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「農場は生産の場であると同時に、居場所でもある」──インクルーシブな農業が生み出すオーガニックな緑茶【サーキュラーキッチン】

  • 2025.6.24

障害者とともに50年営んできた農場

鹿児島県の大隅半島にある「花の木農場」では、東京ドーム5つ分もの広大な敷地で、現在約100名の障害者と支援スタッフ約30名がともに農業を営んでいる。創設は1975年。「農福連携」という言葉もまだなく、経済成長期の只中で障害者に対する社会の理解も不十分だった時代に、中村の両親が立ち上げた。中村の叔父、つまり父の兄弟の一人に軽度の障害があったことも背景の一つだ。以来50年に渡り、障害者がいきいきと暮らし働き、生きる喜びを感じる場としての農場を運営し続けている。

利用者の障害の程度や個性もさまざまだ。「花の木農場」では一人一人の特性に寄り添い、農作業を割り当てる。機械を運転できる利用者もいれば、チームワークで軽作業を行える利用者もいる。複雑な作業は、工程を単純作業のレベルまで分解して分担する。個々のできることを組み合わせれば、多くの作業が可能となる。利用者が参加できることに価値をおき、仕事を設計しているのだ。

一方、集中力が続かないなどの理由で農作業に参加できない利用者にとっても、農場は重要な場所だ。

「直接農作業に加わらなくても、農場の中で散歩しながらなんとなくその場に溶け込んでいたりするんです。居心地のよい居場所を見つけることで、反社会的な行動をしなくなるケースも見られます。この農場は生産の場であると同時に、居場所でもある。この包容力が農業の力だと思います」と、幼い頃からこの農場で多くの時間を過ごしてきた中村は言う。

多様な人々が農業をフィールドに、居場所と役割をシェアしながら生きる。それが「花の木農場」のコミュニティの姿だ。

オーガニックの緑茶栽培やアニマルウェルフェアに配慮した養豚

「花の木農場」の現在の主力生産品は、緑茶と豚肉、およびハムやソーセージなどの加工品だ。約7ヘクタールの茶畑のうち2割は有機JAS認定を受けており、東京オリンピックを機にASIAGAPの認証も取得し、その品質は折り紙つき。現在はノウフクJASの取得にも取り組んでいる。また、海外での需要を鑑み、今後は煎茶に加え抹茶の生産にも注力する予定だ。オーガニックかつダイバーシティや福祉と結びついた社会的意義を含む茶葉は、海外ではより大きなインパクトをもって迎え入れられる可能性が高い。

年間約3000頭を出荷している養豚にも、この農場だからこそできる強みが生きている。一般的には豚舎の清掃や給餌は機械で行われることが多いが、「花の木農場」では利用者がそれらの業務を担っている。「細かいことに気づき、作業が丁寧。そんな強みを持っている人が多いんです」と、人の手で隅々まで清潔に保たれた豚舎は元来きれい好きである豚のストレスを軽減し、給餌の際に人の目で行う健康チェックによって、生育状態や異変の兆候もきめ細かく管理できる。アニマルウェルフェアの観点でも優れた取り組みだと言える。

生産性や効率化が重視される収穫量・売上という側面だけで農業をやっているわけではない、と中村は語る。

「“障害者の存在を認める”ということがまずあり、その活動の場として農業との親和性を大事にしているのです。しかし同時にしっかりと市場性のあるものを生産することも欠かせません。認証などによって付加価値を高めることは、障害者の社会的な存在感を向上させることにもつながると考えるからこそ、取得にも力を入れています」

地域全体が地域の人々に伴走していく共生社会へ

中村はこれからの50年、人口減少が進む大隅半島で「花の木農場」を続けていくにあたり、この農場の価値観に共鳴するより多くのパートナーシップを模索している。多様な人々が垣根を超えて社会へ参加することへの重要性が高まる中、花の木農場を子どもたちが共生社会を学んでいく教育の場としても活用するため、地域の教育委員会との連携も進めている。ここ数年は移住者の雇用や、若い地域おこし協力隊メンバーなどとの交流も増えてきた。

「地域コンソーシアムのような場に障害者や福祉の視点が入ることで、皆さんの地域への捉え方が変化する手応えを感じています。この農場を続けていくことは、決して障害者のためだけではない。施設職員でなければ支援できないということではなく、地域全体が地域の人々に伴走していくという関わり方が大切ではないでしょうか。職業上での関わりだけでは隙間が生じます。そこを補完する二重三重の多様なセーフティネットが地域にあることは、障害者に限らず、地域の暮らしやすさや持続可能性につながるのではないかと思います」

農場が示すのは、農福連携や障害者の社会参加の在り方だけではない。すべての人々が互いを認め、許容し、支え合いながらともに生きていこうとするインクルーシブな社会のモデルだ。その真ん中に農業という、誰もが生きる上で不可欠な「食」の生産現場がある。互いの命を育み合おうとする関わり方こそ、この農場が教えてくれるものなのだ。

Photos: Takeru Aotani Text: Maiko Morita Special Thanks: Emi Sugiyama Editor: Mina Oba

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