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朝ドラで“第一印象を裏切る”人物に称賛の声「ぴったりな配役」「優しすぎる」名脇役だからこそできた“演技の妙”

  • 2025.12.28
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『ばけばけ』第6週(C)NHK

朝ドラ『ばけばけ』で、静かに、けれど確かな存在感を放っている登場人物がいる。ヒロイン・トキ(髙石あかり)の生家である松野家にたびたび現れる借金取り・森山銭太郎。演じるのは、近年バイプレーヤーとしての実力を着実に示してきた俳優・前原瑞樹だ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

いきなりの世代交代、二代目の登場

一見すると厳めしい役回りに思える“借金取り”という肩書。しかし、銭太郎はその枠にすっぽり収まりきらない、不思議な愛嬌を持つキャラクターだ。

金の取り立てに来ているのに、どこかそそっかしく、あたふたし、しまいには憎まれ口のなかにぽろりと優しさをこぼしてしまう。背伸びして乗り込んできたと思えば、松野家面々の体調を気遣う面も見せる。そんな彼の姿に、つい画面のこちら側が頬を緩めてしまう。

銭太郎の初登場は第6週、父であり“初代借金取り”の善太郎(岩谷健司)が急逝した直後だった。あまりに突然の世代交代に、彼自身も気負いながら松野家の門を叩く。しかし、威勢だけは一人前でも、その内側には戸惑いや迷いがにじみ出ていた。その不器用さこそが、銭太郎の、そして前原瑞樹の演技の魅力だ。

第10週では、松野家が真面目に借金を返し続けていることに対して文句をつける場面も。トキの母・フミ(池脇千鶴)から返された10円に対し毒づいてはみるものの、その言葉にはどこか照れや戸惑いが滲む。

そして、結局は誰よりも、庶民の生活を思いやる一言で締めくくり、帰っていくのだ。ここで垣間見えるのは、父から受け継いだ情けという遺伝子なのかもしれない。

前原瑞樹が見せる“いじられキャラ”としての華

第11週では、トキの祖父・勘右衛門(小日向文世)との口喧嘩が印象的だった。彼らのやりとりは、どこか漫才のような間合いとテンポを感じさせる。ここでも銭太郎は、怒鳴っているのにどこか抜けていて、憎めない。彼の放つ一言一言が、物語にユーモアという潤滑油をもたらしている。

ではなぜ、銭太郎はこんなにも視聴者に愛されるのか? それは、前原瑞樹の持つ、悪い人に見えない人間性に尽きる。

借金取りという設定でありながら、その佇まいには抗えない“善人性”が染み出している。前原の持ち前の人間味あふれる芝居が、銭太郎という役をチャーミングに変換しているのだ。

SNS上でも「ぴったりな配役」「優しすぎる」と評判の前原。表情の緩急やセリフの抑揚だけで、観る者の感情を自然に引き出す力がある。鋭さでも繊細さでもなく、他者に寄り添う表現ができる俳優だ。

余白のある人物が、朝ドラを豊かにする

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『ばけばけ』第6週(C)NHK

彼の演技は、受けに強い。芝居巧者のキャスト陣が揃う松野家の面々に、言葉では敵わずとも、表情と間合いで対抗し、存在感を残す。これは演技力の裏付けがなければできない芸当ではないか。彼特有の“いじられキャラ”の妙を、朝ドラという舞台で存分に発揮している。

『ばけばけ』の舞台となる明治の松江は、借金や失業、異文化との摩擦など、現代と地続きの問題が描かれる世界でもある。そんななかで銭太郎という存在は、ユーモアと救いをもたらす存在であると同時に、人間って捨てたもんじゃない、そんな普遍的なメッセージを体現するキャラクターでもあるように思える。

今後、彼がどのように松野家や町の人々と関係を築いていくのか、どんな変化を見せていくのか。朝の15分にちょこんと現れるその姿に、視聴者は今日も笑い、そしてほろりとさせられるのだ。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_