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「見事な最終回」「さすが」NHK大河ドラマ、“前代未聞の幕引き”にSNS称賛の嵐

  • 2025.12.19
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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』12月14日放送 (C)NHK

笑って、泣いて、踊って。大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』最終回にて描かれたのは、命を落とす瞬間すらもエンターテインメントに変えてしまう、主人公・蔦屋重三郎(横浜流星)の生き様だった。放送100年という節目に贈られたラストは、最期を描いているのに、なぜこんなにも“生”があふれていたのか。その答えは、江戸の寵児・蔦重が貫いた“おもしろがる”という姿勢にこそある。SNS上でも「見事な最終回」「さすがでした」と声が挙がった、最期まで夢をプロデュースし続けた男の最終話を、熱狂と余韻の両面から振り返る。

※以下本文には放送内容が含まれます。

写楽プロジェクトの終幕から、和学への越境

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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』12月14日放送 (C)NHK

命を終えたはずの男が、拍子木の音で目を覚ます。そんな“見世物”のような最期を飾ったのが、江戸の寵児にして“メディア王”と呼ばれた蔦屋重三郎。NHK大河ドラマ『べらぼう』最終回は、彼の最期の瞬間をも、なお“笑いと物語”へと昇華させた、圧巻のラストだった。

前回、幕政の裏で動いていた松平定信(井上祐貴)らの策略により、家斉(城桧吏)は父・治済(生田斗真)とともに茶室で昏倒。能役者・斎藤十郎兵衛(生田斗真:一人二役)が影武者として治済の代役を務め、本物の治済は孤島へ……と思いきや、隙を見て逃亡する。

しかし、その直後に、彼は雷に打たれて命を落としてしまう。

一方、写楽プロジェクトが幕を閉じた蔦重は、ふたたび本屋としての生業に戻り、和学の分野にまで手を広げる。写楽の正体を問う声、そして“東洲斎”と“斎藤十”のアナグラムについて種明かしする場面では、場が喝采の声に満ちた。

プロジェクトを終えた仲間たちとの慰労会、てい(橋本愛)が手にした忘れ物の書『玉くしげ』。そして、その一節が蔦重のなかで新たな疑問を呼び起こす。なぜ、本居宣長(北村一輝)は捕まらないのか?

この問いが、彼をふたたび物語の中心へと駆り立てる。伊勢松坂へと足を伸ばし、宣長と対話する蔦重。思想・学問・出版、あらゆる知と知をつなぎ続けたこの男は、ついに日本思想の源流にまで手を伸ばしたのだ。

死すらも芝居に変える最期の幕引き

一方で、肉体は確実に弱っていく。脚気に冒され、やがて寝込む蔦重。しかし彼は、死ぬまで書をもって世を耕し続けることを願い、最後の最後まで仲間たちの作品を世に出し続ける。朋誠堂喜三二(尾美としのり)、北尾重政(橋本淳)、大田南畝(桐谷健太)……かつて苦楽をともにした同志たちが次々と訪れ、作品を手に、励ましの声をかける。

そして、蔦重はある夢を見る。

迷惑年(明和9年)の火事で助けた九郎助稲荷(綾瀬はるか)が、美しい女の姿で現れる。その翌日、昼九つ午の刻にお迎えが来ることを、自ら周囲に知らせる蔦重。まるで芝居の台本でもあるかのように、彼の最期の演出が始まるのだ。

ていが準備した、戒名やら墓碑銘やら諸々の手筈。迎えを待つ蔦重のもとに、縁のあった人々が集まる。皆、静かに涙を流す。鐘が鳴る。力尽きる蔦重。しかし、ここで終わらないのが『べらぼう』だ。

「呼び戻すぞ」と突然の大田南畝の号令。ていも含め、皆が泣きながら「へ!へ!へ!」と叫びながら踊り出すという、前代未聞の展開に。最期の瞬間すら笑いに変えるこの構成は、まさに脚本家・森下佳子の真骨頂と言えるのではないか。

そして、蔦重の「拍子木…聞こえねえんだけど」という一言で、死者が帰ってくるという奇跡のような幕引きがなされた。

仲間たちと作った“永遠の出版”

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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』12月14日放送 (C)NHK

命の終わりは、物語の終わりに直結しない。それは“もうひと笑い”の材料に変わる。これこそが、『べらぼう』が一年かけて私たちに教えてくれたことだ。

物語のなかで、蔦重は何度もお上に睨まれ、命の危機にさらされ、それでもおもしろさを追い求め続けた。そこには、言論や表現の自由という近代的価値観では収まりきらない、笑いの力を信じる者の矜持があった。

江戸の人間にしか、できないことがある。彼の言動に根付いたこの考えには、現代を生きる私たちにも響く強さがある。流行は移り変わり、人の心は揺れ動く。しかし、物語を求め、笑いを求める気持ちだけは、きっとどの時代も変わらない。死んでもなお、拍子木とともに“物語”として呼び戻される男。それが蔦屋重三郎なのだ。

『べらぼう』は終わってしまった。しかし、蔦重の魂は、いまもどこかで笑っている気がしてならない。


NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』 
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_