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朝ドラで視聴者の心をつかんだ“印象的なワンシーン”「息は止めて観ました」「いい回だった」星空に重なる“ふたりの答え”

  • 2025.8.1
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『あんぱん』第18週(C)NHK

朝ドラ『あんぱん』が描くのは、たしかに「幸せ」だ。しかしそれは、ただ穏やかな笑顔の連続ではない。遠距離恋愛の寂しさ、家族との軋轢、経済的不安……すべてを抱えたうえで、それでも「ふたりで歩いていこう」と決めたのぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)の姿が、第18週でいっそうリアルに浮かび上がった。

※【ご注意下さい】本記事はネタバレを含みます。

会えない時間の重さと奇跡

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『あんぱん』第18週(C)NHK

第86話では、のぶと嵩が想いを確かめ合ってから3ヶ月が経過。薪鉄子(戸田恵子)の選挙運動で高知に戻ってきたのぶに、嵩と話すため許された時間はたったの30秒。再会を喜ぶ間もなく、ふたりは再び遠距離に引き裂かれてしまう。

さらに2ヶ月後、東京のガード下で嵩が突然のぶの前に現れる。この映画のワンシーンのような展開に、心をつかまれた視聴者も多かったのではないだろうか。嵩は高知新報を辞め、自分自身を「記者失格だった」と語るが、その本音はやはり、のぶとともに生きていくための決意だ。

東海林編集長(津田健次郎)の「のぶと一緒になるためやろ」という指摘に、嵩は言葉少なに頷き、岩清水(倉悠貴)や琴子(鳴海唯)たちは「うやらましい」「この幸せ者」と背中を押す。

嵩とのぶは、編集長の言葉を胸に「逆転しない正義とは何か」を探しながら、ふたりで歩いていくことを誓う。この場面は、第59話で嵩の父・清(二宮和也)が語った「何十年かかったっていい。あきらめずに、作り続けるんだ」という言葉とも響き合い、やなせたかしの人生とも美しく重なる。

長屋の天井に穴があいていても、笑い合える幸せ

嵩の母・登美子(松嶋菜々子)が、のぶの住む家に押しかける。息子の将来を案じ、定職に就くように求める登美子に、のぶは「嵩さんは東京で漫画を描きたいそうです」と静かに、しかし揺るぎなく返す。その言葉は、薪鉄子からの「就職先はどうするの?」という問いにも同じように返されていた。

だが、視聴者は見ている。嵩が高知を去るとき、「のぶと一緒になるために辞めた」と編集長に指摘され、それを否定しなかったことを。もちろん、のぶの前で語った「漫画を描きたい」も本音だろう。けれど、それが彼の“第一目的”だったかどうかは微妙なところだ。

ふたりが引っ越してきた中目黒の長屋、お手洗いの天井に穴が空いてしまっていて、雨漏りまでしてしまう。嵩がびしょ濡れで帰宅し、のぶが笑いながら髪を拭いてあげる場面は、あまりにもささやかで、けれど確かな幸せに満ちていた。

その後、朝田家や柳井家の女性たちが集まり、ふたりの結婚祝い会が開かれる。にぎやかに盛り上がるなか、ふと天井の穴を見て「のぶが気の毒だ」と口にする登美子。しかし、のぶはこう答える――「私は幸せです」。

華やかさも、便利さも、世間的な成功もないかもしれない。でも「好きな人と暮らせている」ことだけが、今ののぶにとっての“豊かさ”なのだ。その価値観は、まさに“あんぱん”的。なかにぎゅっと詰まった真心こそが、本作のエッセンスなのだろう。

星を見上げながら、ふたりしてあるく

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『あんぱん』第18週(C)NHK

祝宴のあと、嵩がそっと席を外す。のぶは彼のあとを追い、ふたりで星空を見上げる。天井の穴から見える星は、まるで「不完全な世界」に差し込む一筋の希望のようだ。SNS上でも「とりあえず息は止めて観ました」「いい回だった!」と賛辞が溢れる。

完璧な夫婦じゃなくていい。裕福じゃなくていい。過去に痛みがあっても、未来が見えなくても、「いま、あなたと一緒にいたい」と思えることが、どれほど尊く、難しいことか。

「ふたりしてあるく 今がしあわせ」――それは、どんな状況でも、笑って支え合えるふたりであること。それこそが、やなせたかしが描いた「ヒーロー」の原点であり、本作が私たちに届けたい“しあわせ”の形なのだと思う。


連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_