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飲食店で客に飲み物をこぼしてしまい…→クリーニング代の請求。店に支払う義務はある?法的に認められる「意外な賠償額」とは

  • 2025.12.25
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

飲食店で従業員が飲み物をこぼしてしまい、お客様の衣類が汚れるなどのトラブルは珍しくありません。

このようなとき、店側にはどのような責任があり、どこまで賠償しなければならないのか、また過剰な要求や攻撃的な言動にはどう対処すれば良いのか、多くの飲食店経営者や従業員が悩んでいます。

今回は、正しい損害賠償の範囲や対応のポイントについて、アディーレ法律事務所 名古屋支店 正木裕美 弁護士に詳しく伺いました。誤解を解き、トラブルへの適切な対応法を学びましょう。

飲食店で従業員が損害を与えた場合の賠償責任とは?

---飲食店で隣客に飲み物をこぼしてしまった場合、法律上の賠償責任が発生する要件や、支払い義務が生じる具体的な条件について教えていただけますでしょうか?

正木裕美 弁護士:

「法律上『不法行為』といいますが、故意や過失によって他人に損害を与えてしまった場合、相手が被った損害を賠償する責任を負うとされています。

ですので、従業員の不注意によって飲み物をこぼしてしまい、衣類を汚すなど客に損害を与えてしまった場合、第一にその従業員が客に対して損害賠償義務を負います。また、これは業務上起きた出来事なので、その従業員を雇っている店も、客に対し、使用者責任として賠償義務を負わなければなりません。従業員側は資力に乏しいことが多いので、損害賠償請求は店側に対して行われるのが一般的です。

そして、従業員や店側が賠償すべき金額は、修理が可能なものであれば修理代実費、修理代相当額が原則です。したがって、クリーニング可能な衣類であれば賠償額はクリーニング代相当額となりますから、通常は1000円~数千円程度とあまり高額ではないことが多いでしょう。

しかし、例えば、衣類についた汚れが取れず着れなくなってしまったり、スマホが水没してしまい修理不可能になることもありえます。クリーニングや修理ができない場合や、クリーニング代や修理代が買い換え費用よりも高額な場合は、その物が被害を受けたときの「時価」が賠償額になります。これは、「同じ物を新品に買い直すことができる額」ではなく「中古市場で同程度の中古品を調達するのに必要な額」ということ。中古品市場の取引価格や、新品価格から使用年数や消耗を考慮して差し引いて算定されることになるので、定価よりも大幅に安くなるというケースも多くあります。」

損害賠償の金額はどう決まる?慰謝料は請求できる?

---飲食店で隣の客に飲み物をこぼしてしまった場合、クリーニング代以外にも賠償すべき費用(例:買い替え費用、慰謝料など)が発生するケースはありますか?

正木裕美 弁護士:

「不法行為については、法律上、財産以外の損害についても賠償をしなければならないと定められており、慰謝料など経済的損害以外の損害が発生していれば請求することは可能です。

だからこそ、どんな法的トラブルでも「慰謝料だ!」と思われる方も多いのですが、結論としては、物に対する損害に慰謝料は認められないのが原則です。

なぜなら、物に対する損害賠償は修理代相当額や時価額が原則だと先ほどお話しましたが、クリーニングに出して汚れが取れたり、仮にクリーニングや修理ができなくとも時価相当額で同程度の中古品を調達できれば、被害者が受けた経済的損失は回復すると考えられるためです。したがって、法的には、クリーニング代等修理代相当額や時価を賠償すれば足りるので、それ以上に慰謝料や買い換え費用を払う必要がないのが原則です。

しかし、被害を受けたものに特別の価値、特別の事情があって、経済的な損害賠償だけでは償えないほどの甚大な苦痛がある場合には、慰謝料が認められるケースもあります。飲食店で飲み物がかかってしまったという事例ではありませんが、ペット、芸術品や墓石といった法的には「物」に対する損害に対して慰謝料を認めた裁判例はあります。」

トラブル発生後の適切な対応とカスタマーハラスメントについて

---飲食店で隣客に飲み物をこぼしてしまった際、その場で慌てず適切に対応するために、最初にすべき行動や声のかけ方を教えていただけますでしょうか。

正木裕美 弁護士:

「ミスがあっても、初動を間違えずに上手に対応することができれば、店側の信頼回復に繋がることもあります。初動ではスピード感と誠意ある対応が大切です。

まずは、すぐに「ご不快な思いをさせてしまい大変申し訳ございません」「ご迷惑をお掛けして大変申し訳ございません」など真摯に謝罪をしましょう。そして、急いで綺麗な布巾やお手拭きを持ってきてもらい、客にかかってしまった飲み物を拭き取り、店舗内の片付けも行い、被害を最小限にとどめるべく努めましょう。

そして、怪我や汚れ等がないか、ミスが起きたときの状況など確認し、賠償すべき損害の内容や金額を決定することになります。対応をたらい回しにすると、客の不快感をあおってしまい問題が大きくなってしまう恐れがありますので、責任者が対応するとよいでしょう。そして、店の判断で、迷惑料としてクリーニング代を上回るお金を渡したり飲食代金を請求しないなど、状況に応じた柔軟な対応も可能です。

他方、客からの過剰な金銭の要求、理不尽な暴言や誹謗中傷、土下座の要求などカスタマーハラスメントが近年問題になっていますが、不当なカスハラに応じる必要はありません。2026年10月からは企業にカスハラ対策が義務づけられる見込みですので、従業員を守りながらも、客に対する冷静な対応、客観的な判断ができるよう、トラブルが起きた際の対応やカスハラ対応の確認、体制整備は平時に行っておきましょう。」

飲食店の損害賠償と対応で大切なこと

飲食店での従業員の不注意によるトラブルは、訴訟リスクを恐れて過剰に不安になる必要はありません。法律上、賠償の範囲はクリーニング代相当額や修理代相当額、時価が原則であり、慰謝料は物損では基本的に認められません。トラブルの初期対応で誠意を示し迅速に被害を最小限に抑えることが、信頼回復に繋がります。

また、不当なカスタマーハラスメントには毅然と対応し、従業員を守る体制づくりが重要です。2026年からは法的義務も始まるため、日頃からの対策とトラブル時の冷静な対応を心がけることで、安心して店舗運営に取り組めるでしょう。


監修者:正木裕美 弁護士(愛知県弁護士会所属) アディーレ法律事務所名古屋支店

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正木裕美 弁護士(愛知県弁護士会所属) アディーレ法律事務所名古屋支店

一児のシングルマザーとしての経験を活かし、不倫問題やDV、離婚などの男女問題に精通。TVでのコメンテーターや法律解説などのメディア出演歴も豊富。コメンテーターとして、難しい法律もわかりやすく、的確に解説することに定評がある。
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