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「スイッチを切らないで」一級建築士が警告。冬の電気代節約で“換気オフ”…家に起こる「恐ろしい異変」

  • 2025.12.17
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

高気密住宅で換気システムのスイッチをオフにすると、一見快適そうに思えますが、実は大きなリスクを抱えていることをご存じでしょうか。なぜ換気を止めることが、建物の劣化や住まい手の健康に悪影響を与えるのでしょうか。漠然とした不安を感じている方も多いかもしれません。

この記事では、高気密住宅の換気を止めた際に発生する「内部結露」のメカニズムや、それが引き起こすトラブル、さらには24時間換気の重要性について、一級建築士のyukiasobiさんに詳しく伺いました。

家族の健康と住宅の寿命を守るために知っておくべきポイントをお伝えします。ぜひ、安全な住環境づくりの参考にしてください。

高気密住宅で換気を止めると「内部結露」が進行するって本当?

---多くの人は、窓の結露は気にしても、壁の中で起きる『内部結露』には無頓着です。換気を止めた家は、私たちの知らない間に『断熱材がカビだらけ』になり、さらには『家の骨組み(柱)が腐っていく』というのは本当でしょうか? 表面上はきれいに見えても、壁を剥がしたら中がボロボロ…という事態は、実際にどのくらいの頻度で起きているのですか?

yukiasobiさん:

「ご質問の内容は、決して大げさな話ではなく、建築現場で実際に目にする恐ろしい現実です。結論から申し上げますと、換気を止めた高気密住宅において『内部結露』が発生し、断熱材のカビや柱の腐朽が進行するケースは現実に起こり得ますし、リフォーム等の解体時に発見される頻度も決して低くありません。

メカニズムはこうです。冬場、暖房で温められた室内には多くの水蒸気が含まれています。換気扇を止めてしまうと、この湿気は逃げ場を失い、壁紙の隙間やコンセントボックスなどを通じて壁の中(壁体内)へと侵入します。壁の中の外気側は冷たいため、そこで急激に冷やされた湿気が水滴に変わります。これが『内部結露』です。

恐ろしいのは、これが『壁の中』で起きるため、住まい手が気づかないことです。断熱材(特にグラスウール等)が結露水を吸うと、重みでずり落ちて断熱性能が失われるだけでなく、濡れた状態が続くことでカビの温床となります。さらに深刻なのは、その水分が構造材である柱や土台を浸食し、『腐朽菌』を繁殖させることです。

『壁紙に黒いシミが浮き出てきた』と気づいた時には、壁の中はすでに手遅れに近い状態であることも少なくありません。表面がきれいに見えても、壁の中がボロボロになっているリスクは、換気を止めた瞬間から始まっていると認識すべきです。」

換気を止めることは健康リスクにも直結しますか?

---最近の住宅は『高気密』だからこそ、換気を止めると家全体が『密閉されたビニール袋』のような状態になると聞きます。逃げ場を失った湿気だけでなく、建材からの化学物質や二酸化炭素が充満し、そこに住む家族が『汚染された空気』を吸い続けることになる……。これは『シックハウス症候群』や『謎の体調不良』の直接的な原因になり得るのでしょうか?

yukiasobiさん:

「はい、直接的な原因になり得ます。

ご指摘の通り、現代の高気密住宅で24時間換気を止める行為は、家族全員で『大きなビニール袋の中に入って生活している』のと同義です。

かつての日本の住宅は『隙間風』が多かったため、自然と空気が入れ替わっていましたが、現在の住宅は省エネのために気密性が非常に高く作られています。この状態で機械的な換気を止めれば、室内は汚染物質の『溜まり場』となります。

具体的に懸念されるリスクは3つあります。1つ目は『二酸化炭素濃度の上昇』です。人の呼吸によって排出されるCO2が充満すると、濃度によっては倦怠感、頭痛、集中力の低下を引き起こします。『家におり、なんとなく体がだるい』という謎の不調は、酸素不足に近い状態が原因であることも多いのです。

2つ目は『化学物質の滞留』です。建材や家具、家庭用品から微量に放散されるホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物(VOC)が室内に蓄積し、めまいや吐き気、粘膜への刺激といったシックハウス症候群を引き起こします。

3つ目は『ハウスダストとカビ』です。湿気が逃げないことでダニやカビが爆発的に繁殖し、その死骸や胞子を吸い込むことでアレルギー性疾患や喘息の原因となります。

換気システムは、これらを強制的に排出する住宅の『肺』にあたる重要な設備なのです。」

電気代節約のため換気を止めることは賢明ですか?被害の費用はどのくらい?

---寒さと電気代を気にしてスイッチを切る気持ちはわかります。しかし、換気システムの電気代を節約するために換気を止めるのは本当に得策でしょうか?内部結露やシロアリ被害になった場合、どのくらいの費用がかかる可能性がありますか?

yukiasobiさん:

「多くの24時間換気システムの電気代は、機種にもよりますが月額数百円程度です。

冬の数ヶ月間止めたとしても、節約できるのはせいぜいワンコインランチ数回分でしょう。しかし、その代償として失うものの金額は桁が違います。

『内部結露』によって木材が湿ると、それを好むシロアリを呼び寄せます。シロアリ被害や木材腐朽によって家の強度が低下した場合、大規模な改修工事が必要となります。壁を剥がし、断熱材を入れ替え、腐った柱を補強し、外壁をやり直す……これには数百万円を超える費用がかかることも珍しくありません。何より、家の『資産価値』が著しく毀損します。

また、石油ファンヒーターやガスファンヒーターなど『開放型暖房器具』を使用している部屋で換気を止める行為も、大量の水蒸気を発生させ結露を加速させるため、住宅にとっては自殺行為に等しいと言えます。

数百円の電気代は、家を何十年も長持ちさせるための『最も安上がりな保険料』です。どうかスイッチを切らず、住宅とご家族の健康を守ってください。」

換気を止めずに住宅の寿命と健康を守ろう

今回の取材を通じて、高気密住宅において換気システムの重要性が改めて明らかになりました。

換気を止めることで発生する内部結露は、壁の中で目に見えない深刻なダメージを住宅にもたらし、断熱性能の低下や柱の腐朽、さらにシロアリ被害を誘発。結果として、数百万円の修繕費用や資産価値の低下という大きな代償を招くことが分かりました。

また、換気を止めることは室内の空気環境を悪化させ、二酸化炭素や化学物質、カビ・ダニによる健康リスクも高まります。24時間換気の電気代は数百円程度で、節約によるメリットは微々たるもの。対して失うものは計り知れません。

明日からでもできる対策はシンプルです。換気システムのスイッチを切らずに稼働させ続け、健康で長持ちする住まいを守ること。電気代を節約したい気持ちも理解できますが、その数百円が家族の安全と住宅の資産を守る「最も安上がりな保険料」なのです。安心できる暮らしのため、ぜひ換気を止めない生活習慣を習慣化しましょう。


監修者:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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