強さをまとうために選ばれた名前

hitomi『Sexy』は、彼女にとって5枚目のシングルにあたる。デビューから数年が経ち、アーティストとしての輪郭が徐々に定まりつつあった時期だ。小室哲哉プロデュースによるサウンドはすでに確立されていたが、hitomiの作詞は、よりパーソナルな方向へと踏み出している。

この曲が印象的なのは、「Sexy」という直接的な言葉を掲げながら、決して過剰な演出に寄りかからない点にある。タイトルだけを見れば刺激的だが、楽曲全体はどこかクールで、抑制が効いている。それは見せつける強さではなく、選び取った態度としての強さだった。

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hitomi-1999年撮影(C)SANKEI

クラブミュージックと日常のあいだで

サウンドは、当時の小室作品らしい打ち込み主体のダンスチューン。タイトなリズムとシャープなシンセが前に出ながらも、メロディは意外なほどフラットに進んでいく。盛り上がりすぎない構成が、かえって都会的な冷静さを際立たせている。

hitomiのボーカルも同様だ。感情をぶつけることはなく、一定の距離感を保ったまま言葉を置いていく。途中に差し込まれるラップもタイトル通りの艶めきがある。その歌い方が、この曲を単なるダンスナンバーではなく、90年代半ばの空気をまとったポップソングとして成立させている。

クラブで鳴っていそうで、実は日常の延長線上にもある。そんな曖昧な立ち位置が、この曲の居心地の良さにつながっていた。

CMを通して広がった「都会の温度」

『Sexy』はTBCのCMソングとして起用され、楽曲はテレビを通じて幅広い層に届いていく。CMで流れる洗練された映像とサウンドは、「美」や「自立」といったイメージと自然に結びつき、hitomiという存在をより立体的に印象づけた。

結果的にこのシングルは30万枚以上を売り上げ、派手な爆発ではないものの、確かなヒットとして記録されている。ランキングや話題性だけで語られる曲ではないが、当時の生活の中に、静かに入り込んでいた楽曲だったことは間違いない。

強気と不安が同時に鳴っていた時代

1996年という年は、音楽もファッションも「自信」と「迷い」が同居していた時代だった。前に進もうとする勢いと、足元を確認する慎重さ。その両方が、hitomi『Sexy』の中には同時に存在している。

だからこの曲は、聴く人に何かを教えるわけでも、感情を代弁しすぎるわけでもない。ただ、あの頃の「強くありたかった自分」をそっと思い出させる。それが、この曲が30年経った今でも、どこか懐かしく、そして少しリアルに響く理由なのだろう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。