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なぜ今、映像化?「NHKすごい企画ぶち込んできた」「地上波でも放送して」60年前の名作小説 “初めて”の実写ドラマ化

  • 2026.7.10
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森山未來(C)SANKEI

丸谷才一が1966年に発表した不朽の名作『笹まくら』が、60年の時を経て映像化される。2026年夏、NHK特集ドラマとして放送される本作は、戦時中に徴兵を忌避し、戦後もなお“逃げ続ける”男・浜田庄吉の内面を描く異色作だ。SNS上では「地上波でも放送してほしい」「NHKすごい企画ぶち込んできた」と期待の声も。主演・森山未來が、この目に見えない傷跡をどう体現するのか注目したい。

原作ファンが注目する“意識の流れ”をどう描くか

『笹まくら』は、丸谷才一が1966年に発表した長編小説である。主人公は、私立大学の課長補佐として平穏に暮らしている45歳の男・浜田庄吉(森山未來)。しかし、ある日届いた一通の訃報をきっかけに、彼が心の奥底に封印してきた戦時中の記憶が蘇っていく。

20歳だった庄吉は、太平洋戦争のさなか、軍隊内のいじめで友人を失ったことを機に、徴兵を忌避するという重大な決断を下した。国家に従うことが当然とされた時代に、兵役から逃げることは非国民扱いされるのと同義で、社会から外れることを意味した。庄吉は名前を変え、恋人・阿貴子(堀田真由)に支えられながら、息を潜めるように逃亡生活を続ける。

この物語が映像化されるにあたり、原作ファンが注目しているのは、その独特な構成をどうドラマに落とし込むのかという点だ。原作では、大学職員として生きる戦後の現在と、徴兵忌避者として逃げ回っていた戦中の過去が、滑らかに、時に唐突に交錯する。日常の何気ない場面に、過去の記憶が割り込んでくる。その落ち着かなさこそが、庄吉の心そのものだった。

つまり『笹まくら』は、出来事を順番に並べれば成立する物語ではない。庄吉にとって、戦争は終わった過去ではない。現在の生活の隙間から、何度も染み出してくるものだ。だからこそ、映像化には大きな挑戦が伴う。

森山未來が演じる“逃げ続けた男”

浜田庄吉は、戦争に抗った人物ではあるが、声高に正義を叫ぶ革命家ではない。彼はただ、軍隊に行くことを拒み、名前を変え、恋人の助けを借りながら、生き延びた男である。

しかし生き延びたことは、そのまま救いにはならなかった。戦争が終わり、世の中が変わっても、庄吉の身体には逃亡者としての緊張が残り続ける。いつ正体が暴かれるか分からない恐怖。国家から逃げたという記憶。非国民と呼ばれた過去。そして、平和になったはずの戦後社会でも、彼はなお居心地の悪さを抱え続ける。

この難役を森山未來が演じることには、大きな説得力がある。

森山は言葉だけでなく、身体そのもので人物の内面を語れる俳優である。ダンサーとしても活動してきた彼は、呼吸、姿勢、歩き方、目線の揺れといった細部に、役の人生を宿すことができる。『モテキ』で見せた不器用で愛らしい男性像から、『怒り』での底知れない不穏さ、『アンダードッグ』での身体を削るような表現まで、その振れ幅は非常に広い。

庄吉に必要なのは、平静を装う日常に、過去の恐怖や自責、社会への違和感がふっと漏れ出すような表現ではないだろうか。森山なら、その“目に見えない傷跡”を、わずかな身体のこわばりや沈黙で見せてくれるはずだ。

今『笹まくら』を映像化する意味

『笹まくら』が描くのは、戦争そのものの悲惨さだけではない。むしろ本作が鋭く見つめるのは、戦争が終わったあとも残り続ける社会の圧力である。
戦時中、徴兵忌避は国家への裏切りと見なされた。庄吉は、兵隊にならなかった男として、社会から外れた存在になった。しかし戦後になると、価値観は一変する。かつて国家に従うことが正義だった時代は終わり、戦争の存在意義そのものが問い直されるようになる。

それでも、庄吉は自由になれない。
戦中には非国民として追われ、戦後にはまた別の形で過去を問われる。社会の正しさは時代によって変わる。しかし、そのたびに個人は新しい同調圧力にさらされる。『笹まくら』の怖さは、まさにそこにある。

このテーマは、2026年の現代にも強く響く。戦争をどう語るか。国家と個人の関係をどう考えるか。周囲と違う選択をした人を、私たちは本当に尊重できているのか。SNSや世論によって“正しさ”が瞬時に共有され、異なる立場の人が簡単に断罪される今だからこそ、『笹まくら』の問いは古びていない。

『笹まくら』は、戦争を“過去の悲劇”として閉じ込める作品ではない。戦争が終わっても、国家や社会に傷つけられた人間の身体には、その記憶が残り続ける。浜田庄吉は、戦時中を逃げ延びた男であると同時に、戦後の社会でも逃げ続ける男だ。

そんな複雑な人物を、森山がどう演じるのか。青木柚、堀田真由、川栄李奈ら実力派キャストが、その人生にどんな奥行きを与えるのか。60年越しの初映像化となるNHK特集ドラマ『笹まくら』は、この夏、私たちの胸に静かだが鋭い問いを残す一作になりそうだ。


出典:NHK特集ドラマ『笹まくら』制作開始のお知らせ

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_

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