1. トップ
  2. 「組織の崩壊が起こります」社労士が警告。部下を叱れない上司…「成長しない若手」を放置した職場の“末路”

「組織の崩壊が起こります」社労士が警告。部下を叱れない上司…「成長しない若手」を放置した職場の“末路”

  • 2025.12.22
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「部下に指導したいけれど、ハラスメントと言われそうで言えない…」そんな悩みを抱える方は少なくありません。

近年、職場での指導が難しくなっているのは、単にハラスメント意識の高まりだけではありません。組織構造の変化やリモートワークの普及、世代間の価値観のギャップなど複合的な要因が影響しています。

本記事では、あゆ実社労士事務所 加藤あゆみさんに取材し、その背景と影響、そして明日から実践できる効果的なフィードバック方法をご紹介します。正しい理解と方法を知り、部下との信頼関係を築く第一歩を踏み出しましょう。

なぜ「叱れない上司」が増えているのか?3つの背景を解説

---「部下を叱れない上司」が増えている背景には、ハラスメント意識の高まり以外に、どのような組織文化や世代間の価値観の変化が影響しているのでしょうか?

あゆ実社労士事務所:

「近年、『部下を叱れない上司』が増えている背景には、ハラスメント意識の高まりだけでなく、組織構造や働き方の変化が大きく影響しています。私が人事・労務の立場で現場を見ていて強く感じるのは、主に3つの要因です。

一つ目は、管理職のプレイングマネジャー化です。人員削減や効率化が進む中で、管理職自身が実務に追われ、『自分の成果を出しながら部下の育成まで担う』という状況が常態化しています。さらに評価制度が個人業績中心の場合、時間もエネルギーもかかる部下指導は、無意識のうちに後回しにされがちです。叱れないというより、『叱るための信頼関係を築く余力がない』というのが実態に近いでしょう。

二つ目は、リモートワークの普及による文脈の喪失です。対面であれば、厳しい指摘の後に雑談やフォローで関係を修復できましたが、チャットやオンライン面談では言葉だけが切り取られ、冷たく伝わりやすくなります。表情や空気感が読み取りにくいことも、踏み込んだ指導をためらわせる要因です。

三つ目は、正解のない時代における世代間ギャップです。上司自身も『何が正しいかわからない』中で、価値観の多様な若手にどう伝えるべきか迷い、『押し付けてはいけない』と沈黙を選んでしまう。ハラスメントへの恐れに加え、指導への自信喪失が重なっているのです。」

「叱れない」ことが組織に与える影響とは?

---上司が部下の指導を避ける背景には、ハラスメント認定への過度な警戒や組織の事なかれ主義などがあると思いますが、こうした放置が続くと組織にどのような深刻な影響が出るのでしょうか?

あゆ実社労士事務所:

「『言わなければ波風は立たない』と思われがちですが、指導を避け続けることは、時間をかけて組織を弱らせていきます。人事の視点で見ると、その影響は段階的に表れます。

まず起こるのが、若手社員の成長不安です。最近の若手は市場価値に敏感で、『この環境で成長できているか』を常に考えています。上司が優しく、居心地は良いものの、改善点を指摘されない職場では、『このままで社外でも通用するのか』という不安が募ります。実際、キャリア相談の場では『上司は良い人だが、何も教えてもらえない』という理由で転職を考えるケースが増えています。いわゆる『ゆるい職場』から、意欲の高い人材ほど離れていくのです。

次に、組織の崩壊が起こります。ミスやルール違反を指摘しないことは、『それで問題ない』というメッセージを組織に発信するのと同じです。期限遅れや品質低下が黙認されると、真面目に取り組んでいる社員ほど不公平感を抱き、モチベーションを失っていきます。

最終的には、育成機能そのものが失われるリスクがあります。上司が『言っても無駄』『言わない方が安全だ』と感じ始めると、組織は自ら修正する力を失います。心理的安全性とは本来、健全な意見交換や指摘ができる状態のこと。叱らないことで保たれる静けさは、むしろ本音が言えない危険な状態だと言えるでしょう。」

苦手な上司でもできる、叱るための3つのフィードバック術

---叱るのが苦手でも、明日からでも実践できる「最初の一歩」として最も効果的な声かけや関わり方を教えていただけますでしょうか。

あゆ実社労士事務所:

「『叱る』ことに苦手意識がある上司には、まず叱る=感情的に注意することという捉え方を手放していただきたいと思います。

代わりに意識したいのが、『行動の軌道修正を行うフィードバック』です。

明日から実践できる、現実的な3つのポイントをご紹介します。

一つ目は、人格と行動を切り離すことです。

感情的になりやすいのは、『やる気がない人だ』と相手の人格に目が向くからです。SBIモデル(状況・行動・影響)を使い、『いつ・何が起きて・どう影響したか』という事実だけを伝えます。具体的に伝えることで、相手は『否定された』のではなく、『行動を変えればいい』と理解しやすくなります。

二つ目は、許可を取るワンクッションです。

いきなり指摘に入るのではなく、『成長のために一つフィードバックしてもいい?』と確認します。この一言で、相手の心構えが変わり、防御反応やハラスメントリスクを大きく下げることができます。

三つ目は、WhyではなくNextを問うことです。

『なぜミスしたのか』を追及するより、『次はどうすれば防げると思う?』と未来の行動に焦点を当てます。指導とは答えを与えることではなく、部下が考える回路を育てることです。
まずは良い行動を見つけて言語化することから始めてください。その積み重ねが信頼関係を作り、必要な指摘を伝えられる土台になります。」

信頼を築くフィードバックで、強い組織づくりを

「部下を叱れない」現代の上司の悩みは、組織構造の変化やリモートワーク、価値観の多様化といった複合的な背景が影響しています。

叱らないことで一時的には波風を避けられても、若手の成長不安や組織のスタンダード崩壊、そして育成機能の喪失という大きなリスクが生じます。
しかし、重要なのは「叱る=感情的に怒る」ではなく、「行動を軌道修正するフィードバック」として捉えることです。人格を否定せず、許可を取って相手の心を開き、未来志向で話を進める3つのポイントは、誰でも実践可能で効果的です。

この方法を根気強く実践し、良い行動を言語化して信頼関係を築くことが、部下の成長と組織の強化につながります。さあ、今日から一歩踏み出してみましょう。


監修者:あゆ実社労士事務所
人材育成とキャリア支援の分野で約10年の経験を持ち、社会保険労務士・国家資格キャリアコンサルタントとしても活動。
累計100名以上のキャリア面談を実施し、1on1面談制度の設計やキャリア面談シート作成などを通じて、組織の人材定着と成長を支援してきた。
新入社員向け「ビジネスマナー」「マインドセット」「ロジカルシンキング」研修やキャリア研修では、企画・コンテンツ作成から講師まで一貫して担当。
人間関係構築や部下育成、効果的な伝え方に関する豊富な実務経験を活かし、読者や受講者が一歩踏み出すきっかけとなる関わりを大切にしている。