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“FIRE”志望の高校生「タイパが悪い」「無駄な支出」“青春は贅沢”→前作と対照的な主人公像『ちはやふる-めぐり-』

  • 2025.8.1

末次由紀の同名人気マンガを原作とし、大ヒットを記録した映画『ちはやふる』3部作。その続編となる、新たな時代の空気感をまとったオリジナルストーリー『ちはやふる-めぐり-』がテレビドラマとして展開中だ。

舞台は令和。前作の登場人物も出てくるが主要キャストは一新。一新されたのはキャストだけでなく、価値観もだ。競技かるたの畳の上で繰り広げられる息詰まる攻防、その熱量は前作と何ら変わらない。しかし本作は、競技かるたに情熱を注ぐ青春ドラマに留まらず、現代を生きる若者たちにとって“青春に熱くなる”ことそのものの意味を問いかける、野心的な作品となっている。

※【ご注意下さい】本記事はネタバレを含みます。

令和に青春は贅沢なのか、現代的な価値観を反映した主人公像

本作の主人公は、藍沢めぐる(當真あみ)。彼女はアルバイトと投資によって経済的自立と早期退職、いわゆる「FIRE」を目指す、極めて現代的な高校生だ。部活動は「タイパが悪い」と切り捨て、カラオケすら「無駄な支出」と断じる彼女にとって、汗と涙を流す青春は理解の範疇を超えた世界に見えている。

前作の主人公たちが集った瑞沢高校かるた部のように、情熱の渦中にいた者たちを、めぐるは「青春セレブ」と呼び、どこか冷めた視線を送っている。その根底には、中学受験の失敗を親に「金の無駄」と嘆かれた苦い記憶がある。

そのためにめぐるは、「私にはもったいない気がして。青春が」と思っているのだ。高校時代は3年間しかない、どんなに頑張ってもその頑張りを卒業後に引き継げるような人生をおくれるのは、一握りしかいない。だったら、高校時代から投資とアルバイトに明け暮れた方がコスパがいい。それがめぐるの心情だ。

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『ちはやふる-めぐり-』第1話 (C)末次由紀・講談社/NTV

努力が必ずしも報われるとは限らない現実を知る世代にとって、一つの物事にすべてを懸けることは、あまりにリスクの大きい「贅沢」に映るからかもしれない。

本作は、そんなめぐるが青春を熱く過ごすことの意味を考えるところから始まる物語だ。自ら競技かるた部の設立に奔走した前作の主人公・千早(広瀬すず)とは対照的に消極的な姿勢が目立つめぐるだが、心の底にあるふつふつとした思いに火がつけられている過程が丁寧に描かれている。

本作は、そうした現代の若者が抱える課題意識を提示する一方で、“スポーツとジェンダー”という普遍的なテーマにも踏み込んでいる。第3話で描かれた村田千江莉(嵐莉菜)のエピソードがそれだ。

小さい頃から野球部のピッチャーだった千江莉だが、高校生となって男子との体格差という、努力では覆しがたい壁にぶつかり、野球を諦める。しかし、年齢も性別も関係なく、誰もが畳の上で対等に戦える競技かるたの世界に、彼女は新たな光を見出すのだ。

本作は、情熱を注ぐ対象を見失った者が、再び立ち上がるための受け皿として、競技かるたの持つ可能性を力強く描き出している。

生徒だけじゃない、教師も成長するドラマ

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『ちはやふる-めぐり-』第2話 (C)末次由紀・講談社/NTV

本作の物語は、めぐるたち生徒の視点だけで進むわけではない。もう一人の主人公とも言うべき存在が、競技かるた部顧問の大江奏(上白石萌音)だ。かつて瑞沢高校で全国の舞台を経験した彼女もまた、めぐるが言うところの「青春セレブ」の一人であった。

しかし、10年の時を経て、彼女は臨時採用の教師という不安定な立場にあり、「なりたい自分」になれていないという焦燥感を抱えている。そんな奏に、めぐるは「先生は理想の自分になれたんですか」と、鋭くも純粋な問いを突きつける。この言葉は、過去の栄光にすがりかけていた奏の心に火をつけ、再び成長へと向かわせる起爆剤となった。そして、生徒を教え、導くはずの教師が、逆に生徒から学び、成長のきっかけを与えられるのだ。

奏はめぐるに「青春を熱く過ごした、いい人生がおくれるエビデンスになってほしい」と言われる。エビデンスなんて単語が出てくるあたりがめぐるらしいが、青春を熱く過ごすことは決して無駄じゃないことを証明するために、奏もまた頑張るのだ。この重層的な構造が、物語に奥行きを与えている。

懐かしい面々も登場、千早の本格登場はいつ?

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『ちはやふる-めぐり-』第1話 (C)末次由紀・講談社/NTV

前作からのファンにとって、オリジナルキャストの登場は大きな喜びだろう。奏のかつての仲間である西田優征(矢本悠馬)が、変わらぬ存在感で物語に厚みをもたらしている。彼らがそれぞれの形で今もかるたに関わり、後輩たちを導く姿は、シリーズを通して流れる時間の連続性を感じさせ、感慨深い。

そして何より、視聴者の期待を集めるのは、広瀬すず演じる前作の主人公・綾瀬千早の存在だ。第1話や第2話では、遠い地でかるたを教える姿や、瑞沢高校かるた部の写真の中に、その面影がちらりと映し出される程度の出番だった。奏にとって千早は「なりたい自分になった」人だ。彼女との再会は物語としても必須の要素だろう。そんな彼女が、いつ、どのような形で物語に本格的に合流するのか。その“めぐりあわせ”の瞬間が、本作の大きなクライマックスの一つになることは間違いないだろう。


日本テレビ系 『ちはやふる-めぐり-』毎週水曜よる10時

ライター:杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi