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「106万円を超えたらアウト」は間違いだった。勤務時間を減らすと“逆効果”…確認すべき「3つのポイント」【社労士が解説】

  • 2025.12.22
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「年収が106万円を超えると損をする」という話を聞き、働く時間を抑えるべきか悩んでいませんか?

確かに社会保険料の負担で手取りは減りますが、それを単なる「損」と捉えるのは早計です。実は、手厚い保障や将来の年金増額といった「見逃せないメリット」も大きいからです。

本記事では、「106万円の壁」にまつわる誤解と真実をあゆ実社労士事務所の加藤あゆみさんに詳しく伺いました。目先の損得だけでなく、将来を見据えて自分に合った働き方を選ぶためのヒントをお届けします。

社会保険加入の誤解が生まれる理由とは?

---社会保険の加入によって手取りが減ると言われますが、なぜそれが誤解なのでしょうか?また、加入の条件にはどのようなポイントがあるのでしょうか?

あゆ実社労士事務所 加藤あゆみさん:

「この誤解の最も大きな原因は、『年収だけ』で損得を判断してしまうことにあります。

106万円を超えると社会保険料が引かれて手取りが一時的に減るため、『保険料=単なる出費』と捉えられがちです。しかし実際には、将来の年金が増えたり、病気やケガで働けなくなったときに傷病手当金が受けられたり、出産時には出産手当金がもらえるなど、目に見えにくい『保障』が手に入っています。これらは扶養に入っているだけでは得られない大きなメリットです。

また、『106万円を超えたら誰でも自動的に社会保険に入る』という誤解も広がっています。実際には、従業員数51人以上の企業で働いていること、週20時間以上勤務すること、月額8.8万円以上であること、学生でないことなど、複数の条件をすべて満たした場合にのみ加入対象となります。企業規模が小さい職場で働いている方や、週の労働時間が短い方は、年収が106万円を超えても対象外というケースも多いのです。

さらに、夫の扶養から外れることばかりに注目して、『世帯全体の収入がどう変わるか』という視点が抜け落ちていることも、判断を難しくしている要因です。短期的な手取り減少だけを見て、長期的な年金増加や保障の充実を見逃してしまうのは、とてももったいないことです。情報が複雑で正しく伝わっていないために、必要以上に不安を感じている方が多いのが現状といえます。」

「106万円の壁」で損しないための働き方のポイントとは?

---年収を106万円未満に抑えようと勤務時間を減らす人が多いですが、それは本当に得策なのでしょうか?

あゆ実社労士事務所 加藤あゆみさん:

「最も典型的なのが、「年収を106万円未満に抑えるために勤務時間を減らす」という判断です。

たとえば月に1〜2万円多く稼げる状況なのに、社会保険料の負担を避けるために働く時間を意図的に削ってしまうと、世帯収入は長期的に見て数十万円単位で減ることがあります。

標準的なケースでは、年収125万円程度まで働けば、社会保険料を引かれても106万円のときの手取りをほぼ上回ります。そこから先はさらに働くほど手取りも着実に増えていくため、過度な勤務調整はかえって家計にマイナスです。

また、「扶養内で働ける職場」という条件だけを優先して転職してしまうことも危険です。スキルが身につく環境や時給が高い職場、やりがいのある仕事よりも、「扶養内OK」という募集条件だけで職場を選ぶと、キャリアの可能性や将来の収入アップの機会を大きく狭めてしまいます。目先の扶養維持にこだわるあまり、自分の成長や経験を積むチャンスを失ってしまうのです。

さらに見逃せないのが、社会保険に加入することで得られる「将来の年金増額」という長期メリットです。厚生年金に加入すれば、将来受け取る年金が月に数千円から1万円以上増えることもあり、老後の生活にプラスになります。扶養に固執して社会保険に入らないでいると、この積み上げのチャンスを逃し続けることになり、結果的に老後の家計にも影響します。短期的な手取りだけでなく、人生全体で考えることが重要です。」

社会保険の加入対象か判断するには?具体的な確認と試算が大切

---「106万円の壁」の前に、まず自分が社会保険の加入対象かどうかをどのように確認すればよいのでしょうか?また加入した場合の手取りの変化は?

あゆ実社労士事務所 加藤あゆみさん:

「まず最初に確認すべきは、『自分が本当に社会保険加入の対象になるのか』という点です。従業員数51人以上の企業で働いていて、週20時間以上勤務し、月額8.8万円以上(年収約106万円以上)稼いでいて、なおかつ学生ではない場合に初めて対象となります。

小規模な会社で働いている方や、週の労働時間が短い方、学生の方であれば、年収が106万円を超えてもそもそも加入対象にならないケースも多いのです。まずは勤務先の人事や総務に確認してみましょう。

次に、もし加入対象であるなら『手取りが実際にどう変わるか』を具体的に試算してみることが大切です。一般的な夫婦のケースでは、社会保険料を引かれても年収125万円程度まで働けば、106万円のときの手取りをほぼ上回るようになります。

ただし、これはあくまでモデルケースであり、すべての方に当てはまるわけではありません。配偶者の勤務先から扶養手当が支給されている場合、その手当がなくなることで世帯収入が減る可能性もあります。また、加入する健康保険組合によって保険料率が異なるため、実際の負担額も変わってきます。ご自身の世帯条件に合わせたシミュレーションをしっかり行うことが重要です。

さらに重要なのは、自分の収入だけでなく『世帯全体の収入』で考える視点です。夫の扶養手当の有無、税金の変化、保険料の負担などをトータルで見て、世帯としてプラスになるかどうかを判断しましょう。そして最後に、『今だけでなく将来も含めて考える』という長期的な視点を持つことです。社会保険に加入すれば、将来受け取る年金額が増え、病気の際には傷病手当金という保障も得られます。目先の手取り額だけでなく、将来の安心や保障の充実も天秤にかけて、自分と家族にとって本当にベストな選択を探してみてください。」

損得だけで判断せず、長期の視点で自分と家族に合った選択を

「106万円の壁」による社会保険の加入をめぐる誤解は根強く、多くの方が短期的な手取りの変化ばかりに注目して悩んでいます。

しかし、加入条件の確認や具体的な試算を行い、世帯収入全体を見ながら判断することが大切です。また、社会保険加入によって得られる将来の年金増額や傷病手当金などの保障は、目に見えにくいものの大きなメリットと言えます。働き方や職場選びも、扶養の枠にとらわれすぎず、自分のキャリアアップや収入増加の可能性を考慮することが重要です。

短期の手取りだけでなく、人生全体の安心や豊かさを実現するために、ぜひ今回のポイントを参考にしてみてください。


監修者:あゆ実社労士事務所
人材育成とキャリア支援の分野で約10年の経験を持ち、社会保険労務士・国家資格キャリアコンサルタントとしても活動。
累計100名以上のキャリア面談を実施し、1on1面談制度の設計やキャリア面談シート作成などを通じて、組織の人材定着と成長を支援してきた。
新入社員向け「ビジネスマナー」「マインドセット」「ロジカルシンキング」研修やキャリア研修では、企画・コンテンツ作成から講師まで一貫して担当。
人間関係構築や部下育成、効果的な伝え方に関する豊富な実務経験を活かし、読者や受講者が一歩踏み出すきっかけとなる関わりを大切にしている。