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新築戸建てを購入した30代夫婦→2年後、小6長女から悲鳴…リビング学習ブームの落とし穴【一級建築士は見た】

  • 2025.9.19
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「せっかく家を建てたのに、子どもが“家だと落ち着かない”と言って、図書館や友達の家に行きたがります……」

そう話してくれたのは、2年前に新築戸建てを建てたKさんご夫婦(30代)。小学校4年生と6年生、2人のお子さんがいる共働き家庭です。設計時には「家族が自然に集まれるように」と、リビング学習しやすい間取りのLDKを採用しました。

  • キッチン・ダイニング・リビングがひと続きの空間
  • 家事をしながら子どもを見守れる設計

「これで子どもも安心して勉強してくれるだろう」と思っていたそうですが、住み始めて、状況は理想とはかけ離れていました。

「テレビや弟の声が気になって集中できない」
「ずっと見られている感じがして落ち着かない」
「家だとやる気が出ないから、塾や図書館で勉強したい」

──お子さんたちから、こんな言葉が返ってくるようになったのです。

“見守りやすさ”と“居心地のよさ”は別物

リビング学習が広まった背景には、「親が近くで見守れるから安心」「会話や学びが自然に生まれる」といったポジティブなイメージがあります。リビング学習は、「親の目が届く」「学習習慣が身につく」といった理由で、教育界でも注目されてきたスタイルです。実際、多くの家庭で取り入れられていますが、一方で「うちでは逆効果だったかも」と感じる家庭も少なくありません。

一級建築士として実際のご相談を受けていると、「テレビの音が気になる」「親の目がストレスになる」といった声が非常に多いのです。こうした住環境の課題が、子どもの“家での過ごしにくさ”につながっている可能性があります。

また、「親に見守られている」ことが安心感につながるのは、小学校低学年頃まで。それ以降、特に思春期に入ると、「常に誰かに見られている」環境はプレッシャーやストレスとして作用します。

開放的なLDKが生む“逃げ場のなさ”

”広々とした空間に家族が集まり、自然な会話や時間の共有ができる──それ自体はとても良い考え方です。

しかし、Kさんご夫婦の家はリビング直結の階段や吹き抜け、そして全館空調によって部屋の扉に隙間を設けているため、どこにいても家族の気配が伝わってしまう構造でした。お子さんたちは、勉強だけでなくゲームやお絵かきなどの“自分時間”を持ちたがる年頃。それなのに、家のどこにも「一人になれる場所」がないことに、徐々にストレスを感じるようになっていったのです。

「2階に上がってもリビングの音が聞こえて集中できない」
(長女・小学6年生)

“開放的な家”が、“逃げ場のない家”に変わってしまった瞬間です。

「親子の距離感」こそ、設計で考えるべきこと

「子どもを近くで見てあげたい」「勉強を見守ってあげたい」──その気持ちは、親としてとても自然なものです。
けれども、「ずっと近くにいる=安心」とは限りません。

実際、Kさんもこんなふうに話してくれました。

「私たち夫婦も、ずっと同じ空間にいると息が詰まることがあります。
それなのに、子どもにだけ“いつも一緒にいよう”って押しつけていたのかもしれません」

家の中に「一人でこもれる場所」「そっとしておけるスペース」があると、子どもは安心感を覚えます。そして、その安心感があってこそ、リビングや家族との距離も心地よく保てるのです。

「家が好き」と思ってもらえる住まいを目指す

教育トレンドや間取りの流行に乗るのは悪いことではありません。ですが、それが「本当に自分たち家族に合っているか?」を見極めることが何より大切です。

  • リビング学習は、子どもの性格や家庭の生活スタイルに合っているか?
  • 子どもが成長したとき、“一人になれる場所”をちゃんと用意できているか?

これらの問いかけを、家づくりの最初から考えておくことが、「家が好き」「帰りたくなる」住まいづくりの第一歩になります。

親としてできる最大のプレゼントは、「居心地のよい家をつくること」。
そして、それは決して“広さ”や“おしゃれさ”だけではなく、子どもが安心して過ごせる“心の居場所”なのかどうかが大切なのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。