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「押して歩いていれば問題ない?」弁護士に聞いてみた。『飲酒後』の自転車…運転とみなされる“法律上のライン”とは?

  • 2025.12.26
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「お酒を飲んだら自転車に乗っても大丈夫?」そんな疑問を持つ人は少なくありません。

実は、自転車の飲酒運転は法律で禁止されており、状況によっては罰則も科されるようになりました。けれど、「押して歩いていれば飲酒運転にならないのでは?」という誤解も多いです。

この記事では、自転車の飲酒運転の法律上の定義や罰則の内容、そして安全意識についてベリーベスト法律事務所 齊田貴士 弁護士に詳しく伺いました。こまかなルールの理解が、みなさんの安心・安全な生活につながります。

道路交通法における「運転」の正しい理解とは?

---自転車の飲酒運転において「乗車」と「押して歩行」の境界線が法的に区別される根拠は何で、どのような状態が道路交通法上の「運転」とみなされるのでしょうか?

齊田貴士さん:

「まず、『運転』について、道路交通法2条1項17号では次のように定義されています。

「道路において、車両又は路面電車(以下「車両等」という。)をその本来の用い方に従つて用いること(原動機に加えてペダルその他の人の力により走行させることができる装置を備えている自動車又は原動機付自転車にあつては当該装置を用いて走行させる場合を含み、特定自動運行を行う場合を除く。)をいう。」


つまり、「道路において」「車両等を」「その本来の用い方に従って用いる」状態が、道路交通法上の『運転』とみなされます。

そして、道路交通法65条では、「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」と規定し、自転車の飲酒運転を禁止していますが(道路交通法2条8項、同11項の2により、「車両等」には自転車も含まれます。)、「乗車」と「押して歩行」の境界線が法的に区別される根拠は、先に見た通り、その行為が、『運転』に該当するか否かになります。

なお、勘違いされやすいのですが、自転車の飲酒運転は、昨今の法改正以前から禁止はされていました。ただし、自転車の酒気帯び運転について、法改正以前は罰則が無かったところ(酒酔い運転については、法改正の前後関係なく、「5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」(第117条の2)が科されます。)、令和6年11月1日施行の法改正により、罰則が科されることになりました(「3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」(第117条の2の2第1項第3号)。

また、一定の違反行為(危険行為)を3年以内に2回以上行うと、自転車運転者講習制度の対象となります。ここで、酒気帯び運転と酒酔い運転は、以下のとおり区別されます。

  • 酒気帯び運転:呼気1リットルあたりのアルコール量が0.15mg以上、もしくは血液1ml以上が検出されたとき
  • 酒酔い運転:アルコールの影響により正常な運転ができない恐れがある状態

酒酔い運転には明確な数値条の基準はなく、本人の状態によって「酒気帯び」なのか「酒酔い」なのかを判断します。具体的には「会話が成立するか」、「まっすぐ歩けるのか」などのテストが行われます。」

自転車の飲酒運転は禁止されていたが罰則は?最新の法改正とは?

---自転車を押して歩く行為以外にも、飲酒後に「乗車はしていないが違反と見なされる可能性がある行為」(例:サドルに腰掛けて足で地面を蹴って進むなど)があれば教えてください。

齊田貴士さん:

「道路交通法における、『運転』とは、先に見た通り、「道路において」「車両等を」「その本来の用い方に従って用いる」行為であるため、「その本来の用い方に従って用いる」、すなわち、サドルにまたがってペダルをこぐという本来の用い方をしなければ、形式的には、『運転』に該当せず、飲酒運転には該当しないと思われます。

したがって、例えば、サドルに腰掛けて足で地面を蹴って進む場合なども、『運転』に該当しないとされる可能性があります。

ただし、あくまで実質的に、『運転』していると評価される乗り方をしている場合、飲酒運転として処罰の対象になる可能性があります。

そもそも、「本来の用い方」でなくても、酒に酔った状態で、自転車を押して歩くような自分で制御できる以外の行為で自転車を用いる事は自分のみならず、周辺の第三者も危険にさらすことになるためやめましょう。」

飲酒運転はなぜ危険?正しい意識と周囲の役割

─お酒を飲んだ状態で自転車に乗ることの危険性と、普段からできる対策は?

齊田貴士さん:

「お酒を飲むと規範意識や判断能力が低下し、周囲の雰囲気にも流されやすくなります。たとえ自分が『押して歩く』としても、酒に酔った状態で自転車を用いることは自他ともに危険を及ぼす恐れが高まります。ですから『飲んだら乗らない』を徹底することが絶対に大切です。周囲もたとえ気まずい空気になっても飲酒運転を許さない雰囲気づくりが必要です。1人1人が規範意識を高めることで、安心して暮らせる社会を作りましょう。」

自転車利用者が知っておくべき最新の交通ルールと罰則強化

---自転車の飲酒運転を防ぐために、飲み会の前や飲酒時に心がけるべき「具体的な対策」や「判断のコツ」を教えていただけますでしょうか。

齊田貴士さん:

「お酒を飲んでしまうと、ついつい気持ちが大きくなり、規範意識、判断能力が低下したり、酒に飲まれ、周りの雰囲気に流されやすくなったりします。

もっとも、先に述べた通り、飲酒運転をしてしまうと大変な事になりますので、当然のことですが『飲んだら乗らない』を徹底しましょう。また、周囲もたとえ空気が悪くなっても飲酒運転を許さない雰囲気を作ることが大事だと思います。1人1人が規範意識を高く持つことが必要だと思います。

なお、令和6年11月から自転車の「ながらスマホ」罰則強化と「酒気帯び運転」が新たに罰則対象となっていますが、令和8年4月からは16歳以上を対象に「青切符(交通反則通告制度)」が導入され、信号無視などの違反に反則金が科されるようになります。

現行法下でも、信号無視、一時停止無視、蛇行運転、スマホ・イヤホン「ながら運転」、酒気帯び運転などの悪質・危険な交通違反を警察官に判断された場合、赤切符が切られ、刑事罰として、罰金刑(5万円以下)や拘禁刑(3ヶ月以下)が科せられ、前科がつく可能性があります。
たかが自転車、車でないから大丈夫などと軽い気持ちで利用するのではなく、皆が安心して気持ちよく暮らせるよう、交通ルールをしっかり守って利用するようにしましょう。」

正しい知識で安心・安全な自転車利用を

自転車の飲酒運転は罰則も強化されています。押して歩く行為は『運転』にはあたりませんが、酔った状態で自転車を扱うこと自体、周囲の安全を脅かす行為です。

最新の法律や罰則を理解し、「飲んだら乗らない」の徹底と周囲の呼びかけがみんなの安全を守ります。自転車だからと油断せず、交通ルールを守り自分も周りも安心できる環境づくりに努めましょう。


監修者名:ベリーベスト法律事務所 弁護士 齊田貴士

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神戸大学法科大学院卒業。 弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、 税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。


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