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大河ドラマ史上“最高傑作”として評価された一作 圧倒的な脚本が絶賛された“有名脚本家”の手腕

  • 2026.3.12

2022年に放送された三谷幸喜脚本のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、平安時代末期から鎌倉時代初頭を舞台にした物語。戦国時代や幕末と比べると馴染みの薄い日本の中世が舞台だったため、盛り上がりに欠ける地味な作品になるかと思われたが、放送が始まると三谷幸喜の圧倒的な脚本が絶賛され、今では本作を大河ドラマの最高傑作だと言う人も少なくない。

※以下本文には放送内容が含まれます。

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小栗旬 (C)SANKEI

物語は平安時代末期から始まる。本作の主人公は伊豆の小さな豪族・北条家の次男・義時(小栗旬)。
若き日の義時は北条家に流人として匿われていた源頼朝(大泉洋)と出会い、弟のように信頼される。
やがて頼朝は北条家の武士たちと共に、各地で横暴な振る舞いをする平家を倒すために挙兵を決意する。

馴染みのない名称が多数登場するため、観る前はとっつきにくく思える『鎌倉殿の13人』だが、序盤で描かれる源氏と平家の争い(源平合戦)は、本編の中では例外的に多くの人が知っている物語となっている。
大河ドラマでも2005年の『義経』や、2012年の『平清盛』で描かれた時代の出来事で、源義経(菅田将暉)、木曽義仲(青木崇高)、弁慶(佳久創)、静御前(石橋静河)といった有名な人物も登場するため、『平家物語』の映像化として楽しむことができる。

だが重要なのは、ここでの主人公が頼朝や義経といった誰もが知っている英雄ではなく、まだ何者でもない青年・北条義時だということだ。
『新選組!』も『真田丸』もそうだったが、三谷幸喜の大河ドラマの主人公は大器晩成型で、始めはお人好しの凡庸な青年として登場する。そして、一癖も二癖もある大人たちに翻弄されながら、少しずつ世の中の仕組みを学び、成長していく。
これは一年間にわたって放送する大河ドラマだからこそできる描き方だ。おそらく、時間をかけて未熟な青年が一人前の大人に成長していく過程を描けることこそが、大河ドラマの最大の魅力だという確信が三谷の中にあるのだろう
日本の中世という馴染みのない時代を舞台に、北条義時という馴染みのない人物を主人公にしているのに、本作はとても見やすい。 むしろ知識として知らないことがほとんどだからこそ、世間を知らない無知な若者の義時と同じ視点で世界を眺めることができるのだ。

13人の合議制が持つ表と裏の顔

平家を倒した功績が朝廷から認められた頼朝は、征夷大将軍に任命され、鎌倉に幕府を開き鎌倉殿となる。
その後、頼朝が命を落とすと、彼の意思を引き継ぐ形で義時は執権となり、頼朝の正室(正妻)だった姉の政子(小池栄子)と共に頼朝の嫡男・源頼家(金子大地)を二代目鎌倉殿として支えることになる。
その際に生まれた頼家を補佐するための合議体制が、義時を含めた13人の家臣によっておこなわれることとなるのだが、タイトルの『鎌倉殿の13人』とは、この13人の家臣による政治体制のことだ。

三谷幸喜の初期代表作に『12人の優しい日本人』という戯曲がある。本作は1957年に製作されたシドニー・ルメット監督の『十二人の怒れる男』という裁判所に陪審員として集められた12人がある事件について議論する姿を描いた映画を下敷きにしており、もしも日本に陪審員制度があったら、議論が苦手でその場の空気に流されやすい日本人はどのように振る舞うのかを描いたコメディテイストの密室・法廷劇となっていた。
三谷の作品には合議制によって物事を決めていく様子をエンタメとして描いたものが多い。それは彼の作品の根底に民主主義に対する理想が存在し、意見の異なる者たちが議論を重ねることによって最適解を探す姿こそが美しいと信じているからだ。だが、それがあくまで理想でしかないことも三谷は熟知している。
表向きはフェアな議論に見えても、その裏では様々な人々の思惑が絡んだえげつない権力闘争が繰り広げられており、もっともらしい正論を唱えていても、全ては自分の立場を有利に進めるための方便でしかないという、大人の現実も三谷は知り尽くしている。
特に時代劇においては、議論の背後にある権力闘争としての側面が全面化していく。

北条義時が体現した勝者の哀しみ

義時は源頼家を合議制で支えようとするがうまくいかず、頼家は家老たちと衝突した末に幽閉され、表舞台から退場する。
その後、頼朝の次男・源実朝(柿澤勇人)が三代目鎌倉殿となるが、13人の家臣たちの間でも衝突が起こるようになり、やがて義時は、激しい権力闘争に明け暮れる中で巨大な権力を手中に収めることとなる。
鎌倉幕府の歴史がわかりにくいのは、源頼朝以降、源氏の血筋の者が鎌倉殿の座から次々と退場していき、いつの間にか義時と政子が権力の頂点に立ち、北条家が実権を握るからだ。 この、源氏から北条家へ権力が移行していく流れが、これまではうまく理解できなかったのだが、『鎌倉殿の13人』は、そのよくわからない鎌倉幕府内部の政治状況をエンタメ性の高い権力闘争の物語として描くことで「その時、何が起きていたのか?」を丁寧に紐解いていく。
その際に興味深いのが、善良な青年だった義時が哀しいダークヒーローへと変貌していくことだ。

『新選組!』と『真田丸』で三谷は、敗者となった人間の視点から歴史を描いた。勝者ではなく敗者の側から物語を紡ぐスタンスは、犯人の視点から始まる刑事ドラマ『古畑任三郎』シリーズを筆頭とする他の三谷作品にも言えることで、敗者に対する優しいまなざしは三谷の作家性そのものだと言える。
だからこそ、勝者の側から歴史を描いた『鎌倉殿の13人』は、三谷の新境地として盛り上がりを見せたのだが、最終的に義時がたどり着いた場所は、敗者たちと大きく変わらない、あるいはそれ以上に孤独で哀しい場所だったように感じる。

勝者も敗者と同じくらい哀しい存在だということを描ききったことで、三谷の作家性はより深まり、『鎌倉殿の13人』を大河ドラマ最高傑作と言われる作品へと昇華されたのだ。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。