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朝ドラ・ヒロインの影で“身を引く人物”に切ない声「見どころの一つ」「寂しい」恒例のオープニングが特に沁みた【第12週】

  • 2025.12.19
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『ばけばけ』第12週(C)NHK

怪談を愛するヒロイン・松野トキ(髙石あかり)が、異国の教師・ヘブン(トミー・バストウ)、通訳の錦織(吉沢亮)とともに過ごした時間が、確かな絆へと変わっていく。朝ドラ『ばけばけ』第12週「カイダン、ネガイマス。」では、文化も言語も異なる3人が、通じない言葉の隙間で“心の通訳”となる姿が描かれた。感情が交差するこの週、とくに注目したいのは、静かに身を引いた錦織の切ない決断と、トキとヘブンの関係性の変化である。

※以下本文には放送内容が含まれます。

ヘブンにとってのラストピース

第12週で描かれたのは、言葉の通じなさを超えて通じ合う人々の姿だった。英語が話せないトキと、怪談の素晴らしさに目覚めた外国人教師・ヘブン。彼らの間には通訳・錦織がいたはずだが、その“橋渡し役”が静かに舞台を降りる週でもあった。

彼は、自分がヘブンにとって、通訳やお世話係以上の存在にはならない事実に傷ついていた。それは人種や国籍の違いというよりも、ヘブンが抱える過去の重みによるものであり、それを覆すことが是ではないことも、聡明な錦織なら理解していただろう。

そして、トキとヘブンが怪談を通して言葉を通わせ合っていることを知り、ヘブンにとっての“ラストピース”である、日本滞在記が完成に近づいていると察することになる。

寺の怪談『水あめを買う女』を語り直すトキの瞳。そこに宿った力は、女優・髙石あかりの憑依的な演技力によって、画面越しに見る者の心を震わせた。まるで誰かが乗り移ったかのように、感情豊かに言葉が流れ出す。巧みな所作も相まって、話し手の“熱”が相手に届く瞬間。SNS上でも「素晴らしい演技に脚本」と好評だったシーンだ。

怪談とは、恐怖の話ではなく、言葉にならない想いを託す感情の翻訳でもあったのだ。その語りを聞き、そして「カイダン、スバラシ」と繰り返されるヘブンの感動。そこには単なる理解ではなく、確かに感じ取ったという共鳴があった。

言葉を超えて、“同じ場所に立った”瞬間

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『ばけばけ』第12週(C)NHK

あらためて、錦織の存在に目を向け直したい。第12週では、彼がなぜ自らヘブンとの距離を置いたのか、その心境が丁寧に描かれていた。

彼がとった行動は、ただ子どものように拗ねているのでも、ましてや意固地になっているのでもない。ヘブンの過去を聞き知ったことで、自分の役割にしがみつくのをやめた、いわば非常に勇気のいる判断だった。

錦織を演じる吉沢亮の静かな目の演技が、この決断にどれほどの感情が詰まっていたかを雄弁に物語っていた。SNS上でも「今週の見どころの一つ」「寂しい……」という声が多く挙がっているが、この決断が、やがてヘブンと錦織の関係性をより重層的にするだろう。

終盤、寺での怪談語りをきっかけに、トキとヘブンが通訳なしで初めて“同じ場所に立つ”瞬間が訪れる。それは、言葉が完全に通じ合ったからではない。むしろ、通じなくても伝えたい想いがあったからこそ生まれた奇跡だった。

ヘブンの「スバラシ」に込められた感動の深さ。怪談の奥深くに潜んだ、人々の痛切な心の動きに共振し涙を流す姿。言葉がわからずとも、怪談を通じて心を通わせるトキとヘブンだけれど、語れば語るほど別れに近づくという複雑な矛盾も横たわっている。

“凸凹な三人”の愛おしさ

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『ばけばけ』第12週(C)NHK

毎話恒例のオープニングも、今週は格別に沁みた。ハンバート ハンバートの曲が流れるなか、トキとヘブン、錦織の三人が過ごした時間が、静かに心に残る。

トキは不器用だけど真っすぐで、ヘブンは知的だけれど孤独で、錦織は優しいのに少しだけ臆病だ。そんな三人が交差する物語は、言葉や文化、立場の違いを越えて、確かな“共感”を生んだ。言葉を持たぬ魂が響き合う、その尊さを噛みしめた週だった。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_