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244万円の賠償命令判決も…!「飲食店の“無断キャンセル”って犯罪?」弁護士が詳しく解説

  • 2025.9.23
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出典:Photo AC ※画像はイメージです

近年、飲食店を悩ませる問題の一つが「無断キャンセル」です。特に物価高騰などの影響で厳しい経営環境が続く中、予約していたにもかかわらず連絡なく来店しない客の存在は、店舗にとって深刻な問題となっています。

SNS上で飲食店を営む方から「無断キャンセルしたお客さんの、次の予約を断ったらキレられた」といった趣旨の投稿がされ、「当然の対応だ」「店側にも権利がある」と話題になりました。

はたして、「無断キャンセル」は法的に問題ないのでしょうか?気になる疑問について、弁護士さんに詳しくお話を伺いました。

無断キャンセル客の「出禁」は合法?弁護士が詳しく解説

今回は、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

無断キャンセル客を“出禁”にするのは違法?

---無断キャンセルしたお客さんに対して、次の予約をすることを禁じるのは、違法性はありますか?

結論から言うと、違法性はないと考えられます。 これは、飲食店と顧客の関係が「契約の自由」に基づいているためです。具体的には、以下の理由が挙げられます。

1、店側には契約締結の自由がある
民法上、契約を締結するかどうかは当事者の自由です。飲食店は、どのような顧客と取引するか(契約を結ぶか)を自由に決めることができます。 無断キャンセルは、飲食店にとって損害を与える行為です。このような行為を行った顧客との新たな取引を拒否することは、事業主としての当然の権利であり、法的に問題となることはありません。

2、店側は損害回避のための措置を採ることができる
飲食店が、無断キャンセルを繰り返す顧客を「ブラックリスト」のような形で管理し、次回の予約を拒否することは、将来の損害(再び無断キャンセルされること)を回避するための合理的な経営判断と見なされます。

3、「公共性の有無」に注意
鉄道、電力、ガスなどの公共事業者は、正当な理由なくサービスの提供を拒否することはできません。しかし、飲食店は公共事業ではないため、特定の顧客との取引を拒否することに法的な規制はありません。

ただし、人種、性別、信条などを理由にした拒否は違法です。特定の属性を持つ人々を差別的に扱うことは、人権侵害にあたる可能性があり、法的な問題に発展する可能性があります。あくまで「過去の無断キャンセル」という、その顧客の行動に基づいた判断であることが重要です。

また、拒否理由の伝え方にも注意が必要です。「あなたは過去に無断キャンセルしたので、予約をお断りします」と明確に伝えることは、トラブルを避ける上で有効です。曖昧な表現だと、顧客が不当な扱いだと誤解し、SNSなどで炎上するリスクがあります。

---きちんと、あなたの過去の行動がこの結果を生んだのだと伝えるのが良いのですね。

無断キャンセルすることは法的にどんな問題が?

---無断キャンセルすることは違法ではないのでしょうか?

無断キャンセルは、民事上および刑事上の法的責任を問われる可能性があります。

1、民事上の責任(損害賠償請求)

・飲食店の予約は「契約」と見なされる
飲食店の予約は、口頭や電話、インターネット上で行われたとしても、法的に「契約」が成立したと見なされます。 この契約には、「指定された日時に指定された人数で来店し、飲食代金を支払う」という顧客側の義務(債務)と、「料理や席を提供する」という飲食店側の義務(債務)が含まれています。

・債務不履行による損害賠償責任が生じる
無断キャンセルは、この「来店する」という顧客側の義務を果たさない行為、つまり民法上の「債務不履行」に該当します(民法415条)。 飲食店は、無断キャンセルによって生じた損害(食材の廃棄費用、準備にかかった人件費、本来得られるはずだった売上など)について、顧客に損害賠償を請求する権利を持ちます。 多くの飲食店がキャンセルポリシーで「当日キャンセルは料金の100%」などと定めているのは、この損害賠償請求の範囲をあらかじめ定めているものです。

2、刑事上の責任(逮捕・罰金)
通常の無断キャンセルがただちに刑事罰の対象になるわけではありませんが、悪質なケースでは「偽計業務妨害罪」などに問われる可能性があります。

・偽計業務妨害罪
「人を欺き、または人の不知を利用して、業務を妨害する」場合に成立する犯罪です(刑法233条)。 具体的には、「最初から利用するつもりがなく、嫌がらせ目的で何度も大量の虚偽予約をする」といった行為が該当します。 実際に、ポイント目的で多数の無断キャンセルを繰り返した人物が、偽計業務妨害容疑で逮捕された事例も存在します。

・軽犯罪法違反
「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」に科料または拘留が科せられます(軽犯罪法1条31号)。 これも悪質な嫌がらせ目的の無断キャンセルが対象となる可能性があります。

244万円の損害賠償が命じられた例も

---「無断キャンセルをした客が訴えられた」という判例を教えてください。

栃木県那須塩原市の旅館複数軒による損害賠償請求訴訟が参考になります。

・事件の概要
千葉県に住むスナック経営者ら複数人が、栃木県那須塩原市の温泉旅館8軒に対し、宿泊予約の無断キャンセルを繰り返しました。 旅館側は、これらの悪質な無断キャンセルによって生じた損害(予約が埋まっていたことによる機会損失、準備にかかった費用など)の賠償を求めて提訴しました。

・裁判の経緯と判決
訴えられた被告のうち1人は、口頭弁論を欠席し、原告の主張を認める「自白」が成立しました。 裁判所(宇都宮地裁)は、旅館側の主張を認め、被告の男性1人に対し約244万円、別の男性1人に対し約34万円の損害賠償の支払いを命じる判決を下しました。 旅館側が請求した損害額は約280万円でした。

(宇都宮地裁令和2年9月23日判決)

---キャンセル前提で予約をしない、万が一キャンセルせざるを得なくなったら連絡を入れる、などが重要ですね。

契約の自由と責任を理解した上でのマナーが大切

悪質な無断キャンセルについては、実際に高額な損害賠償が命じられた判例も存在します。

一方で、病気や急な仕事など、やむを得ない事情でキャンセルせざるを得ないケースもあります。そのような場合は、できるだけ早めに連絡を入れることで、店側も別の対応を検討できるでしょう。

無断キャンセルは、店舗や施設に大きな実害をもたらす迷惑行為です。事前にきちんと連絡を入れることが、法的トラブルを防ぐ鍵になるでしょう。


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