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「触るな!」介護を拒む高齢男性。ある夜、排泄に失敗し…看護師の前で放った“ひと言”

  • 2026.1.16
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

看護の仕事において、避けては通れないのが「身体介助」です。排泄介助や清拭…。それは、世間で語られる「崇高な仕事」という言葉だけでは表しきれない、匂いや汚れ、そしてときに向けられる強い拒否と向き合う、現実的で地道な日常でもあります。

今回は、私が担当したある入院患者さんとの関わりを通して感じた、「身体を拭くこと」の本当の意味についてお話しします。

拒否の奥にあった、揺らぐ自尊心

高齢者の男性Aさん。看護師が介助に入ろうとすると、スタッフに対して感情的な言葉を向け、身体に触れられることを強く拒まれることも少なくありませんでした。

当時、その方は体調の影響で排泄が安定せず、本来であればこまめなケアが必要な状態でした。しかし、介助のたびに強い拒否があることで、対応する側の精神的な負担も大きく、「また厳しい反応を受けるかもしれない」と、緊張感が漂う状況になっていました。

けれど今振り返ると、私たちが向き合っていたのは、単なる身体的な問題ではなかったのだと思います。

自分で当たり前にできていたことができなくなる――その現実に直面したときに生じる、喪失感や屈辱感から自分を守ろうとする心の反応だったのではないでしょうか。

沈黙の夜、決壊した感情

ある夜勤の巡回中、その方の部屋に入ると、室内の空気に普段とは違う変化を感じました。

寝具の状態を確認すると、排泄のトラブルが起きていることがすぐに分かりました。

いつもなら厳しい言葉が返ってくる場面ですが、その夜は違いました。

声を荒らげることもなく、ただ視線を落とし、身体を強張らせたまま動けずにただ涙を流している姿がありました。

「……申し訳ない」

絞り出すようなその一言に、私は言葉を返せませんでした。
ここで「大丈夫ですよ」という安易な励ましは、かえってその方の気持ちを置き去りにしてしまうように感じ、私は多くを語らず、静かにケアをすることを選びました。

手のひらから伝わる「修復」のメッセージ

私は手際よくシーツを替え、Aさんの身体を温かいタオルで包み込みました。汚れを拭い去る一つひとつの動作に、全神経を集中させます。

排泄介助は、技術であると同時に「対話」でもあります。丁寧なタオルの当て方、肌を滑らせるスピード。言葉を交わさずとも、その手のひらを通じて、私はAさんにメッセージを送り続けました。

「大丈夫。あなたの価値は、こんなことでは1ミリも損なわれません」

次第に、こわばっていた身体の力が抜け、呼吸が落ち着いていくのが分かりました。

地道なケアの先にあるもの

介助が終わり、最後に新しいパジャマのボタンを留めたとき、Aさんが私の目を見て、小さく頷きました。それは、これまでの拒絶が嘘のような、穏やかで静かな感謝の表情でした。

身体をきれいにすることは、単に衛生状態を保つことではありません。それは、病気や老いによってズタズタに傷ついた患者さんの尊厳を、1枚ずつ貼り直していく「修復」なのです。

「大変そう」「汚い仕事」と言われる現場の先にこそ、こうした魂の触れ合いがある。地道なケアの報酬は、きっとこの瞬間に集約されているのだと、今でも確信しています。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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