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「絶対にしてはいけません」警視庁が“注意喚起”→知らずに口座売却した人の“末路”…弁護士「知らなかったは通用しません」

  • 2025.12.22
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

最近話題の「口座売買」の危険性をご存じですか?SNSなどで「名義を貸すだけで簡単に稼げる」といった甘い誘い文句が飛び交っていますが、実は犯罪収益移転防止法に違反する行為かもしれません。

12月18日(木)に警視庁生活安全部(@MPD_yokushi)が、「買い取られたSIMや口座は、犯罪に悪用されます。絶対にしてはいけません」と注意喚起を行なっています。

知らずに口座を売却した場合、法的な責任が問われるリスクがあり、罰則も決して軽くありません。では、なぜ口座を他人に譲ることが違法になるのか、どのような罰則があるのか。また、どうすれば被害を防げるのか、寺林智栄 弁護士の見解をもとに解説します。

犯罪収益移転防止法が禁止する口座売却、その目的とは?

---口座を他人に渡すことがなぜ違法になるのでしょうか?法律の趣旨や禁止されている具体的な行為はどのようなものですか?

寺林智栄さん:

「犯罪収益移転防止法は、特殊詐欺や薬物犯罪、闇バイトなどで得られた犯罪収益が、金融機関の口座を通じて流通・隠匿されることを防ぐ目的で制定されています。この法律では、預貯金通帳、キャッシュカード、インターネットバンキングのID・パスワードなどを、正当な理由なく第三者に譲渡・交付する行為を禁止しています。自分名義の口座であっても、「他人に使わせる目的」で渡すこと自体が違法となる点が重要です。

口座売却が犯罪収益移転防止法違反となる法的根拠は、同法において「犯罪収益の移転に利用されるおそれのある手段の提供」を処罰対象としている点にあります。実際に犯罪に使われたかどうかを問わず、売却・譲渡の時点で構成要件を満たす場合が多く、「知らなかった」「犯罪に使われるとは思わなかった」という弁解は、原則として通用しません。

この犯罪の法定刑は、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、またはその併科です。さらに、口座売却を反復継続して行う、いわゆる「口座ブローカー」のような行為については、「業として行った」と評価され、3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金という、より重い刑罰が科される可能性があります。

また、口座売却は犯罪収益移転防止法違反にとどまらないことも少なくありません。たとえば、最初から売却目的で口座を開設し、銀行に対して利用目的を偽っていた場合には、刑法上の詐欺罪が成立する余地があります。詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑と重く、量刑は一気に跳ね上がります。さらに、売却した口座が実際に詐欺や不正送金に使われた場合、犯行への関与の程度次第では共犯や幇助として責任を問われることもあります。

初犯で、売却口座が1件のみ、被害金額が比較的小さい事案では、罰金刑や執行猶予付き判決にとどまることもありますが、それでも前科が付くという重大な不利益が残ります。一方で、複数口座を売却していた場合や、組織的犯行に関与していた場合には、初犯でも実刑判決が下される例も見られます。」

口座売却が犯罪収益移転防止法違反になる理由と罰則の重さ

---口座を売却してしまった人が後から「知らなかった」「騙された」と主張しても、法的責任を免れることが難しい理由を具体的に教えてください。

寺林智栄さん:

「まず重要なのは、「法律を知らなかったこと」は、原則として犯罪の成立を妨げないという点です。刑法第38条は、故意犯について「自己の行為が犯罪となる事実を認識していること」を要求しますが、「その行為が違法であると正確に理解していたこと」までは必要としていません。口座売却の場合、「通帳やキャッシュカードを他人に渡した」「対価を受け取った」という事実を認識していれば足り、「犯罪収益移転防止法に違反するとは思っていなかった」という主張は、故意を否定する理由にはなりにくいのです。

次に、犯罪収益移転防止法がいわゆる「危険犯」として構成されている点も大きな理由です。この法律は、実際に犯罪収益が移転したかどうか、あるいは口座が現実に犯罪に使われたかどうかを問わず、「犯罪に利用されるおそれのある行為」そのものを処罰対象としています。そのため、「結果的に犯罪に使われなかった」「相手が何に使うか知らなかった」という弁解は、犯罪該当性を判断する上では、決定的な意味を持ちません。

さらに、口座売却に関しては、「知らなかった」という主張が事実認定の面でも疑われやすいという事情があります。金融機関では、口座開設時に「口座の譲渡・貸与は禁止されている」旨を、約款や説明書、ウェブ画面などで明示しています。また、キャッシュカードや通帳にも、不正利用防止に関する注意書きが記載されているのが通常です。こうした状況から、捜査や裁判の場では、「少なくとも違法性を認識し得た」「注意すれば分かったはずだ」と評価されやすく、結果として故意が認定されやすくなります。

