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「バァバ待って、僕が押す!」玄関から飛び出した男の子。多忙な宅配員が“あえて足を止めた”ワケ

  • 2026.1.17
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さんこんにちは、元宅配員のmiakoです。

小さなお子様のいるご家庭へお荷物をお届けするのは、私にとってひそかな楽しみでもありました。玄関先に顔を出してくれる子どもたちの表情は、そのご家庭ごとに違います。

荷物が届くことに一喜一憂する子どもたちとのささやかな交流は、短い時間ながらも癒しをもらったり、仕事への活力にもなっていました。

これは、私が体験した、とある小さなお客様とのほほえましい時間のお話です。

小さなお客様との出会い

宅配の仕事を続けて10年以上。担当エリアのお客様と関わる中で、特に時間の流れを感じたのは、子どもたちの成長でした。

出会った頃はまだあどけなかった子が、いつの間にか大人びた表情になっていく。あの時お母さんのおなかの中にいた子が、歩き出し、言葉を覚え、日々ぐんぐん成長していく姿を、少し離れたところから見届けさせてもらっていました。

あるお宅も、そんなご家庭のひとつでした。

玄関の様子が外から見える家で、いつも女性が対応してくださいます。

ある日、チャイムを鳴らすと、奥の部屋からいつもの女性と、その後ろから小学校低学年くらいの男の子が顔を出しました。

私たちのやり取りをそっと眺めていた男の子と、ふと目が合ったので、「こんにちは」と声をかけながら手を振ると、さっと女性の後ろに隠れてしまう、恥ずかしがり屋さんでした。

そんな姿も、かわいらしく感じていました。

「ぼくがハンコ押す!」と飛び出してきた日

何度かそのお宅へ伺った、ある日のこと。

いつも通りチャイムを鳴らすと、奥から女性が出てきました。

するとその後ろから、あの日の男の子が勢いよく飛び出してきて、こう言ったのです。

「バァバ待ってー!ぼくがハンコ押す!」

印鑑をねだるその姿に、女性は少し気遣うように、「忙しいでしょ?この子に任せて大丈夫?」と声をかけてくださいました。

「大丈夫ですよ」とお伝えすると、男の子に印鑑を渡してくれました。

一生懸命な小さな手と、ほどけた気持ち

私はしゃがんで、伝票を見せながら、「ここのしかくのところにハンコを押してくださいね」と声をかけました。

男の子は目をキラキラさせながら、ペタ。

押し終わったあと、きちんとフタを閉めたのを確認すると、軽めの荷物の箱だったので、「お願いしますね」と手渡しました。

男の子は嬉しそうに箱を抱えて、奥の部屋へと走っていきました。

「ごめんなさいね、忙しい時に」と女性は言ってくださいましたが、私は自然と笑顔になって、「いえ、むしろ元気をいただきました」とお伝えしました。

忘れかけていた時間を思い出させてくれるような、ひとときの安らぎ。それまで無意識に張りつめていた気持ちが、ふっと軽くなるのを感じた瞬間でした。

少しずつ育っていく関係

それからというもの、そのお宅へ荷物がある日は、あの男の子に会えるのが密かな楽しみになりました。

チャイムを押すと奥の部屋からちょこっと顔を出し、「はーい!」と返事をしながら我先にとばかり玄関に駆け寄ってくる姿。私の姿に慣れてくれたことにも思わず顔がゆるみます。

だいたいはおばあさまやご家族が一緒に付き添っていましたが、何度かお伺いするうちに家族の付き添いなく一人で玄関に出てきて、受け取ってくれる日もありました。大きな荷物の時は、きちんと家族を呼びに戻ってくれる姿もあり、その成長が頼もしく感じられました。

ある時は印鑑が見つからず、サインで対応することになったこともあります。

「名前?ぼく書けるよ!」

そう言ってボールペンを手にすると、習ったばかりの漢字とひらがなが混じった力強い字でサインを書いて渡してくれました。

車に戻って伝票を見るたび、慣れないながらもしっかりとサインを書いてくれた姿を思い出して、またひとつ、成長を感じたのと同時に、元気をもらっていました。

心が軽くなったその先に、そっと思ったこと

忙しい毎日の中では、少しゆっくりした時間が煩わしく感じることもあります。

それでも、子どもたちが一生懸命に頑張る姿は、慌ただしく働く大人の心をそっと緩めてくれるものでした。

子どもたちにとって、荷物を運ぶ人や宅配トラックといった「はたらくくるま」は、かっこよくて気になる存在の一つなのかもしれません。とくに宅配トラックは、サンタさんのソリに積まれたプレゼントの袋のように、夢や憧れが詰まっている存在に感じる子どももいることでしょう。きっと、冬のクリスマスが近づく頃には、私たち宅配員のことを、サンタさんのお手伝いをしている人に見えているのかもしれません。

配達中にすれ違うと、手を振ってくれたり、興味深そうに見つめてくれるその姿に、こちらが元気をもらうこともありました。

かわいい笑顔に元気をもらう一方で、ハンドルを握るたびに、あの温かさがいつも安全の中にあってほしいと願う気持ちも、自然と浮かびました。

宅配の仕事のそばには、いろんな家族の姿があります。

子どもたちの憧れや夢を大切にしながら、危険なところだけは大人が先に気づき、そっと守っていけたらと、私は思っています。

今日もどこかで、荷物を待つ人がいて、そのそばで小さな憧れのまなざしが向けられているかもしれません。

そんな日常を大切に思いながら、宅配員たちは、今日も誰かの生活にそっと寄り添っています。



ライター:miako
宅配ドライバーとして10年以上勤務した経験を生かし、現場で出会った人々の温かさや、働く中で積み重ねてきた“宅配のリアル”を、経験者ならではの視点で綴っています。
荷物と一緒に交わされてきた小さなエピソードを、今は文章としてお届けしています。


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