1. トップ
  2. 「妻が腰を痛めてから…」10年前、2階リビングの家を建てるも、50代夫婦を襲った“大誤算”【一級建築士は見た】

「妻が腰を痛めてから…」10年前、2階リビングの家を建てるも、50代夫婦を襲った“大誤算”【一級建築士は見た】

  • 2025.9.18
undefined
出典元:photoAC(画像はイメージです)

「日当たりが良くて、吹き抜けが気持ちいい」「2階リビングの方が耐震面でも安心」

30代のご夫婦から相談を受けたのは、まさに新築プランの打ち合わせ中でした。

近年、プライバシーやデザイン性の高さを理由に「2階リビング」を希望される若い子育て世代が増えています。道路からの視線が届かずプライバシー性に優れ、採光や通風の点でもメリットが大きい。1階にリビングを配置する場合に比べ、耐震面でも安心。

しかし一級建築士として数多くの家づくりと"その後"を見てきた立場から言わせてもらえば、この間取りは将来に備えた設計とは言いがたいものです。

多くの家族が「健康であるうちは快適」という視点で思考が止まりがちですが、問題は自分たちも年を重ねた10年後・20年後・30年後にどうなるかを見据えていないことにあります。

“階段のある生活”が将来の障害になる

実際に、相談に訪れた50代のご夫婦は、10年前に建てた2階リビングの家に悩みを抱えていました。

「妻が腰を痛めてから、2階への階段が本当に負担で…」「寝室もお風呂も全部2階。今は夫婦で支え合っているけど、これからが不安です」

こうした相談は決して珍しくありません。若い頃はなんでもなかった階段が、加齢やケガで“最大のバリア”になるのです。

特に2階にリビング・ダイニング・キッチン・風呂・トイレが集中している家では、1階に回避できる空間がなく、「1階にベッドだけ置いて、食事は2階で…」という不便な暮らしを強いられるケースもあります。

また、自分たちの老後だけでなく、親を引き取る可能性が出てきた時にも、この構造は壁になります。「母を呼び寄せたかったが、階段を上れないので断念した」と話す方もおられました。

間取り変更が難しく、リフォームコストも高い

「将来困ったらリフォームすればいい」という声も聞かれますが、2階リビングの間取りは構造上の制約が大きいため、気軽に手を加えられるものではありません。

たとえば、構造上重要な耐力壁が部屋を囲んでいると、間仕切りの撤去や拡張が難しくなります。また、水まわり(キッチン・風呂・トイレ)を1階に移すには、配管のやり直しが必要になるケースもあり、工事費が数百万円単位になることも珍しくありません。

実際に、「親を迎えるためにリフォームしたら、見積が500万円を超えてしまった」という相談もありました。

将来の変更が必要になる可能性があるなら、初めから可変性の高い構造を選ぶか、“1階完結型”の生活動線を確保しておくことが現実的です。

 “不動産価値が低下”するリスクも

住宅の価値は、築年数だけでなく「万人にとって住みやすいかどうか」にも大きく左右されます。

少子高齢化が進むなか、2階に水まわりやリビングが集約された間取りは「高齢者にとって不便な間取り」と見なされがちです。階段の上り下りが必須となる構造は、将来の購入希望者層を狭め、結果的に売却しにくくなるリスクがあります。

“流行の間取り”に惑わされず、長く住める家を

2階リビングがすべて悪いというわけではありません。しかし、それが「なんとなくオシャレだから」「今は便利そうだから」といった理由で選ばれると、将来的に大きな後悔につながる可能性があります。

本当に大切なのは、“人生100年時代”を見据えた住まいづくりです。1階に寝室・水まわりを配置して生活の基本動線を完結させる設計や、将来のリフォームがしやすい可変性の高い構造など、ライフステージの変化に寄り添う家であるかを判断基準にすべきでしょう。

「子どもが独立した後も」「親を迎えることになった時も」「老後もずっとこの家で」──そんな将来を見据えて「いま何を選ぶべきか?」を改めて考えてほしいのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。