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「昨日は親戚の葬式。明日もなんでよろしく」コネ入社した問題社員が部下になり…いきすぎた素行不良の顛末

  • 2025.11.12

コネ入社した問題児が部下になったらどうすればよいのか。心理学者の舟木彩乃氏は「犯罪に発展しそうな問題行為を起こす人は、一種の障害を抱えている可能性がある」という――。

※本稿は、舟木彩乃『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。

悩む会社員
※写真はイメージです
こんな社会人がいるのか…

有力な親のコネで入社して、誰も文句を言えないのをよいことに、ほぼ仕事をしない社員がいます。なかには昔の素行の悪さそのままに、上司さえも見下すような人もいます。しかし親の威光を笠に着ていて、上司が我慢を強いられることも少なくありません。明らかに社会常識が通用しない人には、どのような心理的な背景があるのでしょうか。

そんな社員を部下に持ってしまったときの対応を考えましょう。

木村さん(仮名、女性30代)は、地方都市で代々続く中小企業の総務部で働いています。彼女は、地元の大学を卒業してすぐ今の会社に入社したベテラン社員であり、社長秘書や経理など幅広い業務を任され、昨年から総務部の副部長に昇進しました。彼女の会社は、社長の人柄も良く、社員も穏やかな人がほとんどで働きやすい職場です。

しかし、2カ月ほど前に木村さんの部下としてPさん(男性20代)が入社して以来、職場環境が一変しました。木村さんは頭を抱える場面が多くなり、職場に来るのが憂鬱になるほどだったといいます。

社長の知人の息子に仕事を教えることに

Pさんの父親は社長の古くからの知人で、重要な取引先の会長であり、地方議員を務める地元の有力者です。社長は、Pさんの父親から、「息子は、昔からやんちゃで(非行少年だった)、高校は卒業したものの、進学も就職もせず遊んでばかりいる。なんとか社長の会社でお願いできないか」と、頭を下げて頼まれました。

社長は人が良いというのもありますが、断ることができなかったようで、「わかりました。優秀なスタッフ(木村さんのこと)の下で働いてもらいます」と言って、息子を引き受けてしまいました。

社長は、まずは総務部に配属して、会社全体の仕事の流れを覚えてもらおうと考えたようです。総務部で電話対応やデータ入力などの一般事務全般を取りまとめ、社長の秘書的業務をしている木村さんは、Pさんの直属の上司兼教育担当になりました。

彼の初出勤は、社長自らが付き添って主要な部署を回り、Pさんが取引先の会長の息子であることや初めての職場であること、まだ若いので丁寧に指導してほしいことなどをスタッフに伝えました。特に木村さんには、よろしく教育を頼むと、深々と頭を下げたそうです。

素行が悪くて働く意欲もない部下

木村さんから見たPさんは、挨拶や言葉遣いなど社会人としての基本的なマナーが身についていないばかりか、覚える意欲さえもないようでした。というのも、近い時期に入社した新入社員が他に数人いて、新人研修を一通り(マナーやPC操作、就業規則など)受講したのですが、Pさんは居眠りしていることが多く、効果がなかったようだという報告を講師から受けたからです。

また、新人同士のグループワークも、反抗的な態度で場を乱していたというクレームが、Pさんと一緒に研修を受けた新入社員から出ていました。この件は、社長にも報告しましたが、「とりあえず様子を見よう、木村さんを頼りにしているから」と、なにか特段の対処をすることもなく、逆に励まされてしまったようです。

通常業務が始まっても、Pさんの態度は研修時とほとんど変わりませんでした。指示した入力作業は、気が向いたら着手してパソコンに向かうものの、集中力がもたない様子がありありとわかりました。1時間もすると飽きてきて、ポケットからスマホを出してゲームをしたり、イヤホンで音楽を聴いていたりする有様です。

悩む会社員
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注意したらデスクを蹴って威圧される

当然、木村さんはそういった態度を見せる度に何度も注意しましたが、反抗的な態度をするだけでなく、自分の父親の威光を背景に「木村さんにハラスメントされていることを父に相談したほうがいいですかねぇ……」などと、脅しめいたことを言うことさえありました。

欠勤や遅刻も多く、理由を聞くと「昨日も親戚のお葬式に行っていたんですよ、明日もなんでよろしく」などと、嘘とわかるような言い訳を平気でしていたそうです。木村さん以外の総務部の社員も、Pさんに言いたいことはたくさんあるようでしたが、Pさんの入社の背景を知っているため、本気で彼に忠告できる社員はおらず、見て見ぬ振りをしている状態でした。

木村さんも、Pさんの言動に過剰反応しないように気をつけていましたが、あるとき、急ぎの仕事ではあったのですが、あまりにPさんの入力ミスが多いので注意したことがありました。そのとき、Pさんは彼女のデスクを蹴り、机の上にあったボールペンを床に投げつけたそうです。たまたま他のスタッフがみんな出払っていたときで、職場には2人きりだったこともあり、とても恐ろしく感じたそうです。

