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精神科病棟で「薬を減らす」と言ったのに翌日「やっぱり維持で」コロコロ変わる医師の方針に看護師が直談判→その結果…

  • 2025.9.23
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出典:Photo AC ※画像はイメージです

こんにちは、現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科病棟で働いていると、薬の内容や治療方針が少し変わるだけで、患者さんやご家族の心が大きく揺さぶられる場面に出会います。医学的には必要な調整であっても、その説明のされ方ひとつで「安心」にも「不安」にもつながってしまうのです。

今回ご紹介するのは、双極性障害の症状悪化で入院していた患者さんのエピソードです。退院を見据えて薬の調整が行われていたのですが、主治医の方針が日によって変わることで、本人もご家族も、そして看護師である私たちスタッフも揺れ動く出来事でした。

指示が変わるたびに募る混乱

ある日、双極性障害の症状悪化で入院していた40代の男性患者Aさんの回診で、主治医B先生が言いました。

「ちょっと落ち着いてきてる感じだし、退院に向けて気分安定薬を減量してみましょう」

看護師である私はその内容をAさんに伝えました。ところが翌日、B先生からはこう言われたのです。

「いや、やっぱり減薬はなし。しばらく維持で」

そのことを再度Aさんに説明すると戸惑い、私にこう話しました。

「昨日と言ってることが違うじゃないですか…」

その表情には、言葉では表しきれない不安がにじんでいました。

家族の募る不信感と看護師たちの戸惑いと葛藤

さらに混乱はご家族にも及びました。面会の際に、強い口調でこう問われたのです。

「結局どうなってるんですか?退院できるんでしょうか?薬ってこんなコロコロ変わって大丈夫ですか?」「前退院した時もすぐに調子崩して、心配です」

治療が揺れていると感じると、安心して任せられなくなるのは当然のこと。説明が一致しないことが、不信感や退院後への不安を一層強めてしまうのだと痛感しました。

病棟のスタッフ間でも、ため息混じりの声が漏れます。

「昨日は減量だったのに、今日はやっぱり維持って…」「指示どおりに動いたのに、また逆になると正直しんどいね」「毎回Aさんにも、家族にもなんて説明したらいいのかわからなくなる…」

看護師は医師の言葉をそのまま伝えるだけでなく、意味をかみ砕いて安心につなげる役割を担っています。そのため、頻繁に変わる指示に対して私たち看護師も戸惑いと葛藤を抱えていました。

声をあげて、医師からの丁寧な説明。それでも取り除けない不安感

スタッフが師長を通して医師に申し入れた結果、確かに以前よりは指示の共有が丁寧になりました。カンファレンスの場でB先生はこう説明しました。

「治療方針が迷走しているわけではありません。ただ、Aさんの細かな変化とか副作用に合わせて微調整をしているんです。その意図を、これからはご本人、家族にもしっかり伝えていきます」

説明を聞いた瞬間、ある看護師は安堵した表情を浮かべました。

「なるほど…理由が分かれば伝えやすいですね」そう言いながらも、小声で「でも、頻回に変わるのはAさんにとって不安だよね」とつぶやいたのが印象的でした。

その後、家族への説明の場も設けられましたが複雑そうな表情でこう漏らします。

「説明を受ければ納得はできます。でも今日もお薬変わったのかな?って毎日揺らぐのは正直しんどいです」

Aさん本人も同じでした。

「先生からの説明を聞いて少し安心はしました。でも昨日は減らすって言われたのに、今日はこのままって…。安心したいけど、また変わるかもって考えると不安です」

確かに丁寧な説明で少しの安心感はありました。しかし、患者さんとご家族が揺さぶられ続ける現実とそれを支えながら翻訳し続ける看護師の苦しさは、簡単には解消されませんでした。

そのため私は、不安を抱えるAさんの声に耳を傾け続けました。小さな疑問や気持ちを受け止めながら、医師からの細かな情報を共有し、必要に応じて直接説明してもらうよう働きかけました。そうした積み重ねこそが、揺らぐ日々の中でAさんとご家族の安心を少しずつ支える方法だと感じています。

医師の判断と看護師の翻訳者として一貫性のある言葉が、安心をつくる

治療方針が変わるのには医学的な理由があります。しかし、それをそのまま伝えるだけでは、患者さんやご家族の安心にはつながりません。精神科看護の現場で改めて実感したのは、言葉の一貫性こそが患者さんの心の安定と治療の継続を支えるということです。

看護師は「翻訳者」としての役割を担います。不安をすぐに取り除くことはできませんが、「なぜ変わったのか」「どういう意味があるのか」「今後どうなるのか」をかみ砕いて伝えることで、少しでも安心して受け止めてもらうことができます。

医学的には柔軟な判断が必要でも、患者さんやご家族にとっては「昨日と今日で話が違う」ことが大きな不安になります。だからこそ、看護師はその橋渡し役として寄り添い続ける必要があるのです。揺れる方針に翻弄された今回の出来事は、「正しい情報を伝える」だけでなく、「安心して受け止められる言葉で伝える」ことの重要性を、私に強く教えてくれました。



ライター:こてゆき
精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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