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“年収の壁”178万円に引き上げ…『恩恵を受ける人』と『働き損になる人』の“違い”とは?【お金のプロが解説】

  • 2025.12.23
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

2026年から、パートやアルバイトの方々に影響する「年収の壁」が178万円に引き上げられます。

この変更は、なぜいま行われるのか、私たちの働き方や手取りにどれほどの影響を及ぼすのか気になるところです。

特に所得税の非課税枠が変わることで、「年収の壁」による働き方の調整はどう変わるのでしょうか。この記事では、税金と社会保険の仕組みを理解し、賢く収入を増やすポイントを専門家の意見からわかりやすく解説します。

なぜ「年収の壁」が178万円に引き上げられたのか?

---「年収の壁」が178万円に引き上げられた背景には、どのような社会的要因や労働市場の構造的な課題が影響しているのでしょうか?

柴田 充輝さん:

「今回の『年収の壁』178万円への引き上げは、2025年12月18日に自民党と国民民主党の間で正式に合意されました。

2026年から178万円の壁が適用される予定です。この改正の背景には、複数の構造的な課題が絡み合っていますが、中でも大きいのが最低賃金と物価の上昇です。

長年にわたって賃金水準が変化したにもかかわらず、控除額がほとんどそのまま据え置かれてきました。2025年に最大で160万円の壁に引き上げられましたが、手取り収入を増やすには不十分という声がありました。

物価高に応じて名目賃金が上昇し、年収が非課税枠を超えると、実質賃金は増えていないにもかかわらず新たに所得税・住民税の支払いが生じるという『実質増税』の問題が生じます。つまり、生活が楽にならないのです。消費が停滞すると経済にも悪影響が出てしまうため、今回178万円への引き上げが実施される運びとなりました。

マクロ的な観点からすると、深刻な人手不足の問題があります。パート労働者の労働時間は、時給の上昇に反して減少傾向にあり、その背景として『年収の壁』による就業調整の存在が指摘されていました。賃金の上昇により『壁』に早く到達してしまうため、就労調整をするという本末転倒の事態が起こっていたのです。特に飲食、小売、医療・介護などパート労働者が貴重な戦力となっている分野で、繁忙期の年末に人材確保に苦慮する企業が多く見られています。人手不足を軽減するうえで、年収の壁の引き上げには一定の効果が期待されています。

恩恵を受けるのは、年収665万円以下の中間層で、納税者の約8割が該当します。」

年収178万円の壁引き上げで働き方や手取りはどう変わる?

---年収178万円への引き上げで恩恵を受けるのは主にどのような働き方をしている層で、逆に「壁」を意識せず働いてきた人が新たに直面するデメリットはありますか?

柴田 充輝さん:

「まず、従来103〜160万円程度で就業調整をしていたパート・アルバイトの方で見てみましょう。

所得税の壁を気にせず働ける範囲が広がることで、労働時間を増やしやすくなります。減税額は年収に応じて約3万~6万円程度と試算されており、手取りの増加が期待できます。

扶養内で働く配偶者(主に主婦層)で、年末になると労働時間を抑制していた方も、より柔軟に働けるようになります。また、大学生など働く学生も、親の扶養控除への影響を気にせず収入を得やすくなります。これらの層は非課税となる基準が引き上げられることで、収入の増加を感じやすいでしょう。

ただし、社会保険(106万円・130万円)の壁は変更ありません。つまり、税金がかからなくても、社会保険料が発生する可能性がある点に注意が必要です。具体的には、年収を178万円まで伸ばしても、年収130万円を超えると扶養から外れなければなりません。もし自分で国民健康保険や国民年金に加入した場合、手取りが大きく減ります。このように、『手取りを最大化する』には、税法上・社会保険上の年収の壁を理解することが不可欠です。」

社会保険の壁とは?減税効果を最大限に生かすポイントは?

---年収178万円への引き上げが実現した場合、働き方を見直したい人が最初に確認すべきポイントと、具体的な行動ステップを教えていただけますでしょうか。

柴田 充輝さん:

「従来から年収の壁を超えて働いていた方にとっても、減税によるメリットがあります。もともと年収の壁を気にせずに働いており、自分で社会保険に加入していた方の場合、特段デメリットはありません。

まず、ご自身の状況に関係する壁を把握してください。年収の壁には、110万円(住民税)、123万円(配偶者控除)、106万円・130万円(社会保険)、201万円(配偶者特別控除の上限)など複数あります。所得税の非課税枠が178万円に広がっても、社会保険の壁は残りますので、どの壁が自分にとって重要かを見極める必要があります。

従業員51人以上の企業(特定適用事業所といいます)かどうかで、社会保険の加入要件が変わるため、人事部門に確認しましょう。あわせて、扶養内で働きたい場合は雇用契約書上の『所定労働時間』と『想定年収』が130万円未満になっているかを確認することが重要です。2026年4月以降は、雇用契約ベースでの判定が基本となるため、契約内容の把握が不可欠です。

『短期の手取り』と『長期の保障』を比較検討することも欠かせません。社会保険に加入しないことで目先の手取りは確かに増えますが、それは本当に得かを判断する必要があります。社会保険に加入すると保険料負担が発生しますが、社会保険加入によって得られる『見えないメリット』も無視できません。

社会保険に加入すれば、傷病手当金や出産手当金を受けられるようになります。傷病手当金は、病気やケガで働けなくなった場合に、給与の約3分の2が最長1年6ヶ月支給される制度です。年収150万円の方なら、万が一の際に月額約8万円、最大で約150万円の給付を受けられる計算になります。扶養のままでは、この保障は一切ありません。

将来の年金増加も具体的に試算してみましょう。年収150万円で厚生年金に加入した場合、1年あたり約8,000円の老齢厚生年金が上乗せされます。20年間加入すれば年間約16万円(月額約1万3,000円)の年金増となり、65歳から85歳まで20年間受給すると総額約320万円です。

選択肢をまとめると、主に以下の2つです。

  • ①扶養内で働き続ける→社会保険の壁(106万円または130万円)を意識し、その範囲内で労働時間を調整。ただし、将来の年金は基礎年金のみとなる点は理解しておく
  • ②社会保険に加入してしっかり働く→週30時間以上(正社員並み)で働き、手取り減をカバーする。将来の年金増加と健康保険の保障が得られる

年収の壁は税金と社会保険で分かれており、必要以上に複雑です。

ただし、年齢が若い方ほど、『現在だけでなく将来の長生きリスクに備える』という観点からすると、社会保険に加入するメリットは大きくなる点を押さえておくとよいでしょう。」

年収178万円の壁引き上げを賢く活用しよう

2026年からの年収の壁178万円引き上げは、パートやアルバイトの働き方にとって大きな転換点となります。

所得税の非課税枠拡大により、より多く働いても手取りが増えやすくなる一方、社会保険の壁は変わらないため、加入の有無とその影響をしっかり把握することが不可欠です。自身の雇用契約や勤務先の規模を確認しながら、短期的な手取りと長期的な保障のバランスを考えることで、より安心で賢い働き方が実現できるでしょう。

将来の年金や健康保険のメリットも含め、今後の収入設計の参考にしてみてください。


監修者:柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1200記事以上の執筆実績あり。保有資格は1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任士など。