その出来事があって以来、木村さんは出社すること自体が精神的に苦痛となり、テレワークをしていたということです。

部下には「素行障害」の疑いがあった

木村さんから相談を受けた筆者は当初、Pさんの言動やエピソードを聞いて、素行障害の疑いを持ちました。アメリカ精神医学会の『精神障害の診断と統計マニュアル』によると、素行障害は、①人および動物に対する攻撃性、②所有物の破壊、③虚偽性や窃盗、④重大な規則違反の4つの基準で診断されます。

4つの基準には全部で15の行動様式があり、Pさんはそのうち、「しばしば他人をいじめ、強迫し、または威嚇する」「故意に他人の所有物を破壊したことがある」「義務を逃れるためにしばしば嘘をつく」などの行動様式に該当していると思われます。

職場で素行障害が疑われる人がいる場合、上司や同僚はどのようなことに気をつけて対応すればよいのでしょうか。

素行障害には、動物虐待や傷害、放火、脅迫など犯罪になり得る行動様式も含まれますが、このような言動があれば職場だけで対応していくことは難しく、然るべき機関に相談する必要があります。

Pさんの場合は、木村さんを軽く見ているエピソードが多々あり、衝動性もあります。上司だからということで、彼女だけを彼の教育担当にしておくことは避けなければなりません。可能であれば、本人やその家族も含めてルールをつくり、違反をしたときの対応を全員で共有し、内容を書面にしておくとよいでしょう。

拳を握るビジネスマン
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素行に問題がある人への指導方法

素行障害の傾向を持つ人は、過去に問題児として扱われていたため、強がっていても自己肯定感が低いケースがほとんどです。したがって、職場における一般的な教育指導では、すぐに実行できる指示や課題を出し、実行したあとは評価してあげる機会を設け、成功体験を積ませるといった工夫が必要となります。

ただし、Pさんのケースは素行障害の特徴に加え、親の威光をふりかざすような特権階級意識も見られます。彼の場合は、自分の低い自己肯定感を親の権威で補っており、歪んだ万能感を持っている印象があります。たとえ新入社員であっても、Pさんのような人は、一社員である木村さん一人の手には負えず、社長などが介入する必要があります。

木村さんと面談したときは、このような原則的な対処法を説明したうえで、一人だけで教育を担当することは荷が重すぎることを、彼女の上司である部長、Pさんを入社させた社長などに相談するよう促しました。彼女が部長や社長に相談した結果、社長にも同席してもらった打ち合わせの場を設けることができました。

社長がとったさすがの行動

社長にはまずPさんの言動に素行障害の特徴があることを説明し、そのうえで、木村さん一人に任せている状態が続けば、彼女がストレスで倒れてしまう可能性があり、組織として対応すべき事由であると言うと、社長は少し驚いたようでした。

舟木彩乃『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(集英社インターナショナル)
舟木彩乃『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(集英社インターナショナル)

社長は研修時のPさんの様子も報告を受けていたので、Pさんに問題があることは当然理解していました。しかし、木村さんのようなベテラン社員から教わっていくうちに仕事にも興味が出てきて、徐々に問題行動も修正されていくだろうという希望的観測を持っていたようです。

社長には、木村さんがすでに出社が難しくなっていること、机を蹴るなどの木村さんに対する言動は一歩間違えば犯罪行為になること、場合によっては木村さんが怪我をする可能性もあり、そうなれば警察が介入する案件であることなどを伝えました。

さらに、このような勤務態度で問題行動を起こしていることは、Pさんの父親とも共有しておくべき内容であると説明すると、社長は安易に引き受けてしまった自分の責任でもあると言って、すぐに彼を木村さんの配下から外すこと、Pさんとその父親を交えて話すことを約束してくれました。

そして、木村さんの上司である総務部長と社長である自分が木村さんをフォローしなかったことを神妙な面持ちで謝罪し、その後すぐに約束を実行したということです。

その後、Pさんの上司兼教育担当から外れた木村さんは、大きなストレスから解放されました。Pさんは、今後のことを彼の父親を交えて話し合うまでは自宅謹慎ということになっており、木村さんはPさんと顔を合わせずにすんでいるそうです。

舟木 彩乃(ふなき・あやの)
心理学者
心理学者〈ヒューマン・ケア科学博士/筑波大学大学院博士課程修了)。博士論文の研究テーマは「国会議員秘書のストレスに関する研究」/筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻長賞受賞。メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長。官公庁カウンセラーでもあり、中央官庁や自治体での研修・講演実績多数。文理シナジー学会監事。AIカウンセリング「ストレスマネジメント支援システム」発明(特許取得済み)。国家資格として公認心理師、精神保健福祉士、第1種衛生管理者、キャリアコンサルタント技能士2級などを保有。Yahoo!ニュース エキスパート オーサ-として「職場の心理学」をテーマにした記事、コメントを発信中。著書に『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(集英社インターナショナル)や『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SB新書)他。

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