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25年前、少女たちが置いた“テレビの余白” バラエティ発ユニットが残した静かなデビュー曲

  • 2026.1.10

2001年の2月。街にはまだ冬の名残があり、桜の話題には少し早い空気が流れていた。テレビをつければ、にぎやかな笑い声と軽快なトーク。その裏側で、どこか落ち着いた温度を持つメロディが、静かに耳に残ることがあった。

てん・むす『さくらさく』(作詞・作曲:黒須チヒロ)――2001年2月21日発売

バラエティ番組から生まれたユニットのデビュー曲でありながら、この楽曲は即席的な明るさではなく、立ち止まるような優しさをまとっていた。

テレビの中から生まれた、少し不思議な存在

てん・むすは、日本テレビ系音楽バラエティ番組『THE夜もヒッパレ』から誕生した女性アイドルグループだ。

メンバーは、松田純、有坂来瞳、山川恵里佳、大谷みつほ、酒井彩名の5人。いずれも当時、グラビアやドラマ、バラエティで個々に活動していた顔ぶれだった。

重要なのは、彼女たちが「歌手になるためだけ」に集められた存在ではなかったという点だ。それぞれが異なるフィールドで経験を積んできたタレントであり、その集合体として生まれたのが、てん・むすだった。

だからこのグループには、いかにもな“統一された物語”がない。その代わりに、少しずつ違う呼吸が重なった、不思議なリアリティがあった。

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てん・むす。(左から)酒井彩名、山川恵里佳、大谷みつほ、有坂来瞳、松田純-2001年撮影(C)SANKEI

派手さを避けた、ミディアムバラードという選択

デビューシングル『さくらさく』は、ミディアムバラードナンバーとして制作されている。

番組発ユニットのデビュー曲と聞くと、明るく勢いのあるアップテンポを想像しがちだが、この楽曲は真逆の方向を選んだ。

作詞・作曲を手がけたのは黒須チヒロ。過度な盛り上がりを作らず、メロディはなだらかに進行する。感情を押し出すというよりも、静かに横に並んで歩くような設計だ。

編曲を担当した松浦晃久のアプローチも、音数を抑えたものだった。ボーカルを包み込むように配置されたサウンドは、前に出ることを主張しない。その分、5人の声が重なったときの“面”としての響きが際立つ。

誰かひとりを強調しない。全員で歌っていることが、きちんと伝わる音像。それが、この曲の最大の特徴だった。

「番組の企画」を超えた理由

『さくらさく』が印象に残るのは、企画色を極力感じさせない点にある。

バラエティ番組発でありながら、「面白さ」や「話題性」を前面に出していない。むしろこの曲は、少し距離を置いた温度で、聴き手に委ねてくる。

春を直接的に祝福するのではなく、これから何かが始まる前の、不安と期待が入り混じった時間をすくい取るような感触がある。

だからこそ、番組を知らずに聴いたとしても成立する。そして逆に、番組を観ていた人にとっては、テレビの喧騒からふっと切り離された“余白の時間”として記憶に残った。

春の手前で、立ち止まるということ

『さくらさく』は、満開の桜を描いた楽曲ではない。むしろ、まだ蕾のままの季節に、少し先の景色を思い浮かべるような時間を切り取っている。

それは、ユニットとしてのてん・むす自身の立ち位置とも重なる。完成されたアイドル像ではなく、集まったばかりの5人。その未完成さが、そのまま音に残っている。

25年が経った今、改めて聴くと、この曲はとても正直だ。騒がず、煽らず、前に出すぎない。その代わりに、当時の空気と、人の気配だけが、静かに封じ込められている。

春は、いつも華やかとは限らない。『さくらさく』は、そのことをそっと思い出させてくれる1曲だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。