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亡くなった人の『交通系ICの残高』どうなる?→「遺族は払い戻しできる」は間違いだった。意外と知られてない“必要な手続き”とは

  • 2025.12.25
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

家族が残した交通系ICの残高、亡くなった後に相続できるのか気になったことはありませんか?

普段は便利なお金のように使えても、実は法律・技術・事業者のルールが絡み合い、想像以上に複雑な扱いとなっています。

なぜ交通系ICの残高は「相続財産」として簡単に引き継げないのか。この記事では、マネーシップス代表 石坂貴史さんの解説をもとに、交通系IC残高の相続にまつわる疑問と手続きのポイントをわかりやすく整理します。

交通系ICの残高は「預金」ではなく「利用権」?その理由とは

---故人が遺した交通系ICのチャージ残高を遺族が払い戻せない背景には、どのような法的・技術的な要因が関係しているのでしょうか?

石坂貴史さん:

「結論から言うと、交通系ICの残高は『お金のようであって、預金ではない』点が大きな理由です。

相続の対象になるのは、原則として現金や預金、不動産などですが交通系ICの残高は銀行口座ではなく、鉄道会社が提供するサービスの利用権に近い扱いになります。そのため、相続法のルールだけでは処理できず、利用規約に従う必要があります。

法律の考え方としては、残高そのものは金銭的価値があるため、理屈の上では相続財産に含まれます。

一方で、交通系ICは『本人が使うこと』を前提に設計されており、名義変更を想定していません。遺族が『相続だから当然に引き継げる』と考えても、実際の手続きは運営側のルールに制限されます。

銀行預金は『預けているお金』ですが、交通系IC残高は『前払いした利用権』ということです。」

カード型とスマホ型では手続きが大違い!それぞれの対応法を解説

---遺族が故人の交通系ICカードやスマホを発見した際、チャージ残高を払い戻そうとしても本人確認や利用規約の壁で困難なケースが多いと聞きますが、実際にどのような手続きが必要でしょうか?

石坂貴史さん:

「まず、交通系ICが『カード型』か『スマホ型』かで、遺族が行う手続きの流れや難しさは大きく変わります。

カード型交通系ICの場合、基本的に駅の有人窓口が窓口になります。カードを持参し、残高の払い戻しを希望する旨と本人が亡くなったことを説明して手続きを行います。残高から所定の手数料が差し引かれて、残りが返金されます。無記名カードでもカードがあれば対応されるケースが多いですが、紛失や盗難でないことを伝える必要があります。場合によっては簡単な本人確認も求められます。

一方、スマホのモバイル交通系ICの場合は難易度が一段上がります。原則としてスマホのアプリ上で退会操作をし、その過程で残高払い戻しが行われます。ですが、スマホがロックされていたり暗証番号が分からなかったり、通信契約が解約されている場合は操作ができません。

そんな時は、運営会社へ連絡し、死亡を証明する書類や本人確認書類を提出する手続きに進みます。このやり取りは郵送やオンライン申請が多く、時間がかかります。」

電子マネーの相続トラブル…家族でできる相続対策の極意

---電子マネーの相続トラブルを防ぐために、家族が今日からできる「デジタル資産の記録・共有方法」について、具体的な手順を教えていただけますでしょうか。

石坂貴史さん:

「電子マネーの相続対策で大切なのは、難しい仕組みの用意ではありません。

「どこに、何があるのか」「それをどう扱うつもりか」を残しておくことです。FPとして相談を受けていると、この2つが整理されているだけで、相続時の混乱が大きく減ると実感します。

まずは、デジタル資産の存在を書き出すところから始めます。特別な形式は必要なく、紙のノートで十分です。交通系ICを使っているか、カードなのかスマホなのか、スマホであればどの端末かを書いておきます。あわせて、他の電子マネーや決済アプリも思いつくものを並べていきます。残高や金額が正確でなくても、問題はありません。大事なのは、家族が「そこに何かある」と気づける状態を作ることです。

次に、その電子マネーをどのように処理してほしいかを、簡単に残しましょう。「スマホの交通系ICは、退会して払い戻す」「カード型は、駅の窓口で手続きする」といった一言で十分です。モバイル交通系ICについては、「通信契約を解約する前に退会が必要」と書いておくだけで、遺族の判断ミスを防ぐ手助けになります。細かな手順まで書く必要はありません。

こうした情報をどこに保管しているかを、家族に伝えておくことも大切です。ノートや封筒を用意して、「万が一のときはこれを見て」と口頭で伝えておくだけでも効果があります。パスワードそのものを書かなくても、管理の考え方や問い合わせ先が分かれば、遺族は正しい手続きが進められます。

電子マネーは金額そのものよりも、手続きが分からずに止まってしまうことが問題になります。そのため、今日からできる現実的な対策としては、完璧な管理を目指すことではなく、「最低限の記録」と「共有」をしておくことだと言えます。」

交通系IC残高の相続は『知らないと損』今からできる準備を!

交通系ICの残高は一見、現金のように見えますが、法律上は「利用権」として扱われ、相続には独特のルールと技術的な制約が伴います。

特にスマホのモバイル交通系ICは本人限定の設計で、遺族がスムーズに対応するためには日頃の準備が欠かせません。今回の取材を通じてわかったのは、難しい知識よりもむしろ「家族がデジタル資産の所在や処理方法を共有し、正しい順序で手続きを進めること」が何より大切だということです。

今すぐできる対策としては、交通系ICの種類や保有状況を書き出し、手続きの方針を簡単にまとめておくこと。加えて、その情報の保管場所や問い合わせ先を家族に伝えておくことです。これだけでも相続時の混乱や手間を大幅に減らすことができます。電子マネーの扱いが身近になった今だからこそ、家族間で共有しておくことが安心につながります。


監修者:石坂貴史
証券会社IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー・証券外務員)、2級FP技能士、AFP、マネーシップス代表。累計1,100件以上のご相談、金融関連の記事制作、校正・監修を手掛けています。「金融・経済、不動産、保険、相続、税制」の6つの分野が専門。お金の運用やライフプランの相談において、ポートフォリオ理論と行動経済学を基盤にサポートいたします。