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朝ドラで描かれた“手元の違い”に集まる視線「意図的な脚本かな」「意味が分かると辛くも」“年内最後の放送”にふさわしい一話

  • 2025.12.27
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『ばけばけ』第13週(C)NHK

朝ドラ『ばけばけ』第65話は、物語の節目であり、年内最後の放送として強く印象に残る一話となった。プロポーズ、旅立ち、別れ、そして新たな感情の芽生え。登場人物たちがそれぞれの選択と向き合う姿が、静かでありながら確かな余韻を残す。派手な演出に頼らず、間と沈黙を大切にした構成は、物語そのものの成熟を感じさせる回だった。

※以下本文には放送内容が含まれます。

第65話のあらすじ

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『ばけばけ』第13週(C)NHK

月照寺からの帰り道、トキ(髙石あかり)は銀二郎(寛一郎)からプロポーズを受ける。「東京で一緒に暮らそう」と真っ直ぐに語る銀二郎の言葉に、トキは即答できず、戸惑いを隠せない。一方その頃、ヘブン(トミー・バストウ)は自宅にイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)を招くと、彼女から「あたたかい土地で2人で滞在記を書かないか」と誘いを受けていた。

その後、銀二郎を花田旅館まで送りに来たトキは、同じようにイライザを送りにきたヘブンと再会する。やがて銀二郎は東京へ戻り、イライザもまた日本を離れていった。賑わいが去ったあと、松江に残された二人は松江大橋で偶然にも鉢合わせる。

「サンポ…ア~…。イッテキマス」と言いよどみながら背中を向け、歩き出すヘブンに向かって、トキはどこか切ない笑みを浮かべながら、「私も…。ご一緒してええですか?」と静かに伝えた。

ヘブンの「ハイ。」という返事のあと、ハンバート ハンバートが歌う主題歌『笑ったり転んだり』が流れ始める。週タイトルである「サンポ、シマショウカ。」が見事に回収され、普段のOPとは異なり、白一色の背景に出演者たちの名前が淡々とクレジット表示されるのみという簡潔な構成で仕上げた。

楽曲の途中から映像は切り替わり、夕暮れが映える宍道湖の湖畔を、トキとヘブンが並んで歩く場面が映し出される。波の音だけが聞こえる中、ヘブンが左手を差し出し、トキがそれを取る瞬間がアップで捉えられ、そのまま二人が手をつないでカメラの手前へと歩いてくるカットで締めくくられる。

『ばけばけ』らしい物語の向き合い方

この第65話が特別なのは、出来事そのものよりも“感情の整理”に焦点が当てられている点だ。トキは銀二郎の誠実さに向き合いながら、自分の本心が別の場所にあることに気づいてしまう。その気づきは決して劇的ではなく、散歩という何気ない行為の中で、ゆっくりと輪郭を帯びていく。同じくヘブンもまた、イライザという大切な存在を見送りながら、自分が誰と、どこにいたいのかを静かに理解していく。

演出面でも、この回は非常に挑戦的だった。ラスト約2分で挿入されたタイトルバックは、これまでおなじみだった静止画を排し、白背景に黒文字のみという極端にそぎ落とした表現を選んでいる。さらに、金曜本編後に次週予告を入れないという構成も含め、制作側の「ここで一度、立ち止まらせたい」という意志がはっきりと伝わってくる。

第13週のタイトル「サンポ、シマショウカ。」と完全に呼応するように、散歩という行為が象徴するのは、急がず、答えを出し切らない関係性だ。イライザの流した涙や、銀二郎のどこか哀愁を帯びた表情は切ないが、その切なさを否定せず、物語の一部として抱え込む姿勢が『ばけばけ』らしい誠実さだと感じる。

年内最後の放送にふさわしい“余韻を残した15分”

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『ばけばけ』第13週(C)NHK

年内最後の放送にふさわしく、物語の転換点を静かに提示した一話だった。誰かを選ぶことは、同時に誰かを手放すことでもある。その現実を過剰にドラマチックにすることなく、淡々としながらも確かに描き切った点に、この作品の強さがある。

SNSでは「最高の1話」「大号泣した」といった称賛の投稿が相次いでいる。また、イライザの手が静かに離れていく描写と、ラストではトキとヘブンが手を繋ぐ描写に対するコメントも見られた。イライザとの関係が終わりを迎えたことを象徴するように指先がほどけていく一方で、トキは新たに選び取った相手の手を離さない。このコントラストに対し、「意図的な脚本かな」「意味が分かると辛くもある」「切ないシーンだった」と高く評価する声もあがった。

派手な告白も、大きな決断の言葉もない。それでも、トキとヘブンが手をつないで歩き出すラストには、これまで積み重ねてきた時間と感情がすべて詰まっていた。異例の演出も含めて、「良い一話だった」と素直に言いたくなる回であり、視聴者の記憶に長く残る締めくくりだったと言えるだろう。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:柚原みり。シナリオライター、小説家、編集者として多岐にわたり活動中。ゲームと漫画は日々のライフワーク。ドラマ・アニメなどに関する執筆や、編集業務など、ジャンルを横断した形で“物語”に携わっている。(X:@Yuzuhara_Miri