「佇まいから魅力」大ヒット中『グラスハート』物語を支える陰の存在感…“甘いルックスに頼らない”変幻自在な俳優

1993年の連載開始から今なお読み継がれる若木未生の青春音楽小説『グラスハート』。これ以上ないほどピュアで、最高にエモーショナルな物語は、30年の時を経てついにNetflixで映像化された。主演の佐藤健が企画から携わり、共同エグゼクティブプロデューサーを務める渾身の一作だ。孤高の天才ミュージシャン・藤谷直季（佐藤健）によって結成された新バンド「TENBLANK」。そのキーボード担当が、志尊淳演じる坂本一至だ。冷静な物腰と深い音楽愛をあわせ持ち、藤谷とは違う形で天才性を放つ存在である。

坂本一至という職人ピアニストの存在感

物語は、バンドを理不尽な理由でクビになった大学生・西条朱音（宮﨑優）が、孤高の天才ミュージシャン・藤谷直季（佐藤健）にスカウトされ、新バンド「TENBLANK」のドラマーとして再出発するところから始まる。音楽を通してぶつかり合い、支え合う4人の姿が、熱量たっぷりに描かれる。

キーボードを担当するピアニストの坂本一至は、いわゆる「派手な天才」ではない。どちらかといえば、演奏の奥に情熱を秘めた職人肌のミュージシャンだ。音楽に対してはストイックで、ときに人を寄せつけない空気を漂わせる。朱音に対しても当初はつっけんどんで、バンド仲間として受け入れるまで時間がかかる。

しかし物語が進むにつれ、一至は朱音のひたむきさや音楽性に惹かれ、少しずつ歩み寄る。その過程に派手なドラマチックさはなく、まるでピアノの弱音のように静かで、しかし確かな温もりを伴っていた。志尊は、この心の距離感の変化を極めて繊細に演じている。観る者に「この人は信じられる」と思わせる不思議な引力がある俳優だ。

多彩な役柄で培った演技力の真価

志尊淳といえば、その変幻自在な役作りで知られる俳優だ。2018年の『女子的生活』ではトランスジェンダー女性を演じ、違和感のない自然な芝居が高く評価され、文化庁芸術祭テレビドラマ部門放送個人賞を受賞。朝ドラ『半分、青い。』ではゲイの青年ボクテ役でお茶の間に親しまれ、『HiGH&LOW THE WORST』では荒々しい不良リーダーを熱演。『恋は闇』では怪しさと誠実さを同居させるフリーライターを演じ、観る者を翻弄した。

彼の強みは、甘いルックスに頼らず、役によって雰囲気や佇まいを大きく変えられることだ。センシティブな役では入念なリサーチをおこない、『52ヘルツのクジラたち』ではトランスジェンダー監修者と二人三脚で役を作り上げたという。

現場では、本作に俳優としても出演していて、脚本の段階からトランスジェンダーをめぐる表現を監修いただいている若林佑真さんと、二人三脚でアンさんを作り上げていきました。全シーン、全セリフ、すべてに一緒に向き合ってくれ、背中を押してくれたことで、安心して役に臨むことができましたし、僕も悔いがないようにこれ以上ないというところまで考え抜いて演じ切ることができたと思っています。映画『52ヘルツのクジラたち』公式コメントより

坂本一至役においても、志尊はその経験値を存分に活かしている。音楽への愛と執着、仲間への信頼とためらい。相反する感情を、微細な表情変化や視線の動きで表現する。セリフの間や声色のわずかな変化が、一至の人間像を立体的に浮かび上がらせている。

『グラスハート』で輝く静かなる支柱

TENBLANKのなかで、一至は演奏面だけでなく精神的な支柱でもある。直季の天才的な感性にときに苛立ちながらも、音楽の完成度を高めるために支える。その姿は、派手なカリスマ性よりも「職人の信念」に近い。志尊は、この控えめだが確固たる存在感を、力みなく演じ切っている。

また、朱音との距離感の変化は物語に温度差と陰影を与える。志尊の芝居があることで、『グラスハート』はただの音楽青春物語にとどまらず、人間関係の機微を丁寧に描く群像劇として成立している。

 

『グラスハート』での志尊淳は、これまでのキャリアで培ってきた繊細な感情表現と芯の強さを両立させ、坂本一至というキャラクターを魅力的に立ち上げている。彼の演技は、派手な盛り上げではなく、静かに燃える炎のように物語を支え、視聴者を引き込む。SNS上でも彼の演技については「後半の志尊くんメロすぎ」「佇まいから魅力ある」と評価が高い。

バンドという集合体のなかで光る「陰の役割」。その重要性を示すと同時に、志尊淳という俳優の幅広さと深みをあらためて感じさせる。

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『グラスハート』Netflixにて独占配信中
［出演］佐藤健、宮﨑優、町田啓太、志尊淳、菅田将暉、唐田えりか、髙石あかり、竹原ピストル、YOU、藤木直人

ライター：北村有（Kitamura Yuu）
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X（旧・Twitter）：@yuu_uu_