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『ヒートショックは浴室だけ』は間違いだった。朝の“ゴミ出し”も命取り…玄関を出る前にやるべき「10秒の対策」とは【医師解説】

  • 2025.12.23

 

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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

冬の朝、暖かな部屋から一歩外に出るだけで、急な寒さに身体が驚く経験は誰しもあるでしょう。

しかし、この何気ない動作に潜む「ヒートショック」のリスクをご存じでしょうか。なぜ寒暖差が血圧や心臓に負担をかけるのか、そして実際にどうやって対策すればよいのか、悩んでいる方も多いはずです。

今回は、林外科・内科クリニック 理事長 林 裕章さんの見解をもとに、冬の朝の「ゴミ出し」に隠れた危険と、その簡単な予防法を解説します。

なぜ冬の朝のゴミ出しは「危険なタイミング」なのか?

---冬の朝、暖かい室内からゴミ出しなどで急に屋外へ出る際、血圧や心臓にどのような負担がかかり、ヒートショックのリスクが高まるのでしょうか?

林 裕章さん:

「冬の朝のゴミ出しは、『起床時の生理現象』『寒暖差』『身体的負荷』の3つの悪条件が重なるため、実は入浴時と同様に非常に危険なタイミングです。

まず、人間の体は起床に向けて自律神経が『交感神経(興奮モード)』優位に切り替わるため、朝はそもそも血圧が上昇しやすい時間帯です。そこに、暖かい部屋から氷点下に近い屋外へ出るという『急激な温度変化』が加わります。冷たい空気に肌が触れると、体温を逃がさないように全身の血管がキュッと収縮します。すると、ホースの口を潰した時のように血流の抵抗が増し、血圧が急激に跳ね上がります(収縮期血圧で20mmHg以上上昇することもあります)。

さらに、重いゴミ袋を持つ際に『んっ』といきむ動作(バルサルバ効果)が加わると、血圧はさらに上昇します。血圧が上がると心臓は『高い圧に向かって血液を送り出す』必要が出るため、心臓の仕事量(心筋の酸素需要)が増えます。もともと動脈硬化がある方(高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙歴、腎機能低下など)では、冠動脈の余力が小さく、狭心症・不整脈・心不全増悪などが起きやすくなります。

朝のゴミ出しのような『起床時・無防備・急な寒冷刺激・努責』は、これら一連の急変動が脳や心臓にそれぞれ強烈な負荷をかけ、心筋梗塞や脳卒中、あるいは失神による転倒といったヒートショック事故を引き起こす原因となるのです。」

玄関を出る前の「10秒の対策」とは?血圧の急上昇をどう抑えるか

---玄関を出る直前に行うべき「10秒の対策」とは具体的にどのような動作で、それによって血圧の急変動をどの程度抑えられるのでしょうか?

林 裕章さん:

「まず大前提として、急激な寒冷刺激を弱める/遅らせることが最も確実な戦略です。

首元・耳・手・足など露出部を覆い、冷たい空気が直接当たる面積と強度を下げます。『すぐそこだから』『短時間だから』と考えず、しっかり防寒対策をしましょう。

その上で、玄関を出る直前に行うべき対策は、『寒冷順化(かんれいじゅんか)の予行演習』です。具体的には、いきなり外に飛び出すのではなく、『玄関ドアを少しだけ開けて外気に入れ、冷たい空気を数回吸い込む』という動作です。

この動作の医学的な狙いは、『体への予告』です。いきなり全身を寒気に晒すと、防御反応として血管が急激に攣縮(れんしゅく)します。しかし、顔の皮膚や気道で先に冷気を感じ取り、脳に『これから寒い場所に行くぞ』と認識させることで、自律神経の過剰なパニック反応(急激な血圧上昇)を和らげる効果が期待できます。

また、一呼吸置くことで副交感神経が刺激され、気持ちを落ち着かせる効果もあります。これにより、無防備に飛び出した場合に比べて、血圧のサージ(急上昇)を緩やかにし、血管事故のトリガーを引くリスクを低減させることが可能です。特に高リスクの方ほど価値があると言えるでしょう。」

誰でもできる冬の朝の「10秒アクション」で命を守る

---冬の朝、玄関を出る前に誰でもできる「10秒でヒートショックを防ぐ具体的な対策」を教えていただけますでしょうか。

林 裕章さん:

「誰でもすぐに実践できる『10秒アクション』として、以下の『ドア・ギャップ・呼吸法』を推奨します。

首を守る(所要時間:3秒)玄関に出る前に、マフラーやネックウォーマー、あるいは上着の襟を立てて『首元』を覆います。首には太い血管(頸動脈)があり、ここを冷やすと全身が冷えたと脳が錯覚しやすいためです。また、できれば手袋や靴下も身に着けて。サンダル履きは止めましょう。

ドアを5cm開ける(所要時間:2秒)いきなり全開にせず、ドアを少しだけ開けて冷たい外気を玄関に入れます。

深呼吸を2回する(所要時間:5秒)その隙間から入る冷気を感じながら、ゆっくりと2回深呼吸をします。目安は『吸うより吐くを長め』。冷たい空気を肺に入れ、体を外の気温に少しだけ慣らしてから、ドアを開け、いきなり踏み出さず、玄関内で1拍置いてから外に出ます。

たったこれだけの動作ですが、血圧の乱高下を防ぐ『命を守るクッション』となります。毎朝のルーティンとしてぜひ取り入れてください。

また、胸痛、強い動悸、息切れ、めまい・ふらつき、片麻痺やろれつ不良などがあれば、ヒートショック云々以前に緊急対応の領域なので、ためらわず救急要請を優先してください。」

冬の朝の外出時は「10秒の習慣」でヒートショック予防を!

冬の冷たい朝、暖かい室内から外へ急に飛び出すと、血管が収縮して血圧が急上昇し、心臓や脳に大きな負担がかかります。特に起床後は交感神経が活発なため、そのリスクはさらに高まります。重いゴミ袋を持って「いきむ」動作が加わると、心臓の負担は増し、心筋梗塞や脳卒中といった危険な事故につながることもあるのです。

しかし、簡単な「10秒ルール」を実践するだけで、その急激な血圧変動を和らげ、ヒートショックのリスクを大きく減らせます。首元を暖かくし、玄関のドアを少し開けて外気を感じながら深呼吸を2回。それだけで、身体に「これから寒い外に出る」準備を知らせ、自然な防御反応を促せます。

寒い季節の毎朝のちょっとした工夫が、あなたとあなたの大切な人の命を守る「命綱」になります。ぜひ今日から実践し、安全に冬を乗り切りましょう。


監修者:林外科・内科クリニック 理事長 林 裕章
国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。現在、外科医の父と放射線科医の妻と、その人その人に合った「人」を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営。医療・介護の両面から地域のかかりつけ医として、科学的根拠だけでは語れない、人間の心理に寄り添う医療を実践している。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、情報収集・発信に努めている。
日本外科学会外科専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本骨粗鬆症学会認定医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定スポーツ医