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13年前からの“大人気シリーズ”脚本家とGP帯ドラマ“初主演俳優”による新作、傑作誕生を予感させる秀逸な第1話

  • 2025.10.14

2025年10月9日(木)、フジテレビの新たな連続ドラマ『小さい頃は、神様がいて』の放送が始まった。

どこかで聞き覚えがあるフレーズだと感じた人も多いであろうそのタイトルは、『魔女の宅急便』でも使用された松任谷由実の名曲『やさしさに包まれたなら』の冒頭の一節から取られている。

ドラマ冒頭で語られる“小さい頃は神様がいると思っていたが、そうではないと、成長して気づく。神様は人を平等に扱っているのか”という内容のナレーションとともに、主人公の小倉渉(北村有起哉)とあん(仲間由紀恵)の幼少期から結婚にいたる人生を見せる冒頭は、甘酸っぱいノスタルジーを想起させるタイトルとは裏腹に、人生のほろ苦さとままならなさを突きつけてくる。本作は、まさに小さい頃にはいたはずの神様に見放されたかもしれない一組の夫婦の“終わりの始まり”を、コミカルかつ切なく描く物語だ。

子どもが20歳になったら離婚する

物語の主軸は、小倉渉とあんという一組の熟年夫婦。彼らにはかつて交わした約束があった。“子供が20歳になったら離婚する”。妻のあんにとって、それは絶望的な日常を生き抜くための唯一の希望であり、ゴールだった。一方で夫の渉は、そんな妻の真意にまったく気付かぬまま、悪気なく無神経な言動を繰り返す。朝食の時間だけでも、この夫婦がかみ合っていないことが伝わってくる。シンクに洗い物を溜めるだけで家事を手伝ったと思っている渉に対して、あんはそれだけで家事を手伝うことにはならないことを伝える。そうやって朝から手間を増やす渉のせいで、渉が「ごちそうさま」と言って食べ終えると同時に、あんは「いただきます」と言って食べ始めないといけない。こんな調子で一見平穏だけど、まったくかみ合わない夫婦の描写が続いていくのだ。

この“空気の読めないウザい夫”と、静かに怒りを溜め込み、来るべき解放の日を指折り数えてきた妻。そして彼らを取り巻く消防士の息子・順(小瀧望)と、映画監督志望の娘・ゆず(近藤華)を交えて、どこにでもいそうな家族の風景に潜む、静かで決定的な断絶が、物語の序盤から丁寧に描かれていく。

ウザイ夫のリアルを体現する北村有起哉

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北村有起哉 (C)SANKEI

特筆すべきは、本作が地上波ゴールデンプライム帯ドラマ初主演となる名バイプレイヤー、北村有起哉の芝居である。妻が淹れたコーヒーを味わうでもなく、食べ終わった食器をシンクに置きっぱなしにして、悪びれもせず出勤していく。家族の問題について真剣に話そうとする妻の言葉を、的外れな冗談で茶化してしまう。その一つ一つの所作が、恐ろしいほどのリアリティを伴って“ウザい夫”像を構築している。

渉は決して悪人ではない。むしろ家族を愛しているのだろう。だが、その根本的な鈍感さと自己中心性が、じわじわと妻の心を蝕んできたであろうことは想像に難くない。

彼の存在そのものが、“これは離婚したくなるな”という、あんの決意に揺るぎない説得力を与えているのだ。対する仲間由紀恵は、長年耐え忍んできた女の静かな怒りや鬱憤を見事に体現。感情を爆発させるのではなく、諦観にも似た落ち着きの中に、揺るぎない意志を秘めた瞳の演技が光る。

この小倉夫婦と対比をなすように、同じマンション『たそがれステイツ』の住人たちが物語に彩りを加える。1階に住むのは、地域活動にも精を出す優しい夫・永島慎一(草刈正雄)と、そんな夫に愛されていることを実感する妻・さとこ(阿川佐和子)のご夫婦。そして2階には、寄り添いながらささやかな幸せを育む若い同性カップルの奈央(小野花梨)と志保(石井杏奈)。三者三様の夫婦・カップルの形が、今後どのように交差し、互いに影響を与え合っていくのか、その対比構造に期待が膨らむ。

台風の日には何かが起こる

脚本を手掛けるのは、ドラマ『最後から二番目の恋』などで知られる岡田惠和。何気ない日常会話の中に人生の機微を映し出す、その手腕は本作でも健在だ。第一話の白眉は、その舞台設定の見事さにある。台風が接近する夜、川の氾濫を恐れた渉の提案で、マンションの全住人が3階の小倉家に避難してくる。期せずして開かれた即席のホームパーティー。人見知りの志保が作ったナチョスを囲み、ぎこちなく自己紹介を交わすうちに、住人たちの間には不思議な連帯感が生まれていく。この“台風の夜”という装置が、それまで交わることのなかった人々を結びつけ、物語を大きく動かす起爆剤として完璧に機能していた。

だが、台風が運んでくるものは、基本的に嵐だ。その嵐がこれからの物語の波乱を予感させる。停電の暗闇の中、そして台風一過の青空の下で、一時的な共同生活を送った住人たち。渉が「子どもが20歳になったら離婚するなんて言ってたこともありましたしね。」と笑い話にしたその夜、あんは静かに告げる。
「生きてるんだけどあの約束」。
スマホの画面に表示された“あと54日”のカウントダウンが、この物語の本当の始まりを告げた。離婚という夫婦の終わり、そのカウントダウンが始まった。渉のとっては人生の危機だが、あんにとっては離婚は希望だろう。危機と希望が夫婦間に交錯する。

離婚までの54日間で、彼らは何を見つけ、何を取り戻し、そして何を始めるのか。岡田惠和らしい、温かくもビターな大人のホームコメディの傑作誕生を予感させる、秀逸な第一話であった。


ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi