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朝ドラだけではなく“大河も好演”「見たことあると思ったら」「似合う」着実にキャリアを重ねてきた“実力派俳優”

  • 2026.3.12

朝ドラ『ばけばけ』の熊本編から登場する英語教師・作山を演じている俳優・橋本淳。登場当初からSNS上でも「どっかで見たことあると思ったら」「こういう役も似合う」と話題になっていた。大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』で演じていた浮世絵師・北尾重政の記憶が新しい。今回の朝ドラでは、理知的で合理的でありながら、どこか不器用な英語教師役に挑んでいる。舞台や映像作品で着実にキャリアを重ねてきた橋本淳、彼の魅力を『ばけばけ』での役柄とともに紐解いてみたい。

※以下本文には放送内容が含まれます。

熊本編で登場する英語教師

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『ばけばけ』第22週(C)NHK

物語が松江から熊本へと舞台を移した『ばけばけ』第20週「アンタ、ガタ、ドコサ。」から、新キャラクターとして登場したのが橋本淳演じる英語教師・作山である。

作山は熊本第五高等中学校の教師。理路整然とした合理主義者であり、規律を重んじる折り目正しい人物だ。しかしその一方で、どこか不器用で繊細な心を持つ青年でもある。

学校の存続問題が浮上した際には、その責任の重さに心を痛め体調を崩してしまい、ヘブン(トミー・バストウ)に授業を代わってもらう場面もあったほど。理屈では割り切れるはずの問題に、心が追いつかない……そんなナイーブさが、作山という人物の人間味を際立たせている。

ヘブンの同僚として登場するこの教師は、熊本編の物語を動かす重要な存在だ。合理主義者でありながら、どこか危うさを抱えた青年。その微妙なバランスを成立させているのが、橋本淳という俳優の繊細な演技なのである。

“普通の人”を魅力的に演じる

橋本の演技の魅力は、一言で言えば“普通の人物”を豊かに演じられることだろう。

派手なキャラクターでも、極端な悪役でもない。どこにでもいそうな誠実な青年や、少し不器用な大人。そんな人物を浮かせることなく、それでいて確かに印象に残る形で表現する。

舞台で培われた身体性と、心理表現の細やかさも大きな強みだ。ケラリーノ・サンドロヴィッチや加藤拓也といった演出家の舞台に数多く出演し、繊細な会話劇から大胆なコメディまで幅広い役柄を経験してきた。

とくに印象的なのは、共演者の芝居を“受け止める”演技。自分が前に出るのではなく、相手の感情や言葉を丁寧に受け取りながら場面を成立させる。その安定感が、作品全体の空気を静かに支えている。

朝ドラにおいて、こうした俳優の存在は非常に重要だ。主役の物語を支えながら、作品のリアリティを底上げする役割を担うからである。

最近の橋本を見て「どこかで見たことある」と感じた人もいるかもしれない。その理由の一つが、大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』での存在感だ。

彼が演じていたのは、江戸の浮世絵師・北尾重政。時代の最先端を走るクリエイターとしての矜持とプライドを静かな熱量で表現し、主人公・蔦屋重三郎(横浜流星)にとっても重要な人物を印象的に演じていた。

さらにドラマ『25時、赤坂で』では、人気俳優を支えるマネージャー・篠田翔太役を好演。俳優の孤独を理解し、そっと寄り添う“究極の理解者”のような人物だった。

浮世絵師、マネージャー、そして朝ドラの教師。役柄だけ見ても、その振り幅の広さは明らかだ。橋本は、役柄の肩書きではなく、その人物の生活や時間を感じさせる演技ができる俳優なのである。

舞台で見た橋本淳の“距離の近さ”

筆者にとって橋本淳という俳優の印象が強く残っているのは、舞台での体験があるからだ。2023年に上演されたシス・カンパニー公演『いつぞやは』(作・演出:加藤拓也)を観劇したときのこと。橋本演じる松坂という男は、物語の冒頭、客席後方から登場する。そして観客に飴を配りながら語り始めるのだ。

劇場の空気は一瞬で変わる。舞台と客席の境界が、ふっと溶けるような感覚だった。そのとき、実際に橋本淳本人から飴を手渡してもらった。ほんの一瞬の出来事だったが、役のなかにいる人物がそのまま観客の前に現れたような、不思議な距離感を覚えたのをよく覚えている。

舞台で鍛えられた俳優には、観客との距離を自在に操る力がある。橋本もまた、その空気を作れる役者のひとりなのだろう。

主役ではなくとも、物語の温度を変える俳優。誰かの人生の伴走者のように、そっとドラマの厚みを増していく俳優。『ばけばけ』熊本編の物語が進むにつれて、この教師がどのように物語に関わっていくのか。そして橋本淳がどんな新しい顔を見せてくれるのか。静かな存在感を持つ俳優が、朝ドラの世界にまた一つ新しい色を加えてくれそうだ。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_