「騙された」という主張についても、免責につながるケースは限定的です。確かに、脅迫や強要に近い形で口座を渡さざるを得なかった場合には、責任が軽減または否定される余地があります。しかし、SNSや掲示板で「口座を売ればお金がもらえる」「名義を貸すだけで大丈夫」といった勧誘に応じ、自発的に口座を売却した場合には、法的には「自己の判断による行為」と評価されるのが通常です。相手が違法性を隠していたとしても、売却行為そのものを行った責任が消えるわけではありません。

また、実務上は「未必の故意」が認定されやすい点も見逃せません。未必の故意とは、「違法に使われるかもしれないが、それでも構わない」と認識しつつ行為に及ぶ心理状態を指します。口座売却の勧誘は、相場とかけ離れた報酬が提示されることが多く、通常人であれば「何かおかしい」「犯罪に使われるのではないか」と感じる状況が少なくありません。そのため、裁判では「違法利用の可能性を認識しながら売却した」と判断されるケースが多いといえます。」

違法行為と知らなかったは通用しない!? 被害者の主張が認められにくい理由

---口座売却の勧誘を受けた際に、犯罪に巻き込まれないために、一般の方が「その場で見抜くポイント」や「断るための具体的な対処法」を教えていただけますでしょうか。

寺林智栄さん:

「まず、口座売却の勧誘には共通した危険なサインがあります。代表的なのは、「名義を貸すだけ」「口座を作るだけでいい」「実際の作業は何もしない」といった説明です。銀行口座は本人以外の使用が厳しく禁止されており、「貸すだけで合法」という説明自体が事実に反します。また、「短時間で高額報酬」「誰でも簡単に稼げる」「即日現金化可能」といった甘い言葉も典型的な特徴です。通常の労働や取引ではあり得ない条件が提示された場合、その時点で違法行為の可能性を強く疑うべきでしょう。

次に、「身元確認の軽さ」も見抜くポイントのひとつです。正規の仕事や取引であれば、本人確認や契約内容の説明が丁寧に行われるはずです。しかし、口座売却の勧誘では、LINEやDMだけで話が進み、契約書もなく、相手の会社情報や所在地がはっきりしないケースがほとんどです。「身分証の写真だけ送ってほしい」「通帳とカードを郵送してくれればいい」といった要求は、極めて危険な兆候と言えます。

また、「違法性を強く否定する説明」も注意が必要です。「これはグレーだけど捕まらない」「みんなやっている」「今まで誰も逮捕されていない」といった言い回しは、違法行為への心理的ハードルを下げるための典型的な手口です。そもそも、本当に合法であれば、その合法性を強調する必要はありません。このような説明が出た時点で、関係を断つ判断が求められます。

では、実際に勧誘を受けた場合、どのように断ればよいのでしょうか。最も重要なのは、「曖昧な態度を取らない」ことです。「少し考えます」「また連絡します」といった対応は、しつこい勧誘や脅しにつながりやすくなります。「銀行口座の譲渡は違法だと聞いているのでできません」「家族や弁護士に相談すると決めています」と、明確かつ簡潔に断るのが有効です。

さらに、やり取りはできるだけ早い段階で終了し、相手をブロックすることも重要です。連絡を続けることで個人情報を引き出されたり、心理的に追い込まれたりするリスクが高まります。すでに身分証の画像などを送ってしまった場合には、速やかに金融機関や警察、消費生活センターに相談し、被害拡大を防ぐ行動を取る必要があります。」

口座売却のリスクを知り、断固として拒否することが身を守るカギ

犯罪収益移転防止法は、犯罪に利用されやすい口座の売買を厳しく禁止し、違反には刑務所行きや高額な罰金が待っています。知らなかった、騙されたといった事情は一般的には認められにくく、口座を売却する行為自体が法的に処罰対象となります。

甘い言葉での勧誘や安易な誘いに乗らず、口座の譲渡や販売は絶対にしないことが重要です。もし勧誘を受けたら、「口座の譲渡は違法行為」とはっきり断り、できるだけ早く連絡を絶って相手をブロックしましょう。万が一、身分証などを渡してしまった場合は、速やかに金融機関や警察、消費生活センターに相談し、被害の拡大を防ぐ対応を取ることが大切です。

正しい情報を知ることが、あなたと周囲の安全を守る最大の防御になります。


監修者:寺林智栄
2007年弁護士登録。札幌弁護士会所属。2013年頃よりネット上で法律記事の執筆を開始。Yahoo!トピックスで複数回1位を獲得。一般の方がわかりやすい解説をすることを心がけています。